多角化戦略とは?メリットやデメリットを成功事例5社・失敗事例3社から学ぶ

企業が持続的に成長するためには、市場環境の変化に柔軟に対応し、新たな収益源を確保することが欠かせません。その中で注目されているのが「経営の多角化戦略」です。 しかし、 ・多角化のメリットは理解しているが、具体的な進め方が分からない ・成功事例や失敗事例を踏まえ、自社での適用可能性を検討したい ・新たな事業領域への進出が自社にどのような影響を与えるのか知りたい といった課題を抱える企業も多いのではないでしょうか。 この記事では、経営の多角化戦略の基本的な考え方や分類、成功事例と失敗事例、さらに戦略を成功させるためのポイントについて詳しく解説します。これから新たな収益源を模索する企業や、既存事業の強化に取り組む経営者の皆様に向けて、多角化戦略の実践的なアプローチをご紹介します。ぜひ、自社の成長戦略の一環としてお役立てください。

経営の多角化戦略とは

経営の多角化戦略とは、保有する資産を活用し新たな事業に取り組む企業の成長戦略です。戦略的経営の父とも呼ばれる米国の経営学者イゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を4つの成長マトリクスに分類しました。アンゾフの成長マトリクスの中の一つが、多角化戦略です。 多角化戦略が注目されている理由の一つは、消費者のニーズが多様化したことや製品の寿命が短くなったことです。単一の事業に頼りすぎると、消費者ニーズの変化についていけず経営が悪化するかもしれません。新規事業に取り組むことで、収益源を増やし企業としての成長が期待できます。

アンゾフの成長マトリクス

アンゾフの成長マトリクスでは、製品と市場の成長戦略を既存と新規に分類しています。 参照:「アンゾフの成長マトリクス」 | 経済産業省 中小企業庁 アンゾフの成長マトリクス

1.市場浸透戦略

市場浸透戦略は、既存市場に既存製品を投入する成長戦略です。既存製品の認知拡大や既存市場における購入意欲向上が課題となります。

2.新製品開発戦略

新製品開発戦略は、既存市場に新規製品を投入する成長戦略です。既存市場のニーズに対応しつつ、新規製品で競合との差別化を図ることが課題となります。

3.新市場開拓戦略

新市場開拓戦略は、新規市場に既存製品を投入する成長戦略です。新規市場における販売力が課題となります。

4.多角化戦略

多角化戦は、新規市場に新規製品を投入する成長戦略です。新規市場を開拓するコストと新規商品を開発するコストが課題となります。

多角化戦略の4つの分類

多角化戦略は、既存技術と市場の観点から4つに分類されます。

1.水平型多角化

水平型多角化戦略では、既存技術を活用し、類似した市場に製品を投入することで企業の成長を図ります。自社の設備やノウハウを流用でき、既存事業とのシナジー効果が期待できる点がポイントです。

2.垂直型多角化

垂直型多角化では、類似した市場に対し既存技術と関連性が低い製品を投入します。既存の顧客や取引先に対する販売力が活用できる一方で、新規製品を開発する技術の獲得や新規設備導入にコストがかかる点がデメリットです。

3.集中型多角化

集中型多角化とは、既存事業とは異なる市場へ既存技術を活用した新規製品を投入する成長戦略です。自社の設備やノウハウを流用できますが、新規市場を開拓する必要があります。

4.集成型多角化

集成型多角化とは、既存事業とは異なる市場へ既存技術と関連性が低い製品を投入する成長戦略です。コングロマリット型多角化とも呼ばれています。他の多角化戦略と比べると既存技術・市場に対するシナジー効果が低く、リスクの高い戦略です。

多角化戦略の成功事例5社

1.ソニー

ソニーは、エレクトロニクスをはじめとしてゲームやエンターテインメント、音楽、映画、金融など幅広い分野で多角的に事業を展開しています。ソニーが多角化戦略で成功したポイントは、映画や音楽などの分野からではなく、技術力を活用できる分野から事業を展開したことです。また、新規事業を展開できる人材やノウハウ、組織作りを迅速に確保したことも成功した要因と言えるでしょう。 参照:ソニーグループポータル | 株主向け報告書

