組織再編とは?4つの手法とメリット・成功のポイントを解説

事業環境の変化が激しい現代において、企業の成長戦略として組織再編を検討する場面が増えています。しかし、具体的にどのような手法があり、どう進めればよいのか、従業員への影響はどうなるのか、不安を感じる経営者や人事責任者の方も多いのではないでしょうか。本記事では、組織再編の基本から4つの代表的な手法、そして成功に導くための実践的なステップまでを解説します。

組織再編とは何か

組織再編を検討する前に、まず基本的な定義や関連用語との違いを正しく理解しておくことが重要です。ここでは組織再編の法的な位置づけや、混同されやすいM&A、組織変更との違いについて解説します。

組織再編の定義と会社法における位置づけ

組織再編とは、企業が事業戦略の見直しや経営効率の向上を目的として、組織の構造や事業部門を再構築することです。

会社法では、「合併」「会社分割」「株式交換」「株式移転」を組織再編の代表的な手法として定めています。

これらの手法は、単なる社内の部署異動や人事配置の変更とは異なり、法的な手続きを伴う企業構造の変更を指します。

M&Aとの違い

組織再編とM&Aは密接に関連していますが、概念の範囲が異なります。M&Aは「合併と買収」を意味する広い概念で、企業の経営権や事業を取得する取引全般を指す言葉です。

一方、組織再編はM&Aの手法の一部として位置づけられます。具体的には、M&Aには組織再編の4手法に加えて、事業譲渡や株式譲渡なども含まれます。事業譲渡は会社法上の組織再編には該当せず、契約に基づく資産の売買取引として扱われます。

整理すると、組織再編は会社法で定められた特定の手法であり、M&Aはそれらを含むより広範な企業再編の総称ということです。どちらの用語を使うべきかは、文脈や具体的な手法によって判断する必要があります。

組織変更との違い

組織変更と組織再編も、混同されやすい用語ですが、会社法上は別の制度として明確に区別されています。組織変更とは、株式会社を合同会社に変更するなど、会社の種類そのものを変える手続きを指します。

組織変更は、株式会社と合同会社など異なる会社類型間での法的形態の変更を行う制度であり、通常は1社のみで完結します。一方、組織再編は基本的に複数の会社が関与し、企業グループ全体の構造を変える取引です。

たとえば、親会社と子会社を統合する場合は組織再編の「合併」に該当します。しかし、単独の会社が株式会社から合同会社に変わる場合は組織変更となります。このように、関与する会社の数と目的が両者の大きな違いといえるでしょう。

組織再編の4つの手法とそれぞれの特徴

組織再編には会社法で定められた代表的な手法があり、それぞれ異なる目的や効果があります。自社の状況や目指すゴールに応じて、最適な手法を選択することが成功の鍵となります。

合併

合併とは、2つ以上の会社が1つの会社になる手法です。合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。

吸収合併は、既存の会社が他の会社を吸収する形式です。存続する会社がすべての権利義務を引き継ぎ、吸収された会社は消滅します。多くの合併はこの吸収合併の形態で行われ、手続きが比較的シンプルな点が特徴です。

一方の新設合併は、複数の会社が消滅し、新たに設立した会社にすべての権利義務を承継させる方式です。対等な立場での統合を示したい場合などに選択されますが、新会社の設立手続きが必要となるため、実務上は吸収合併よりも複雑になります。

合併のメリットは、組織の一体化により意思決定がスピーディーになることや、重複部門の統廃合によるコスト削減が期待できる点です。ただし、企業文化の違いによる従業員の混乱や、統合作業の負担が大きい点には注意が必要でしょう。

会社分割

会社分割とは、会社の事業の一部または全部を他の会社に承継させる手法です。こちらも「吸収分割」と「新設分割」の2つの方式があります。

吸収分割は、既存の会社に事業を承継させる方式です。たとえば、不採算事業を切り離して別会社に移管する場合などに用いられます。事業ごとの採算管理がしやすくなり、グループ経営の効率化につながります。

新設分割は、新たに設立する会社に事業を承継させる方式です。特定の事業部門を独立させて新会社を設立したい場合に適しています。事業承継や事業再生の場面でも活用されることがあります。

会社分割の大きな特徴は、事業を丸ごと移転できる点です。事業譲渡と異なり、個別の資産や契約を移転する手続きが不要で、包括的に権利義務を承継できます。ただし、従業員の雇用関係にも影響するため、労働契約承継法に基づく適切な対応が求められます。

株式交換・株式移転

株式交換は、既存の会社を完全子会社化する手法です。子会社となる会社の株主が保有する株式を、親会社となる会社の株式と交換します。この手法により、現金を使わずに完全親子会社関係を構築できます。

株式移転は、新たに設立する持株会社の完全子会社となる手法です。複数の会社が共同で持株会社を設立し、その傘下に入ることで、グループ経営体制を構築します。対等な立場での経営統合を目指す場合に選択されることが多い方式です。

これらの手法は、事業そのものは移転せず、株主構成だけが変わる点が特徴です。各社の法人格は維持されるため、取引先との契約関係や許認可はそのまま継続できます。グループ経営の効率化を図りながら、各社の独自性を保ちたい場合に適した選択肢といえるでしょう。

