従業員が抱えている不満や不安は、日常の業務連絡だけでは把握しにくいものです。拠点や店舗が分かれている企業では、現場の状況が本社や人事部門まで十分に届かないこともあります。こうした組織の状態を数値で把握する方法が、モラールサーベイです。本記事では、モラールサーベイの意味や他の従業員調査との違い、具体的な実施手順を解説します。調査結果を組織改善につなげるためのポイントも紹介します。
モラールサーベイとは、従業員が仕事や職場、上司、待遇、会社に対して抱いている意識を調べる従業員意識調査の一つです。
従業員を対象とした調査には、満足度調査やエンゲージメントサーベイなど、複数の種類があります。
適切な調査を選ぶには、それぞれが何を測るものなのかを理解することが大切です。まずは、モラールサーベイの意味と関連用語との違いを整理しましょう。
モラールサーベイは社員の意識調査の1つで、仕事内容へのやりがいは高いが、評価制度への納得感が低いといった状態などを数値で確認できます。複数の項目を組み合わせて分析することで、職場の士気を下げている要因を探りやすくなります。
日本では、日本労務研究会が開発したNRK方式のモラールサーベイが知られています。標準化された設問を用いる調査であれば、過去の結果や一定の基準と比較しながら組織状態の変化を確認できます。
参考:モラールサーベイ・社員満足度調査(NRCS)~日本労務研究会(NRK)
モラールと混同されやすい言葉に、モチベーションがあります。
モチベーションは、個々人の意識に関する概念です。人が行動を起こす要因、つまり動機を意味します。一方、モラールは企業や組織における集団的な感情や意識を指します。「労働意欲」「士気」と訳され、職場の労働条件や人間関係、環境や帰属意識によって変化します。
出典:モラールサーベイ(従業員意識調査)とは|一般社団法人日本労務研究会
モラールサーベイで把握するのは、個人の優劣ではありません。職場の環境や人間関係、制度などが従業員全体にどのような影響を与えているかを確認します。個人評価のための調査ではないことを事前に説明し、従業員が安心して回答できる環境を整えましょう。
従業員向けの調査は、種類によって目的や実施頻度が異なります。
代表的な調査の違いは、次の通りです。
調査の種類 | 主な目的 | 実施頻度の目安 |
|---|---|---|
モラールサーベイ | 職場全体の士気や不満要因を把握する | 年1回程度 |
従業員満足度調査 | 待遇や制度、職場環境への満足度を測る | 年1回程度 |
エンゲージメントサーベイ | 会社への信頼や愛着、貢献意欲を測る | 年1〜2回程度 |
パルスサーベイ | 少数の設問で組織状態の変化を継続的に捉える | 週1回〜月1回程度 |
モラールサーベイは、実施してスコアを確認するだけでは意味がありません。
調査によって何を把握し、どのような改善につなげられるのかを、あらかじめ明確にしておく必要があります。ここでは、期待できる主な効果を紹介します。
従業員が抱える不満は、日常の会話や管理職からの報告だけでは十分に把握できないことがあります。
上司との関係に配慮して本音を伝えられない従業員や、不満を口に出さずに転職を検討する従業員もいるためです。
モラールサーベイでは、業務量、労働時間、人間関係、評価、待遇などを項目ごとに数値化します。複数の項目を比較することで、どの領域に不満が集中しているのかを確認できます。
全社平均だけを見ても、組織の課題を正確に把握できない場合があります。
課題が一部の部署に集中している場合、その低いスコアが他部署の数値に打ち消され、全社平均には表れないためです。部署、拠点、職種などの単位で分析することで、組織ごとの違いを確認できます。
反対に、モラールと生産性の両方が高い部署があれば、管理職の関わり方や情報共有の方法を他部署へ展開できるかもしれません。
生産性の問題を個人の努力不足だけで捉えず、業務設計や職場環境の問題として検討するための材料になります。
退職の申し出を受けた時点では、すでに本人の意思が固まっていることがあります。
