定年後再雇用を導入すべき?ほかの高年齢者雇用確保措置との比較や再雇用のステップ
少子高齢化が進む日本では、労働力の確保のため高年齢の人材活用も重視されはじめています。国も「定年後再雇用」を含む高年齢者雇用確保措置を義務化しました。定年後再雇用の基本からほかの高年齢者雇用確保措置との比較、定年後再雇用の導入方法まで、人材活用に悩む企業向けに解説します。
定年後再雇用は法的義務の一つ
定年後再雇用のように定年後も働ける仕組みは、企業の意向によって導入しなくてよいものではありません。高年齢者雇用安定法の改正の内容を交えて、定年後再雇用とは何なのかを見ていきましょう。
2025年4月から完全適用された改正高年齢者雇用安定法
改正高年齢者雇用安定法の経過措置が終わり、2025年4月1日からは、希望する従業員全てを65歳まで雇用しなければならなくなりました(同法第9条)。定年後再雇用とは、高年齢者雇用安定法の改正で定められた高年齢者雇用確保措置のうち「継続雇用制度」の一つです。
高年齢者雇用安定法が改正された背景には、著しい少子高齢化による労働力不足があります。働く意欲や体力がある高年齢者には引き続き活躍してもらい、経済活動を維持しようという狙いです。
参考:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)第9条|e-Gov法令検索
参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省
企業の選択肢は定年後再雇用を含む三つ
改正高年齢者雇用安定法第9条に定められた高年齢者雇用確保措置は、次の三つです。
- 定年の引き上げ
- 継続雇用制度の導入(定年後再雇用・勤務延長制度など)
- 定年制の廃止
企業はいずれかを選んで、希望者を65歳まで雇用すれば法的義務を果たせます。なお、これらの措置義務は定年年齢が65歳未満の企業に対してのものです。「70歳までの就業機会確保」の努力義務は、すでに定年年齢が65歳以上の企業にも適用されます。
70歳までの就業機会確保は同法で「高年齢者就業確保措置」として第10条の2に記載されており、高年齢者雇用確保措置と同じ措置に加えて以下も定められました。
- 70歳までの継続的な業務委託契約
- 事業主または事業主が委託・出資する団体が実施している社会貢献事業への参加機会提供
参考:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)第9条・第10条|e-Gov法令検索
参考:高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~|厚生労働省
定年後再雇用と勤務延長制度の違い
企業が選べる高年齢者雇用確保措置の「継続雇用制度」には、定年後再雇用のほかに「勤務延長制度」があります。
定年後再雇用は、一度定年退職した後(退職金を定めている場合は通常、退職金を支払った後)、新たに雇用契約を結ぶ(雇用形態をパート・非常勤・嘱託社員などに変えられる)ことです。一方の勤務延長制度は、定年年齢に達しても退職はさせずそのままの雇用形態で雇用を継続します。
企業が高年齢者雇用確保措置を導入するメリット
高年齢者雇用確保措置は法的義務ですが、「義務だから仕方なく取り入れる」という考え方はおすすめできません。形態はどうであれ、定年年齢を迎えた後の人材を雇用し続けることで、企業もメリットを享受できます。
豊富な経験を持つ人材を雇用し続けられる
60歳が定年だったとして、入社が30歳であれば30年も勤続しているベテランということになります。定年後の人材は業務の経験や社内ノウハウが豊富で、スキルも習熟しているケースが多いでしょう。職種も役割も変えず引き続き活躍してもらうことも、指導者的な立ち位置で教育に貢献してもらうことも可能です。
また、定年後再雇用では雇用形態を変えられても職種は変えられません。裏を返せば再雇用した人材はそのまま経験やスキルを活用できるため、再教育のコストをかけず業務の質や生産性を担保できます。
助成金の対象となる
高年齢者雇用確保措置や高年齢者就業確保措置には、助成金が用意されています。例えば、65歳を超えた従業員に対して高年齢者雇用確保措置を執った企業は、「65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)」の申請が可能です。
65歳超継続雇用促進コースは、A〜Dの4コースに分けられています。措置内容と受け取れる金額は以下の通りです。
<A(65歳以上への定年の引き上げ)>
65歳までの場合 | 66〜69歳の場合 | 70歳以上の場合 | |
1〜3人 | 15万円 | 5歳未満の引き上げ:20万円 5歳以上の引き上げ:30万円 | 30万円 |
4〜6人 | 20万円 | 5歳未満の引き上げ:25万円 5歳以上の引き上げ:50万円 | 50万円 |
7〜9人 | 25万円 | 5歳未満の引き上げ:30万円 5歳以上の引き上げ:85万円 | 85万円 |
10人以上 | 30万円 | 5歳未満の引き上げ:35万円 5歳以上の引き上げ:105万円 | 105万円 |
<B(定年制度の廃止)>
1〜3人 | 40万円 |
4〜6人 | 80万円 |
7〜9人 | 120万円 |
10人以上 | 160万円 |
<C(希望する従業員全員を対象とする66歳以上の継続雇用)>
66〜69歳の場合 | 70歳以上の場合 | |
1〜3人 | 15万円 | 30万円 |
4〜6人 | 25万円 | 50万円 |
7〜9人 | 40万円 | 80万円 |
10人以上 | 60万円 | 100万円 |
<D(他社による継続雇用)>
他社による継続雇用制度の導入にかかった経費の1/2(下記の支給上限まで)
- 66〜69歳:10万円
- 70歳以上:15万円
いずれも制度の導入・実施に当たって、専門家に就業規則の変更や相談などで経費がかかった企業が対象です。また、当該制度について就業規則か労働協約で規定していなければ、助成金は受け取れません。
