アルバイトの人手不足への対策を採用と定着の観点から考える
「深刻な人手不足で、バイトが辞められない雰囲気が漂っている」
「人手不足のため業務負担が大きくなり過ぎて、スタッフが辛そう」
飲食業・小売業などのアルバイトがいる企業の経営者の方の中には、上記のような問題を抱えている方も多いのではないでしょうか。どうすれば人手不足を解消できるのか、そもそも人手不足になる原因は何なのかなど、疑問や悩みは尽きないことでしょう。
そこで、この記事ではアルバイトスタッフの人手が不足する原因と対策について、採用・定着の観点から解説していきます。自社の人手不足問題を解決させるためのヒントとして、ぜひお役立てください。
業種別のアルバイトの人手不足の現状
厚生労働省が発表した「労働経済動向調査(令和5年8月)」によると、全体の31%の企業がアルバイト(パートタイム労働者)の人手不足に陥っていることがわかっています。中でも、以下の5つの業種は、人手不足問題が深刻な状態にあるようです。
業種 | パートタイム労働者過不足判断D.I.(※) |
---|---|
宿泊業、飲食サービス業 | 53 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 43 |
サービス業(他に分類されないもの) | 43 |
卸売業・小売業 | 38 |
医療・福祉 | 35 |
また、同調査では過去・今後1年間における労働者不足の対処方法についても調査しています。
まず、人手不足問題に対して「既に対処した」「今後対処する予定」と答えた企業はそれぞれ66%・65%となっています。このことから「人手不足を問題だと感じてはいるものの、対処できずにいる」と読み取れます。
さらに、多くの企業はアルバイトの人手不足問題の対処法として「正社員採用・登用」を考えているようです。しかし、それでは人件費の高騰・アルバイトでもできる仕事を社員に任せてしまうことで人材が育たないなど、別の問題が浮彫になるように思えます。
アルバイトの人手不足感が店舗に与える影響
アルバイトが人手不足な状態が続くと、店舗にさまざまな悪影響が生じます。
まず、採用と教育にコストがかかります。人材を募集するための広告費、教育のための人件費などのコストアップによって、利益を圧迫されることは免れません。
また、人手不足とはいえ店舗の営業は止められません。よって、既存スタッフの業務負担が大きくなり、それが辛くて退職者が増えるという悪循環に入る可能性があります。
さらに、人手不足のまま営業するということは「本来あるべき営業ができない」ということです。よって、顧客満足度の低下に繋がり、長期に渡って売上が下がってしまうかもしれません。
これらの悪影響を回避するために、アルバイトの人手不足の解消は急務だといえます。
【採用】アルバイトの人手不足が起こる3つの原因
アルバイトの人手不足の原因は、大きく分けると採用面・定着面に分類されます。まずは、その「募集をかけても人が集まらない」という状況に陥ってしまっている理由を紐解いていきます。
1. 労働人口の減少
「募集をかけても人が集まらない」となってしまっている理由として、労働人口が減少していることが挙げられます。
内閣府が発表した「令和5年版高齢者白書」によると、令和4年時点での生産年齢人口(15〜64歳)は7,421万人です。この数値は、生産年齢人口がピークを迎えた1995年時点の8,716万人の約85%となり、大きく減少していることがわかります。
労働人口の減少が、企業の人手不足に直結するのは当然のことでしょう。特に、少子化によって10代~20代の労働人口が減少していることが、アルバイトの人手不足に直結する要因となっています。
2.有効求人倍率の上昇
有効求人倍率が上昇していることも、アルバイトの採用が進まない要因の1つです。
厚生労働省が発表した「一般職業紹介状況」によると、令和5年8月の有効求人倍率は1.29倍です。これが、20年前に当たる平成15度の平均値は0.64倍。20年前は売り手市場でしたが、現在は完全に買手市場になっていることがわかります。
有効求人倍率が上昇すると、求職者は「より条件の良いアルバイト」を選べる状態となります。よって、好条件を提示できる大企業の方が人が集まりやすく、競合企業より良い条件を出し辛い中小企業は人手を確保するのが難しいといった状況になっているのです。
また、特にサービス業全般に関しては、コロナウイルスの感染拡大の影響によって求人数が大きく減少した時期がありました。経済状況がコロナ禍前と同等に戻りつつある現在は、人材の確保が追いついていないという実状もあります。
3.働き手側の価値観の変化
2020年以降のコロナ禍の影響によって、働き手側の価値観の変化が見られることも、アルバイト採用が進まない要因の1つとなっています。
