セカンドハラスメントは深刻な問題。例から予防策・起こった後の対処法まで

ハラスメント被害を受けた従業員への対応は、企業の信頼性と組織文化を左右する重要な課題です。一次被害への不適切な対応が引き起こす「セカンドハラスメント」は、被害者をさらに傷つけ、組織全体のエンゲージメント低下や法的リスクにつながる深刻な問題となっています。本記事では、セカンドハラスメントの定義と具体例、発生要因と対策、そして万が一発生した場合の適切な対処法について、人事担当者が実践できる観点から解説します。

セカンドハラスメントとは?

セカンドハラスメントは、「ハラスメント」という考え方が労働者に浸透してきた現代だからこそ起こっている問題です。セカンドハラスメントは具体的に何を指すのでしょうか。言葉の定義と例を紹介します。

ハラスメントを訴えたことで起こる二次被害

セカンドハラスメントは、セクハラやパワハラなどの一次被害を申告・相談したことで起こる二次被害を指します。被害者が勇気を出して相談したにもかかわらず、相談を受けた側の不適切な対応によって、さらなる精神的苦痛や不利益を被る状況が生まれるのです。

セカンドハラスメントをしている人は、無自覚であることが少なくありません。また、セクハラやパワハラと違って認知度が低いため、見過ごされがちという問題があります。

セカンドハラスメントの例

セカンドハラスメントとして挙げられる言動には、以下のようなものがあります。

  • 被害を軽視・否定される(「考えすぎでは?」「そんなことあるわけがない」など)
  • 被害者が非難される(「(セクハラに対して)服装が悪かったのでは?」「なぜ反論しなかったの?」「昔は普通だったのに我慢できないの?」など)
  • 加害者を擁護される(「○○さんはそういう人だから仕方ない」「悪気はなかったと思う」など)
  • 被害者が配置転換などの不利益を被る
  • 組織が具体的な対応を取らない
  • 被害者の申告・相談内容が加害者や第三者に漏れてしまう

ハラスメントの対応に問題があったという声が上がったときは、上記に該当する事実の確認を急ぎましょう。相談窓口や相談を受けた人物が上記のような対応を取っていないか、組織として調査・加害者の処分・再発防止策を実施したか、情報はしっかり保護されていたかを振り返る必要があります。

企業がセカンドハラスメントを放置してはいけない理由

セカンドハラスメントの認知度は、セクハラやパワハラ・マタハラといった一次被害のハラスメントに比べて高くありません。とはいえ、セカンドハラスメントが起こっているなら現状を放置してはいけない理由があります。

従業員の信頼を失ってエンゲージメントが下がる

セカンドハラスメントは表面化しにくいものの、発覚した場合、従業員は「もし自分がハラスメントに遭っても適切な対処をしてくれない」と考えるようになり信頼を失ってしまいます。

信頼が損なわれれば、従業員が「この会社のために頑張ろう」と思うためのエンゲージメントが低下します。エンゲージメントとは企業と従業員の、心理的なつながり・絆です。

エンゲージメントが下がると離職率は上がります。ただでさえ労働力人口が不足している現代日本で、離職者の増加は大きな痛手となるでしょう。

企業のイメージが悪化する

セカンドハラスメントが起こっている現状を放置していると、対外的に悪いイメージがついてしまうのも問題です。SNSでの拡散が活発な昨今では特に、社名を出して「ハラスメントを訴えたら自分が責められた」というような情報を発信されてしまうと、瞬く間に悪評が広まります。

企業イメージが低下すれば応募する人が減り、人材難に陥りかねません。ブランディングにも悪影響が及び、自社の商品やサービスを敬遠する人や企業が増える可能性があります。

法令違反のリスクがある

セカンドハラスメントは、各種の労働関連法令で禁じられている行為を許容する、または禁止行為そのものをしてしまう問題です。一次被害の種類ごとに、対応する法律は異なります。

  • パワハラ(パワーハラスメント):労働施策総合推進法第30条の2
  • セクハラ(セクシュアルハラスメント):男女雇用機会均等法第11条
  • マタハラ(マタニティハラスメント):育児・介護休業法第10条

セカンドハラスメントの放置にはこのような法的リスクもあり、訴訟を起こされると限りなく不利になってしまいます。コンプライアンスを順守するためにも、不適切な対応でセカンドハラスメントが起こっているなら、原因を究明して早急に対策を考えなければなりません。