モラールサーベイで会社への信頼や将来への期待、職場への帰属意識を確認すれば、離職につながる可能性がある変化を早い段階で捉えやすくなります。
例えば、全社平均に大きな変化がなくても、特定の部署で会社への信頼やキャリア展望に関するスコアが継続して下がっていれば、注意が必要です。
ただし、サーベイのスコアだけで個人の離職を予測することはできません。結果を手がかりに、1on1や職場へのヒアリングを行い、業務負担や人間関係、成長機会などを確認する必要があります。
問題が表面化する前に対話や業務改善を行えれば、離職防止につながるでしょう。
モラールサーベイは、従業員の意見を会社が受け止める機会にもなります。従業員が回答した内容をもとに制度や職場環境が改善されれば、自分たちの声が会社を変えたという実感が生まれます。その経験が、組織への信頼につながります。
公的な調査でも、同じ方向の傾向が確認できます。厚生労働省の委託事業によるストレスチェックの実態調査です。労働者が企業への要望として挙げたのは、調査結果の活用、効果と取組の見える化、職場環境改善の推進でした。調査に協力する従業員は、結果がどう使われるのかを知りたいと考えています。
出典:令和3年度 厚生労働省委託事業 「ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業」報告
調査結果と対応方針を共有し、実施した改善を継続的に伝えることが重要です。すべての要望に対応できない場合も、対応できない理由や今後の方針を説明しましょう。
モラールサーベイを組織改善に活用するには、調査前の設計から結果の共有までを一連の取り組みとして進める必要があります。
ここでは、基本的な実施手順を五つのステップで解説します。
最初に、モラールサーベイを実施する目的を明確にします。
離職防止、職場環境の改善、生産性向上、管理職のマネジメント課題の把握など、調査によって解決したい課題を決めましょう。
そして対象範囲も決めます。全社を対象にするか、課題が想定される部署に限定するかを判断します。有期雇用者や派遣スタッフを含めるかどうかは、集計単位と匿名性への影響を踏まえて決めましょう。
実施時期にも配慮が必要です。繁忙期や大規模な人事異動の直後に実施すると、一時的な負担や不安が結果へ強く反映されることがあります。
設問は、調査によって改善したい領域から逆算して設計します。
モラールサーベイで確認する主な領域には、次のようなものがあります。
選択式の設問で全体的な傾向を把握し、自由記述で数値の背景を補う方法も有効です。ただし、自由記述を増やしすぎると回答負担が大きくなるため、重要な項目に絞りましょう。
従業員へ十分に説明しないまま調査を始めると、「人事評価に使われるのではないか」「低い回答をすると上司に知られるのではないか」と恐れられる可能性があります。
その対策として、人事部門から案内を送るだけでなく、管理職からも目的を説明してもらうと、現場の理解を得やすくなります。
ただし、管理職が回答を強制したり、回答内容を確認しようとしたりしないよう、調査時の注意点も共有する必要があります。
調査結果は、全社平均だけでなく、部署、拠点、職種、役職、年代、勤続年数などの属性別に分析します。属性ごとに比較することで、特定の組織や従業員層に集中している課題を把握できます。
設問同士の関連も確認すると、原因を考えやすくなります。ただし、数値の関連だけで因果関係を断定してはいけません。面談やヒアリングを通じて、背景を確認する必要があります。
調査後は、結果と今後の対応方針を従業員へ共有します。
フィードバックがなければ、従業員は「回答がどのように使われたのか分からない」と感じます。次回の回答率や回答の質が低下する原因にもなるでしょう。
共有する内容は、次の3点に整理すると分かりやすくなります。
すぐに解決できない課題についても、対応しないまま放置するのではなく、時間がかかる理由や検討状況を伝えましょう。
モラールサーベイは、同じ設問を使っても運用方法によって得られる成果が変わります。