2.富士フィルム

精密化学メーカーの富士フィルムは、デジタルカメラや化粧品、医薬品、再生医療などの分野で多角的に事業を展開しています。富士フィルムが多角化戦略で成功したポイントは、写真フィルムの需要低下を見据えて早期に事業を多角化したことと、既存事業の技術の新規事業に活用したことです。写真フイルムの主原料であるコラーゲンやフイルムの劣化を防ぐ抗酸化技術は、化粧品と親和性が高く、機能性を重視した化粧品を開発することで競合他社との競争力を維持しています。 参照:セグメント別データ | 決算ハイライト(富士フイルムホールディングス)

3.セブンイレブン

国内最大手のコンビニチェーンであるセブンイレブンは、銀行業界への参入に成功しています。セブンイレブンが多角化戦略で成功したポイントは、セブンイレブンを利用する顧客に対し、買い物をする場所だけでなく現金の引き出しや振り込みなどの手続きができる場所を提供したことです。さらに、コピーサービスや公共料金の支払い、宅配便の受け渡し、チケットの発券といったサービスに取り組むことで、顧客の利便性を高めています。 参照:セグメント情報 | 株主・投資家(IR) | セブン&アイ・ホールディングス

4.クーバルグループ

化粧品の製造・販売を行うクーバルグループは、生協事業や訪問看護、リハビリ、フィットネス、発達障害児向けの就労支援、カフェ運営、農業経営など幅広い事業を展開しています。クーバルグループが多角化戦略で成功したポイントは、FCのノウハウを全社に展開しノウハウをもとに新たなビジネスモデルを模索していることです。経営理念やビジョンを社員と共有したり、事業所をまたいで従業員同士が交流したりすることで、社員の特性を生かした事業を展開しています。 参照:多角的に事業を展開するクーバルグループのTUNAG(ツナグ)活用法

5.大野精工株式会社

自動車デバイス用精密部品加工事業を行う大野精工株式会社は、農業や飲食、福祉といった事業も展開しています。大野精工株式会社が多角化戦略で成功したポイントは、外国人や女性が働きやすい環境を整備したことです。企業の成長と地域貢献を目的として、幅広い人材を積極的に獲得しています。 参照:大野精工株式会社のTUNAG(ツナグ)活用事例

多角化戦略のメリット・デメリット

多角化戦略のメリット

1.シナジー効果

1つ目の多角化戦略のメリットは、シナジー効果が得られることです。流通経路や製造技術、機械設備、マネジメント力を共有することで相乗効果が期待できます。既存の技術やノウハウを新規事業に活用するだけではなく、新規事業で獲得した技術やノウハウを既存事業に活用することも可能です。

2.リスク分散

外部環境の変化によるリスクを分散できる点も多角化戦略のメリットと言えるでしょう。既存事業が失敗してからでは、新規事業に取り組む余力が残されていないかもしれません。事業を多角化しておくことで、環境の変化に対応しやすくなります。

3.経営資源の活用最大化

また、使われていない経営資源を効率よく活用できる点も多角化戦略のメリットです。既存の事業だけでは、経営資源を最大限活用することが難しいケースもあるでしょう。余剰となっている人材や設備を新規事業に活用することで、経営資源の効率化が図れます。

社員のモチベーションを向上させる

多角化戦略により、新しい市場や事業分野に進出することで、社員のキャリアが広がります。新しいプロジェクトや事業の立ち上げは、社員にとって刺激的で、スキルや知識を拡充する機会となります。このような成長の機会を与えることで、社員のモチベーションの向上が期待できるでしょう。