株式会社マイナビがおこなった「新型コロナウイルスによるアルバイトシフト減少者動向調査」によると、コロナウイルスの感染拡大の影響でアルバイトのシフトをカットされた飲食業従事者・小売り業従事者のうち、それを機に別の職種に移行した人の割合はそれぞれ81.2%・67.8%となっています。
そのような、アルバイトの職種の選び方が変わった要因として、以下のものが考えられます。
- コロナの影響に業績が左右されにくい業種を選びたい
- リモートワークが普及したことで「そんな働き方があるのか」と気付いた
- 体調不良などによる急な休みにも対応してくれる業種を選びたい
上記のような理由でオフィスワークや軽作業などの職種を選ぶ人が増えたことが、サービス業全般の人手不足が深刻化している要因の1つとなっています。
【採用】アルバイトの人手不足への対策3選
前章の内容を簡単にまとめると、以下のようになります。
- そもそも働き手が少ない
- 現在のアルバイト求職市場は買手市場
- サービス業は求職者から敬遠される傾向にある
そんな状況の中で人材を獲得し、アルバイトの人手不足を解消するには、以下の手段が有効です。
1.ターゲットを定め、募集要項で必要な情報を提供する
まずは、魅力的な求人広告を作成することが第一ステップです。採用を増やすには多くの応募を獲得する必要があり、求職者は求人広告が魅力的な企業に応募します。
魅力的な求人広告を作成するには、「どんな人材を採用したいのか」を明確にイメージを持つことが大切です。例えば、この記事は「アルバイトの求人採用に悩む経営者」をターゲットにしており、だからこそあなたはこの記事を読んでいるはず。それと同じで、自社が採用したいアルバイトスタッフ像の人材像を明確にし、その人に向けた求人を作成する必要があります。
ターゲットに合った条件の記載や働くイメージがわかる写真を多く掲載するといった情報提供だけではなく、ターゲットが魅力的に感じる要素を含めた求人に仕上げていきましょう。
2.面接内容をアップデートする
採用を増やすためには、面接内容をアップデートする必要があります。
アルバイトの採用面接は、求職者に「自社で働きたくなってもらっている状態」がゴールです。そのために、自社が目指している未来像や、自社で働くことで得られるベネフィットを伝えましょう。そうすることで醸成させる「私もそれを一緒に実現したい」という想い思いが、求職者にとっての「ここで働く理由」になります。
面接は、労働条件の確認をしたり、応募者の適正を見極めたりするだけではなく、求職者に「自社で働きたくなってもらっている状態」になってもらえるような内容に随時アップデートしていきましょう。
3.リファラル採用を推進する
採用を増やして人手不足を解消するのに有効な方法は、リファラル採用を推進することです。リファラル採用とは、既に自社で働いているスタッフから、友人などを紹介してもらって採用すること。リファラル採用を推進することで、以下のように多くのメリットを得られます。
- 自社に合った人材を採用できる
- 求人広告を見ていない、潜在層にアプローチできる
- 採用コストを削減できる
- 入社後の定着率が高まる
- 紹介者側の帰属意識が高まる
後者2つのメリットに関しては、次章以降で解説する定着率の向上にも繋がります。
【定着】アルバイトの人手不足が起こる3つの原因
せっかくアルバイトを採用しても、すぐに辞められてしまっては人手不足は解消されません。アルバイトの人手不足に陥る原因の1つである「アルバイトが辞めてしまう理由」を深掘りしてみましょう。
1.人間関係に問題がある
アルバイトが仕事を辞めてしまう理由の代表的なものは、人間関係の問題です。
- 職場全体の空気が悪い
- 仲の悪いスタッフがいる
- 仕事を教えてもらえない
- わからないことがあっても質問しにくい
他にも、挙げだせばキリがないほど、人間関係のトラブルは多岐に渡ります。原因を特定するのが難しいこともあるため、アルバイト一人ひとりとの対話を通じて、状況を把握することも重要です。
職場の人間関係の良し悪しは、仕事に対するモチベーションを大きく上下する要因の1つです。人間関係の問題をゼロにすることは難しいかもしれませんが、店舗側が問題を解決しようとする姿勢をみせない限り、離職率を下げることは難しいでしょう。
2.理不尽に怒られた
人間関係の問題にも直結しますが、「理不尽に怒られた」という経験が、アルバイトの離職に繋がることがあります。「なぜ怒られているのか」がわからない状態が、「理不尽に怒られる」ということです。
また、社員や店長は「怒る」と「叱る」の違いについても理解しておいた方がいいでしょう。「怒る」とは、ただ怒りの感情をぶつけているだけの状態です。対して「叱る」は、「相手に良くなって欲しい」という思いがあるからこそのアドバイスだといえます。