特に重要なのは、従業員が本音で回答できる環境を整え、結果を具体的な改善行動へつなげることです。
従業員の本音を集めるには、匿名性の確保が欠かせません。
紙の調査票を直属の上司が回収する運用は、避けることが望ましいでしょう。回答内容を見られる可能性があると感じれば、従業員は不満や問題を書きにくくなります。
オンライン調査であっても、少人数の部署や詳細な属性を組み合わせると、個人を特定できる可能性があります。集計結果を表示する最小人数を決めるなどの配慮が必要です。
匿名性への信頼は、回答の率直さと調査結果の信頼性に直結します。
設問数が多すぎると、回答の途中で集中力が低下し、後半の回答が雑になる可能性があります。
回答時間は10〜15分程度を目安にし、調査目的に直接関係する質問へ絞りましょう。
「せっかく調査するから」と多くの質問を詰め込んでも、結果を分析し、改善施策へ活用できなければ意味がありません。
同じ内容を異なる表現で繰り返していないか、回答後に具体的な行動を検討できる設問になっているかを確認します。
詳しく聞きたいテーマが多い場合は、年1回のモラールサーベイで全て確認するのではなく、別の短い調査やヒアリングに分ける方法も有効です。
モラールサーベイで最も避けたいのは、調査結果を集計しただけで終わることです。
複数の課題が見つかっても、全てを一度に解決する必要はありません。離職や安全に関わる課題、影響を受ける従業員が多い課題などから優先順位をつけます。
優先課題を決めたら、具体的な施策、担当者、期限、効果を確認する指標を設定しましょう。「今後検討する」という状態では、改善が進みません。
休憩スペースの整備、申請手続きの簡略化、会議時間の見直しなど、短期間で実施できる改善から始めても構いません。
小さな改善であっても、従業員の声を受けて会社が実際に動いたことを示せれば、調査への信頼が高まります。
一度の調査結果だけでは、そのスコアが高いのか低いのか、施策によって改善したのかを十分に判断できません。
同じ設問を継続的に使用し、時系列で変化を確認することが重要です。
例えば、評価制度への納得感を改善する施策を実施した場合は、次回の調査で関連項目のスコアが変化したかを確認します。数値に変化がなければ、制度そのものだけでなく、説明方法や管理職のフィードバックに問題があるかもしれません。
年1回のモラールサーベイに加えて、重要な項目だけを確認する短いパルスサーベイを組み合わせる方法もあります。
ただし、調査頻度を増やしすぎると回答負担が高まります。改善を実行し、変化を確認できる運用周期に合わせて実施しましょう。
パルスサーベイについて詳しく知りたい方はこちらの記事もチェックしてみてください
モラールサーベイは、従業員の士気や職場への認識を数値化し、組織課題を把握するための調査です。
部署や職種ごとに分析することで、業務負荷、評価、人間関係、会社への信頼など、離職や生産性低下につながる可能性がある課題を確認できます。
ただし、調査を実施するだけでは組織は変わりません。目的を明確にして従業員へ説明し、匿名性を確保した上で本音を集める必要があります。
結果を分析した後は、優先課題を決めて施策を実行し、その内容と進捗を従業員へ伝えましょう。調査、改善、効果検証という流れを継続することで、モラールサーベイを実際の組織改善につなげられます。
モラールサーベイを一度きりの調査で終わらせず、従業員の声を改善行動へ変える仕組みを整えましょう。継続的な対話と改善の積み重ねが、人材の定着と組織の生産性向上につながります。
モラールサーベイの設計、配信、集計、分析を自社だけで行うと、人事部門の負担が大きくなります。外部のサーベイツールを使う選択肢もあります。
「TERAS(テラス)」は、組織改善に特化したエンゲージメントサーベイです。株式会社スタメンが提供しています。特徴は、従業員一人ひとりの状態把握ではなく、組織の状態把握に特化している点です。集団の士気を測るというモラールサーベイの考え方と、目的が重なります。
組織のエンゲージメントを可視化したいとお考えの経営者・人事担当者はぜひご活用ください。