プロダクトライフサイクルに対応できる

プロダクトライフサイクルは、製品が市場に投入されてから成長、成熟、衰退に至るまでの過程のことです。 製品が市場で成熟し、売り上げが減少し始めると、新たな市場や製品が必要となります。多角化戦略を通じて新しい製品や事業に進出することで、市場の変化や製品の衰退に対応し、継続的に成長することができます。

多角化戦略のデメリット

多角化戦略のデメリットは、経営状態を悪化させるリスクがあることです。 シナジー効果によってコストを抑えることは可能ですが、新規事業を立ち上げるためには一定の投資が必要になります。新規事業がうまくいかなければ、大きな損失が発生するかもしれません。事業を拡大して、新たな人材や設備が増加することで非効率な経営状態になる可能性もあります。

多角化戦略の失敗事例3社

株式会社遠藤商事・Holdings.

低価格でナポリ風ピザを提供するフランチャイズチェーン「NAPOLI」「Napoli's PIZZA&CAFFE」等を展開していた株式会社遠藤商事・Holdings.は、不採算店をラーメンや餃子、焼き肉、カレーといった別業態へと転換した結果、2017年に破産しています。多角化戦略が失敗した原因は、急激な店舗展開に人材育成が追い付かず収益力が低下したことに加え、出店コストの借り入れの増加に伴う資金繰りが悪化したことです。 参照:格安ピザ店、急成長に人材育成が追いつかず破綻:日経ビジネス電子版

ソフトバンクグループ

ソフトバンクグループは、2000年代以降を中心に、大規模なM&Aを繰り返し、事業の多角化を行っていました。中国のアリババ、ボーダフォン日本法人、野球球団のホークス等、大きな収益と成功を収めたM&Aもありますが、2022年の4-6月の決算では、国内企業の3カ月間の決算としては過去最大の赤字額3.16兆円を記録しています。収益が悪化した原因は、米国の金利上昇への警戒感から世界的に株式相場が下落し、大幅な投資損益が発生したたことです。世界的な株価の変動は、M&Aを含む事業拡大において、外的なリスク要因となるでしょう。 参照:ソフトバンクグループ 過去最大3兆1627億円の赤字(2022年8月9日) ANN NEWS

RCA(Radio Corp. of America)

アメリカの放送・通信産業のRCA(Radio Corp. of America)は、ラジオやテレビ、ビデオ(VTR)、電子部品、放送設備へと投資することで事業を拡大したものの、1985年にはGEに買収されました。高度な技術を有する優良企業でしたが、多角化戦略のシナジー効果を経営に反映できず、ライバル企業との競争に敗れています。 参照:RCA - コトバンク

多角化戦略を成功させるためのポイント

多角化戦略を成功させるためにはいくつかのポイントを押さえておくことが重要です。以下で主要なポイントを紹介します。

段階的な進出

一度に大規模な多角化を試みるのではなく、段階的に始めることが大切です。初期段階は小規模で試験的に実施し、成功した場合に本格的に拡大することで、リスクを抑えながら多角化を進めることをおすすめします。

企業との整合性

多角化戦略を始めるときは、事業が自社の強みやリソースとどの程度一致しているかを考慮しましょう。自社の既存の技術、ノウハウ、顧客基盤などを活用できる領域で戦略を立てましょう。自社と関連性のある事業に進出することでリスクが軽減されます。

M&Aの活用

多角化戦略におけるM&Aの活用は、新しい市場や事業分野に迅速に進出するための有効な手段となります。M&Aの目的は、単に規模を拡大することではなく、シナジーを生み出すことです。ターゲットとの統合によって、コスト削減や売り上げ増加などのシナジー効果を事前に検証しておくことが重要です。

多角化戦略の進め方

多角化戦略の進め方を5つのステップに分けて解説します。

1.現状分析

まず、現在の事業ポートフォリオと市場環境を分析します。自社の強みや弱みを把握し、市場の動向や競争環境、業界のトレンド・成長性を考慮しながらどの分野での多角化が効果的か検討します。 この過程は多角化戦略を進めるにあたって欠かせません。