ただし、少数株主への対応や株式の評価額の算定など、専門的な検討が必要となります。株主総会での特別決議も必要となるため、事前の丁寧な説明と合意形成が重要です。

組織再編を成功に導く5つの実践ポイント

組織再編の手法を理解したら、次は実際の実行段階です。どれだけ優れた戦略を立てても、実行プロセスでつまずいては成果を得られません。ここでは、組織再編を成功に導くための5つの実践的なポイントを解説します。

従業員への説明タイミングと伝え方を工夫する

組織再編において最も重要なのは、従業員への丁寧なコミュニケーションです。説明のタイミングを誤ると、不安や不信感が広がり、組織の混乱を招きかねません。

基本的には、取締役会決議の1〜2ヶ月前から段階的に情報を共有し、法的手続きの開始と同時に全従業員への正式発表を行うことが望ましいでしょう。

ただし、機密保持が必要な場面もあるため、公表できる情報と時期を慎重に判断する必要があります。

説明の際は、再編の目的や今後のビジョンを明確に伝えることが大切です。従業員の雇用や処遇がどうなるのか、具体的な影響について率直に説明しましょう。不確定な情報でも、現時点で決まっていることと検討中の事項を区別して伝えることで、信頼関係を維持できます。

また、経営層からの一方的な説明だけでなく、再編発表後の1週間以内に部門別説明会を開催し、さらに希望者には個別面談の機会を設けることが重要です。

部門ごとの説明会や個別面談の機会を設け、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。

統合後の給与・評価制度の調整で混乱を防ぐ

組織再編で特に従業員の関心が高いのが、給与や評価制度の扱いです。異なる制度を持つ企業同士が統合する場合、この調整に失敗すると従業員の不満が高まり、優秀な人材の流出につながります。

まず、両社の現行制度を詳細に比較分析することから始めましょう。給与水準、賞与の計算方法、評価基準、昇格要件などを洗い出し、統合後の制度設計を行います。

重要なのは、統合後に不利益を被る従業員を最小限に抑えることです。給与水準の高い方に合わせる、経過措置を設けるなど、激変緩和の施策を検討しましょう。完全な公平性は難しくても、納得感のある説明ができる制度を目指すことが大切です。

制度統合のスケジュールも慎重に決める必要があります。一度にすべてを変更するのではなく、段階的な移行期間を設けることで、従業員の適応を支援できます。新制度の運用開始前には、十分な説明と研修の時間を確保しましょう。

異なる企業文化を段階的にすり合わせる

組織再編における最大の課題の一つが、企業文化の統合です。業務プロセスや意思決定のスタイル、コミュニケーションの取り方など、目に見えない文化の違いが統合後の摩擦を生みます。

まずは、それぞれの企業文化の特徴を理解することから始めましょう。従業員へのアンケートやヒアリングを通じて、大切にしている価値観や慣習を把握します。一方的に片方の文化を押し付けるのではなく、双方の良い点を活かす姿勢が重要です。

文化の統合には時間がかかることを前提に、段階的なアプローチを取りましょう。統合直後から完璧な融合を目指すのではなく、まずは相互理解を深める期間を設けることが賢明です。

手続きミスを防ぐチェックポイントを押さえる

組織再編には、会社法に基づく複雑な法的手続きが必要です。手続きのミスは再編の無効や遅延につながるため、確実に進めることが求められます。

主な手続きとしては、取締役会決議、株主総会の特別決議、債権者保護手続き、登記申請などがあります。それぞれの手続きには法定の期限や要件があり、順序を守って進める必要があります。

特に注意すべきは、債権者保護手続きです。官報公告や個別催告を適切に行わないと、債権者から異議を申し立てられる可能性があります。公告は官報掲載から最低1ヶ月間の異議申述期間を確保する必要があるため、余裕を持ったスケジュール管理が重要です。

税負担を最小化するための準備を整える

組織再編では、適切な準備により税負担を軽減できる可能性があります。会社法上の組織再編であっても、税務上の取り扱いによって税負担が大きく変わるのです。

税務上、一定の要件を満たす組織再編は「適格組織再編」として扱われ、譲渡損益の繰延べが認められます。これにより、再編時に多額の課税を避けることができます。一方、要件を満たさない「非適格組織再編」では、時価での資産譲渡があったものとして課税されるため、大きな税負担が発生します。

適格要件には、支配関係の継続(50%超の株式保有)、従業員の概ね80%以上の引継ぎ、主要事業の継続といった条件があります。

これらの要件を満たすように再編のスキームを設計することが、税務上のメリットを得るカギとなります。

ただし、税務上の判断は専門的で複雑なため、組織再編のスキーム検討を開始する時点で税理士や公認会計士に相談することが不可欠です。税負担の最小化は、再編後の財務基盤を強化する重要な要素といえます。

自社に合った組織再編で新たな成長ステージへ進む

組織再編は、事業シナジーの創出や経営効率の向上を通じて、企業が新たな成長ステージに進むための有効な経営戦略です。

事業環境の変化に柔軟に対応し、経営効率を高めるために、多くの企業が組織再編を活用しています。

何より大切なのは、組織再編を単なる法的手続きと捉えるのではなく、従業員の不安に寄り添い、丁寧にコミュニケーションを取りながら進めることです。給与・評価制度の調整、企業文化の統合、適切な法的手続き、税務対策といった実務面でのポイントを押さえることで、組織再編の成功率は大きく高まります。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

組織づくり」の他の記事を見る

TUNAG お役立ち資料一覧
TUNAG お役立ち資料一覧