グループ経営の課題 - 情報共有、ガバナンス、効率化の視点から。

【公認会計士 椎名 潤 氏監修】
昨今、会社の経営活動は、自社単独のみならず、M&A等の子会社の買収により幅広いビジネスを展開するなど、企業グループが一体となって経営活動を遂行するケースが主流となっています。 本記事では、このような「グループ経営」における課題や、情報共有、ガバナンス、効率的な運営について解説していきます。

グループ経営の課題

ここでは、グループ経営における課題について解説します。

全体最適ができていない

グループ経営において、企業グループ内の各社同士が、実質的にライバル関係にあるような場合、各グループ会社が自社単独の利益を最優先に考えがちになります。グループ全体としての利益追求を後回しにする意思決定を行う「部分最適化」が生じやすくなります。対応策としては、各グループ会社が、企業グループ全体の利益追及のための行動を促すようなKPIを設けたり、インセンティブ制度を設計する等が考えられます。

参考:〈タナベ経営調査〉中堅グループ企業の半数以上が“ホールディングス体制の導入”を検討・検討準備中!タナベ経営「グループ経営に関する企業アンケート調査」

対応すべきテーマ

グループ経営における対応すべき重要なテーマとしては、「経営者人材の育成」や「デジタル化への対応」等が考えられます。

経営者人材の育成

昨今はM&A等による多角化経営を行う企業が増えています。特にグローバル企業においては、多角化によるビジネスの複雑化や、海外子会社数増大による管理の複雑化が顕著となり、適切なグループ経営を実行する上での難易度は高まる一方です。
グループ経営を成功させるためには、俯瞰的な経営目線を持ち、変化を恐れず冷静な経営判断を実行できる資質を持った経営者人材の育成が不可欠であると言えます。

デジタル化への対応

ここ最近注目を集める「デジタル化」とは、単なるデジタル技術の導入ではありません。 デジタル化による「顧客への価値提供の将来像を示すこと」が、デジタル化の本質であり、経営者の重要な役割であると考えられます。

デジタル化への初期投資の段階から、短期的な利益の創出はあまり想定されず、その効果は不確実性が高いと言えます。しかし不確実性が高くても、企業グループが掲げる経営ビジョンにデジタル化への投資がどのように寄与するか、または長期的な利益の創出にどのように貢献するかを、経営者自ら説明することができれば、デジタル化に向けた投資を前向きに判断しやすくなると考えられます。

事例として、ファーストリテイリング社では、顧客が求める商品をスピーディーに開発・提供するため、「情報製造小売業」になる経営ビジョンを宣言しました。同社はマーケティングやネット販売等について、デジタル化投資の強化を図っています。
参照:ユニクロが掲げたビジョン「情報製造小売業」を実現させた5つの要素 | THE OWNER

グローバル展開の課題

ここでは、日本のグローバル企業が直面しやすい課題と、その対応策について解説します。

日本企業の課題

近年の日本企業は、大企業を中心に、海外における生産・販売拠点数の拡大や、M&Aによる海外子会社の取得など、グローバルでの活動が活発化しています。日本企業におけるグループ経営の手法は、主たる事業活動は各グループ会社が遂行し、グループ本社は経営管理に集中するケースが多く見られます。
この場合、ビジネスモデルの複雑化や、グループ会社数の増加に伴い、本社側のグループ経営に関する情報管理の負荷が増大し、本社側で全てを適切に管理することは、現実的に困難であると考えられます。

加えてM&Aにより、自社グループとは組織文化や商習慣の異なる会社を取り込んだ場合は、グループ経営の管理はより複雑になるため、本社側のみで迅速に対応ことが難しくなると考えられます。

▼参考
日本企業のグループ経営の課題と対応(2014) - KPMG
M&A・社長交代後の5つの組織課題と対策方法4選を考える | 社内ポータル・SNSのTUNAG

課題への対応策

上述の課題を踏まえた対応策としては、
✓本社が担うべきグループ経営
✓各グループ会社が担うべきグループ経営
を明確に分けることが効果的であると考えられます。すなわち、本社側が全てのグループ会社を管轄するのではなく、各グループ会社にも経営に関する意思決定権限の一部を委譲し、本社とグループ会社が一体となってグループ経営を遂行する必要があると考えられます。


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グループ経営の情報共有・人材交流

ここでは、グループ経営における情報共有や人材交流における課題と対応策について解説します。

経営方針・理念が現場に届きづらい

グループ経営において、事業拠点である会社数の増加など、事業規模が大きくなるにつれて、経営層が掲げる経営方針・理念が現場へ届きづらくなり、現場との距離感が広がってしまうことが懸念されます。その結果、現場従業員のモチベーションが低下し、離職率の増加や、企業競争力の低下といった問題が生じやすくなると考えられます。

人材の交流が少なく、他の部署のことを知らない

従業員数の増加や事業規模の拡大により、組織が縦割りになると、基本的には所属部署のメンバーとの関りが中心となり、他部署のメンバーと接する機会が減少します。また昨今のコロナ禍によるリモートワークの定着化により、従業員同士が直接顔を合わせる等の交流機会も減少傾向にあると考えられます。