参考:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)第30条の2| e-Gov法令検索

参考:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第11条| e-Gov法令検索

参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第10条| e-Gov法令検索

セカンドハラスメントが起こる要因と対策

セカンドハラスメントが起こらないようにするためには、要因ごとの対策を知っておく必要があります。窓口担当者・企業の体制・従業員全員それぞれが持つ要因と対策を見ていきましょう。

窓口担当者の相談スキルが不足している

ハラスメントの相談窓口の担当者が、必ずしもカウンセリングや相談についての専門知識を持っているとは限りません。相談窓口の担当者にはまず傾聴力が必要で、傾聴力がないと相談を真摯に受け止めず、軽率な否定や主観でのアドバイスをしてしまいがちです。

被害者の訴えを否定してしまうような担当者がいるなら、傾聴力のトレーニングが求められます。各種ハラスメントについての専門的な研修も必要です。一度きりではなく、定期的に理解度テストを実施して継続的な意識付けも心掛けましょう。

相談体制が整備されていない

ハラスメントに関する相談体制の未整備も、セカンドハラスメントの要因です。ハラスメントの判断基準がはっきりしていなければ、明確にハラスメントである相談案件を否定してしまうかもしれません。プライバシーの確保についてのルールが整備されていないと、会議で相談内容を広めてしまう可能性があります。

企業として、各種ハラスメントの基準やプライバシー確保、担当者自身で対応できない場合の連携フローなどのルール整備が必要です。

セカンドハラスメントの概念が認知されていない

セカンドハラスメントという概念自体が従業員に認知されていない状況では、善意からの言動が結果的に二次被害を引き起こすことがあります。「考えすぎ」といった励ましのつもりの言葉が、被害者にとっては苦痛の否定と受け取られる可能性があることを、多くの従業員は理解していません。

この問題に対しては、全社的な啓発活動が必要です。セカンドハラスメントに特化した研修を実施し、具体的な事例を通じて、どのような言動が二次被害につながるかを理解させます。

社内報やイントラネットを活用した情報発信も効果的です。実際の相談事例(個人情報を除く)から学ぶケーススタディや、外部専門家によるコラムの掲載など、多角的なアプローチで従業員の理解を深めます。

セカンドハラスメントの防止は、一人ひとりの意識改革から始まることを、組織全体で共有することが重要でしょう。

セカンドハラスメントが起きてしまった後の対応

万が一自社でセカンドハラスメントが起きてしまった場合、どのように対応すればよいのでしょうか。企業として最大限できるフォローの仕方を解説します。

被害者の訴えを俯瞰的にヒアリングする

もしセカンドハラスメントが起きてしまったら、被害者の訴えを否定せずヒアリングすることが大切です。セカンドハラスメントで被害を軽視されたり不利益を被ったりした被害者は、かなりセンシティブになっていると考えられます。

冷静に俯瞰的な視点で、事実を把握するというスタンスで話を聞くのが理想です。感情論をそのまま受け止めるのでもなく否定するのでもない姿勢は、被害者との信頼関係が再構築するきっかけになります。

事実関係をできるだけ早く確認する

セカンドハラスメントが発覚した後は、まず被害者から何があったのかを聞き取りをしましょう。その後はセカンドハラスメントをしてしまった人を含む関係者へのヒアリング、相談記録などから事実関係を確認する必要があります。

セカンドハラスメントの加害者にもヒアリングし、被害者の訴えと食い違う内容は、記録のチェックや周囲への聞き取りによる再確認が必要です。情報収集するときは、プライバシーへの配慮や被害者本人の同意が必要です。

被害者の精神的ケアをする

セカンドハラスメントは時として、一次被害のハラスメントよりも被害者の心を傷つけることがあります。「勇気を出して相談したのに適切な対応をしてもらえなかった」というストレスは大きいはずです。

企業として、被害者の心のケアを優先的に考えましょう。もし精神的な不安定さが目立つようなら、心理カウンセラーのような専門家につなぐのも一つの手段です。

セカンドハラスメントをなくして信頼される企業に

パワハラやセクハラ・マタハラといったハラスメントの認知度が上がっている一方、二次被害である「セカンドハラスメント」の存在はまだ広く知られていません。

しかしセカンドハラスメントは、一次被害を受けた被害者をさらに傷つける行為です。放置していると従業員の信頼を損ない、法的リスクも負うことになります。発覚すると離職者が増えたり応募者が減ったりして、企業は大きな損失を被りかねません。

セカンドハラスメントが起こらないようにするには、窓口担当者への教育はもちろん、相談体制の整備やセカンドハラスメントに関する全社的な研修が必要です。セカンドハラスメントが起こる要因に対策して、従業員に信頼される企業を目指しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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