また、本人としては叱っているつもりでも、言葉のチョイスや声色・表情、その場のシチュエーションなどによっては、受け手側は「怒られた」と感じてしまいます。「何が問題なのか」「どう改善すべきか」を整理して伝えるなど、アルバイトへの注意の仕方を見直す必要があるのかもしれません。
3.やりがいを感じられない
「やりがいを感じられない」という理由も、アルバイトが離職する要因になります。「やりがいを感じられない」ということは「そこで働く価値や意味、メリットなどを感じられない」という状態です。
仕事のやりがいは人によって違う部分もありますが、同じ職場で働く人同士なら同じやりがいを感じられる瞬間もあるはずです。その共通のやりがいに関しては、社員や店長からはたらきかけて「やりがいを感じてもらう」ことも、教育の一環だといえます。
【定着】アルバイトの人手不足への対策5選
アルバイトの定着率を上げて人手不足を解消するには、前章で解説した「アルバイトが辞めてしまう理由」に対して対策を施す必要があります。具体例をまじえて、解説していきます。
1.教育の仕組みを整え、質問・相談しやすい場所を作る
アルバイトの定着率をアップするには、教育の仕組みの整備が必要です。具体的には、ミーティングや面談の場を作って、質問・相談をしやすい環境を整えましょう。そうすることで「理不尽に怒られる」ということをなくし、ひいては人間関係の問題を減らすことにも繋がります。
店舗や企業の規模によっては、評価制度を整備することも必要でしょう。「評価の基準」を明確にすることで、やりがいやモチベーションの醸成に繋がります。
2.自然とコミュニケーションが生まれる仕組みを作る
社員とアルバイト・店長とアルバイト、もしくはアルバイト同士の好ましい人間関係を醸成するには、自然とコミュニケーションが生まれる仕組みを作ることが大切です。つまりは、1日の営業や1人ひとりのシフトの中で、コミュニケーションする場を意図的に設ける必要があります。
朝礼や終礼の場があると、必然的にスタッフ間のコミュニケーションが発生します。「良い接客の事例」などを紹介したり、持ち回り制でスピーチの時間を作ったりするのもいいでしょう。
毎日時間を割くのが難しい場合は、アルバイトがその日の目標と振り返りを記入するシートを用意するのも有効です。あとで社員や店長がフィードバックを記入することで、双方向のコミュニケーションが図れます。
3.感謝を伝え、良い行動を称賛する
アルバイトの定着率をアップするために、個々や全体に日々の感謝を伝えたり、良い行動を賞賛したりすることが大切です。また、そのような言動は、日々積み重ねていくことが必要だといえます。
感謝を伝えたり、良い行動を賞賛したりすることで、そのスタッフは「自分が店舗から必要とされている」と実感するはずです。そうすることでエンゲージメントが向上し、離職を防ぐ効果が期待できます。
4. 会社や社長の想い、「なぜやるのか?」を伝える
会社の社長の想い、1つひとつの業務の「なぜやるのか?」を伝えることで、それがスタッフのやりがいとなることがあります。その思いや背景がスタッフが自店で働く理由となり、定着率アップが期待できます。
例えば、日本マクドナルド株式会社は、自社のミッションを「おいしさとFeel-goodなモーメントを、いつでもどこでもすべての人に。」と掲げています。そのミッションがスタッフまで届いているからこそ、「だから笑顔が必要なのか」「だからレシピを正しく守ることが大切なのか」という納得感に繋がるはず。
思いや背景を伝えるためにも、前述した教育の仕組み作り・コミュニケーションが生まれる環境作りが大切なのです。
5.業務の効率化を図る
業務の効率化を図り、スタッフの業務負担を減らすことが、定着率をアップするために必要です。業務負担がスタッフのキャパシティを越えてしまうと「働くのが辛い」という状態になり、離職に繋がってしまいます。
具体的には、ペーパーレス化や配膳ロボットの導入、オーダーシステムの見直し・簡略化などが効果的です。
「労働人口の減少」を、企業側の努力で食い止めることは不可能です。よって、それを動かぬ事実として受け入れたうえで、対策を練らなければなりません。業務の効率化は、定着率をアップさせるために、そして思うように採用できないという問題を解決するためにも必要なことです。
アルバイトの人手不足の課題解決に向けた3つのステップ
この章では、明日からでも取り組みたいアルバイトの人手不足解消のための具体的な行動を、3つのステップに分けて解説します。
STEP①アルバイトへのヒアリングを実施
まずは既存のアルバイトスタッフに対して、ヒアリングを実施します。その内容は、以下の2点です。
- 求人広告や面接で、どんなポイントを訴求されたら刺さるのか意見をもらう
- 現在の労働環境への不安や不満を吸い上げる
企業が自社の商品やサービスを販売するうえで「顧客の声」がそのヒントになるのと同じで、採用に関しては「既存スタッフの声」が重要な参考になります。