2.目的と戦略の設定

多角化の目標を明確にし、それに基づいた戦略を立てましょう。 多角化の目的には以下のようなものが挙げられます。 ・リスク分散 ・成長機会の追求 ・収益源の多様化 ・競争優位の強化 これに基づき、多角化の戦略を立てます。既存の事業と関連のある市場への進出や全く異なる分野への進出などどの分野や進出方法、タイミングを計画しましょう。

3.リソースと能力の評価

多角化に必要なリソース(資金、人材、技術など)を評価し、自社にはどのリソースが必要なのか評価します。必要なリソースを確保するための戦略を検討し、場合によっては、外部からの調達(M&A、パートナーシップなど)も考慮しましょう。

4.リスク管理と調整

多角化にはリスクが伴います。リスクを管理し、予測される問題に対処できるようにあらかじめ計画を立てておきましょう。 また、リスク管理の計画を立てていても市場は変動し続けるため、柔軟に対応できるように定期的に計画を見直しましょう。

5.評価と改善

多角化の成果を評価し、実施した戦略の効果を測ります。具体的には、成果のレビューと分析、フィードバックの収集、改善策の策定などが挙げられます。 また、評価やフィードバックをもとに戦略を定期的に確認し、必要に応じて改善しましょう。

多角化戦略を導入すべきか?

ハイリスク・ハイリターンな戦略

多角化戦略は、シナジー効果によって新規事業へ低コストで取り組むことができますが、リスクがないわけではありません。むしろ、ハイリスク・ハイリターンな戦略と言えるでしょう。既存事業が安定していない状態で多角化戦力を無理に進めてしまうと、既存事業にも悪影響を与えることになるかもしれません。 どのようなシナジー効果を期待するのかで、選択する多角化戦略の種類が変わります。水平型多角化戦略であれば生産技術を共有、垂直型多角化戦略であれば流通経路を共有するといったように、自社に強みを活かせる多角化戦力を選択しましょう。アンゾフの理論で戦略を整理し、成功、失敗事例を踏まえた上で、多角化戦略を導入するかを判断すべきではないでしょうか。

多角化戦略を通じたコラボレーション

事業部・グループ会社間の交流を

社内で複数の事業部があったり、グループ会社間で異なる領域の業務にあたっていると、なかなかお互いの事情が分かりづらいものです。相互理解やコラボレーションをもとにしたシナジー生み出せていないのであれば、事業部やグループ会社間の横串のコミュニケーションを促す仕組みが必要ではないでしょうか。 参照: 部署間連携強化の事例一覧 - TUNAG(ツナグ) グループ経営の課題を考える。情報共有、ガバナンス、効率化の視点から。 | TUNAG(ツナグ)

部署・組織間のコラボレーションを生み出すツール、TUNAG(ツナグ)

弊社のコミュニケーションツールのTUNAG(ツナグ)では、組織横断的なコミュニケーションを設計し、促すことができます。メール、チャットだけでは実現できない、顔が見える風通しの良いコミュニケーションを実現します。詳細は、資料をダウンロードしてご覧ください。

多角化戦略で失敗しないために

本記事では、多角化戦略のメリットやデメリット、成功させるためのポイントを解説しました。

企業の成長や市場の変化への対応に多角化戦略は有効です。シナジー効果やリスク分散といったメリットがあり、多角化は企業にとって魅力的でしょう。しかし、多角化には経営状態を悪化させるリスクがあることに注意してください。失敗事例からもわかるように多額の赤字や最悪の場合、破産するといったリスクを抱えています。

多角化戦略はハイリスク・ハイリターンな戦略です。現状を打破するために無理に進めてしまうと逆効果になることもあります。本記事で紹介した成功・失敗事例を参考に導入すべきかどうかを慎重に判断しましょう。

本記事が、多角化戦略を進める上で少しでも参考となれば幸いです。


著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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