参考:65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)『令和7年度「65歳超雇用推進助成金のご案内」』PDF1枚目|厚生労働省
高年齢者雇用確保措置のメリット・デメリット比較
高年齢者雇用確保措置を導入するに当たって、どの措置がよいか迷っている企業も多いのではないでしょうか。「定年制度の引き上げ・廃止」「定年後再雇用」「勤務延長制度」の三つに分けて、メリット・デメリットを比較してみましょう。
定年制度の引き上げ・廃止
定年制度を引き上げたり廃止したりするメリットは、まず再雇用や延長の手続きが必要ないことです。就業規則や労働協約を変更すればよく、実務負担が少なく済みます。雇用形態や労働条件が変わらないために、従業員のモチベーション維持につながるのもメリットです。また定年制を廃止した場合、助成金の額が高くなります。
デメリットはやはり、パフォーマンスが低い人材でも、引き上げた定年年齢まで(または従業員が辞めるまで)正社員として雇用しなければならない点でしょう。さらに年功序列型の賃金体系だと、人件費の負担が大きくなります。
参考:65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)『令和7年度「65歳超雇用推進助成金のご案内」』PDF1枚目|厚生労働省
定年後再雇用
定年後再雇用のメリットは、定年前と雇用形態を変えられるため、人件費を調整しやすい点です。例えば週5日のフルタイム正社員として働いていた人の労働契約を、再雇用時に週3日に変更した場合、単純計算で人件費は3/5にまで抑えられます。
従業員側の事情に柔軟に対応できるのもメリットです。フルタイムで働く体力がなくなったが仕事は続けたい、定年後はプライベートの時間を増やしたいなどのニーズに応えられます。
デメリットは、退職・再雇用それぞれに手続きが必要で労力がかかることです。特に人事・労務担当の負担は大きくなるでしょう。
勤務延長制度
勤務延長制度も定年後再雇用と同じ「継続雇用制度」の一つですが、雇用形態や労働条件が変わらないことが大きな違いです。雇用形態・労働条件が変わらないので、そのまま活躍し続けたい人にとってはモチベーション維持につながります。
退職・再雇用の手続きが不要で延長のみという点も、定年後再雇用と比べたメリットです。定年年齢の引き上げ・廃止と比べたときのメリットは、「希望者のみ」が対象になることでしょう。働き続ける意欲のある人材だけが残りやすくなります。
デメリットは、雇用形態が変わらないため再雇用制度に比べて人件費がかさみやすいことです。定年後再雇用も雇用形態を変えなければ同じですが、「雇用形態を変えることが可能」という点で違いがあります。
定年後再雇用を導入するときの注意点
メリット・デメリットを考慮して、定年後再雇用を採用することにした場合、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。法的リスクや対象者とのトラブルと防ぐためにも、何に気を付ければよいのか整理しましょう。
不合理な待遇差は違法になる
パートタイム・有期雇用労働法第8条によれば、雇用形態による不合理な待遇差は是正しなければなりません。厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では、業務内容や責任範囲・スキルなど実態が同じなら待遇も同じにすべきとされています。
例えば勤務時間や任せている業務・責任範囲・能力が実態として正社員と同じなのに、定年後再雇用で契約社員に変えたからといって基本給や賞与を減らすのは違法です。待遇には各種手当や福利厚生が含まれることにも注意しましょう。
参考:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第8条|e-Gov法令検索
有給休暇は通算される
定年後再雇用では、一度退職してから新たな雇用契約を結び直します。ただ、期間が空かずに雇用が継続している限り、有給休暇はリセットされません。退職した時点で有給休暇が残っている場合は、再雇用後も引き継がれます。
雇用形態が変わっても通算されるのが基本です。有給休暇のカウントをリセットしてしまわないよう、人事・労務担当者にも周知しておくとよいでしょう。
定年後再雇用のステップ
定年後再雇用を採用することに決めたら、手続きのステップもチェックしておくとスムーズです。必要な4ステップを簡単に解説します。
対象者への意思確認
高年齢者雇用確保措置は全ての企業に課された義務ですが、定年後再雇用を含む継続雇用制度は対象が「希望する人全て」という点に注意が必要です。高年齢者雇用確保措置として継続雇用制度を採用する場合、本人の意思を確認しなければなりません。
面談やアンケートでのヒアリングなどで、本人が定年後も働き続けたいのかどうか、意向を聞きましょう。
面談での雇用条件提示
定年後再雇用を希望する人には、個別面談で再雇用時の条件を提示し、納得を得る必要があります。特に給与が減ったり地位が下がったりする場合は不満の原因となるため、擦り合わせが必須です。
退職手続き・退職金の支払い
再雇用の条件を擦り合わせたら、決まった日までに退職手続きを済ませてもらいます。制度として設けている場合は、退職金を支払いましょう。社会保険の資格喪失届の提出も必要です。再雇用まで日が空かず、社会保険の加入要件を満たしているなら資格取得届も同時に提出できます。
再雇用契約の締結
再雇用には再雇用契約書が必要です。退職から日が空かない場合は、退職手続きとほぼ同時進行で再雇用契約を結ぶことになります。労働条件を明示して署名をもらい、再雇用契約を締結すれば手続きは完了です。
メリット・デメリットを考慮して定年後再雇用の導入を
少子高齢化を背景に、国は企業に対して高齢者がより長く働ける措置を義務付けました。企業としても、経験が豊富な人材が定年年齢に達しても活躍し続けてくれれば、生産性を維持できて頼もしいはずです。
高年齢者雇用確保措置には、定年後再雇用のほか、勤務延長制度や定年年齢の引き上げ・定年制の廃止もあります。それぞれにメリットとデメリットがあるため、自社の状況やニーズを整理して、最も適した措置を選びましょう。