また、既存スタッフが感じている不安や不満は、定着率をアップするための重要な参考になります。立場が違えば見え方も違うので、社員や店長の盲点となっている部分に不安や不満を感じているかもしれません。
既存スタッフへのヒアリングを通して、人手不足解消へのヒントをできるだけ多く得てみてください。
STEP②ヒアリング内容に応じて施策の優先順位を決め、実施
次に、ヒアリング内容に応じて施策を立案し、その優先順位を決めて実施していきます。特に、既存スタッフが感じている不安や不満の中には、早急に施策を投じる必要があるものもあれば、そこまで急務ではないものもあるはずです。
また「明らかに完全な人手不足」という状態では、定着率アップよりも人材獲得の方が急務だといえます。店舗の状況に応じて、優先順位の高いものから施策を実施していきましょう。
STEP③施策の改善点をアルバイトとともに考える
ステップ②で立案した施策が、必ずしも問題解決に繋がるとは限りません。施策を実施したら振り返りをし、改善点を考えることが大切です。その際は、社員や店長だけで抱え込まずに、アルバイトとともに考えることをおすすめします。
人手不足の要因の1つである定着率の低さは、既存スタッフにとっても他人事にできない問題です。定着率が上がって人手不足が解消されれば、既存スタッフの業務負担も軽減されます。
人手不足の問題解決は、アルバイトにとって「働きやすい環境を作ること」だといえます。既存スタッフからも積極的に意見を吸い上げて、改善へのアクションを起こしていきましょう。
アルバイトの採用増加や定着率改善を実現した事例
最後に、アルバイトの採用増加や定着率改善によって、人手不足解消を実現した企業の事例を紹介します。
株式会社BP
株式会社BP様は、ウエディング事業を中心に、ホテル・レストランの運営・映像事業・不動産事業・保険事業など、幅広いサービスを展開している企業です。アルバイトを含めて従業員数が2,000人を越える同社は、従業員間のコミュニケーションの希薄化、それに伴って離職率が上がってきていることを、問題視していました。
そんな同社が問題解決のための手段として選んだのが、社内コミュニケーションツール「TUNAG(ツナグ)」の導入です。社内の承認活動が希薄になってきていることを問題視していた同社は、TUNAGを用いて以下の施策を投じました。
- サンクスカードの導入
- 日報の共有
- スタッフのホスピタリティの事例(好事例)を共有
- アルバイトにインフルエンサーになってもらい、TUNAGへのログインを習慣化
これらの施策によって、従業員間のコミュニケーションは徐々に活性化。職場に風通しの良い風土が醸成され、アルバイトの定着率30%アップに成功しました。
結果的に、これらの取り組みがリファラル採用の促進や社員登用にも繋がっています。同社は、TUNAGの導入によって「友達に紹介したくなるバイト先」となったのです。
導入事例はこちら>>アルバイト定着率が30%改善、3ヶ月で300名採用:BPが「友達に紹介したくなるバイト先」を作るまで | 社内ポータル・SNSのTUNAG
アルバイトを含む従業員の定着率向上や情報共有の促進を実現するTUNAG(ツナグ)
TUNAG(ツナグ)は新人教育からペーパーレス化、社内交流活性化まで、各社の組織課題・業務課題に合わせて様々な施策をカスタマイズできるクラウドサービスです。PCだけでなくスマホにも対応しており、社用PCや法人メールアドレスを持たない社員やアルバイトの方にも、迅速かつ正確に情報を届けることが可能です。
社員やアルバイトの方に「長く働いてもらうための仕組みづくり」をアプリ内で行え、採用・教育コストの削減、店長業務の負担軽減、サービス品質の向上など様々な導入効果のお声をいただいています。
- 社長メッセージを発信し、行動の基準となる理念を浸透
- 新人教育、マニュアルのDX化で人材定着率の向上
- サンクスカードの運用で称賛文化を醸成し、働きがい向上
- アルバイトも含めた全社員への情報共有促進
まとめ
アルバイトの人手不足が起こる要因は、大きく分けると「採用」「定着」の2つに分類されます。人手不足を根本から解消するには、このどちらの問題も解決する必要があります。
また、既存スタッフの定着率を高めるには、企業や店舗内で起きている問題を解決していかなけばなりません。そのために、まずは既存アルバイトに「困っていることはないか」「悩んでいることはないか」をヒアリングして、現状を整理することが重要です。
投資対効果や課題の複雑さなどによって、解決に向けた施策がすぐには打てないかもしれませんが、緊急度や重要度等の観点から優先順位をつけることで、人手不足改善の道すじが見えるでしょう。
この記事の内容が、アルバイトの定着率改善や採用増加に取り組む方々の、お役に立てますと幸いです。