対策例

上述の課題に対応するためには、グループ会社間に横串を通すためのコミュニケーションツールの導入が効果的であると考えられます。
一例として、社内コミュニケーションツール「TUNAG」の導入により、上記課題に取り組んだ企業の事例があります。

上記ツールを導入した企業グループでは、以下3点のような効果が生じ、経営方針・理念の浸透や人材交流等を促すことに成功しました。

従業員同士の交流が活性化した

リレー方式で、各従業員がTUNAGへ自己紹介の書き込みを行い、そこにコメントが付くことで盛り上がり、従業員同士の交流の場となりました。また普段なかなかTUNAGに投稿できなかった人に対し、投稿への抵抗感を払しょくするきっかけとなり、よりコミュニケーションの活性化につながりました。

参考:「グループ内の想いをひとつにつなぐ」経営理念を浸透させるための寿々グループ様の取り組み(看護・介護業)

経営判断がスムーズに浸透するようになった

経営陣からTUNAG上で、経営の基本方針等に関するメッセージの配信により全従業員へ周知されるため、現場の従業員に対し、経営判断の詳細についてスムーズに説明できるようになりました。

参考:「緊急事態宣言でも仲間と繋がれた事が心強かった」従業員2,000名に代表の想いが届き、繋がりを生んだコミュニケーション施策」株式会社ウェルカム(食品販売・飲食業)

部署異動時のストレス軽減につながった

各グループ会社の事業や雰囲気などが、日常的にTUNAGで共有されるため、部署異動する従業員にとって、新しい事業、新しい職場に対する事前のイメージが可能となり、早期に馴染めるようになりました。またこのことが、離職率の低下にもつながりました。

参考:多角的に事業を展開するクーバルグループのTUNAG活用法「事業所をまたいだ従業員同士の交流が生まれた」

グループ経営ガバナンス

ここでは、グループ経営におけるガバナンスの課題と、リスクマネジメントについて解説します。
参照:「グループ・ガバナンス」構築に向けた実務トレンド(2018) - 日本総合研究所

本社主導のガバナンスの限界

昨今、グループ経営を採用している企業グループにおいては、国内外のグループ会社の不祥事・事件等によって、グループ全体としての企業価値を毀損した事例が多く発生しています。
これらの不祥事への対応策としては、例えば本社主導で、各グループ会社を監視・監督するガバナンスの手法が考えられます。
しかし昨今は、グローバル化の加速やデジタル技術の著しい進歩等、市場環境は複雑性を増す一方です。そのような状況下で、本社主導で全てのグループ会社に対するガバナンスの強化を図ることは、極めて困難と言えます。

昨今のグループ経営においては、本社とグループ会社が一体となって、ガバナンスが有効に機能する体制構築を図ることが必要と考えられます。
そのための施策としては、まずグループ全体としてのガバナンスの基本方針を明確化し、その上で各グループ会社に委譲する権限と責任範囲を決裁権限規程に落とし込む等の取り組みが考えられます。

リスクマネジメント

企業は通常、様々なリスクにされながら、事業活動を遂行しています。
グループ経営においては、各グループ会社ごとに業種、会社規模、市場エリア等の特性が異なるため、各社に影響を及ぼすリスクの種類も異なります。
よって個社レベルのリスクのみでなく、グループ全体的な観点でリスクマネジメントを実行していくことは、企業グループが円滑に事業活動を行っていく上で不可欠と言えます。

グループ全体的な観点でのリスク管理においては、本社と各グループ会社との連携が極めて重要であると考えます。グループ全体への影響が大きいと想定されるリスクは、本社が直接管理する一方で、本社が全てのリスク管理を行うことは現実的には困難であると考えられます。
個別の事業・グループ会社に紐づくリスクについては、本社が策定したリスク管理方針に基づき各グループ会社主導で管理し、各種リスクに応じたコントロールを実行するといった、役割分担の明確化が重要になります。

続いては、リスクマネジメントの重要な概念である、「ハードコントロール」と「ソフトコントロール」について解説します。

ハードコントロール

ハードコントロールとは、社内規程、マニュアル整備やモニタリングなど、個別具体的な内部統制を意味します。ハードコントロールは、客観的に把握可能で具体性のある内部統制という特徴があります。

ソフトコントロール

ソフトコントロールとは、組織風土や倫理観など、従業員の意識に直接働きかける目に見えない内部統制を意味します。ソフトコントロールは、ハードコントロールとは対照的に、主観的かつ抽象的な内部統制という特徴があります。ソフトコントロールが適切に機能することで、従業員が社内規程・ルール等を正しく遵守することを促します。
すなわちソフトコントロールは、ハードコントロールの実効性を支える重要な土台であると言えます。"

グループ経営の効率化

ここでは、グループ経営の効率化につながる施策について解説します。

シェアードサービス

グループ経営の効率化のための代表的な手法として「シェアードサービス」があります。シェアードサービスとは、複数のグループ会社を有する大企業が、主に間接部門のサービスをグループ企業間でシェアする仕組みを言います。各グループ会社内で間接部門を設置するよりも、企業グループ全体で利用できるサービスを一つに集約した方が、業務の効率化につながりやすいと考えられます。

グループ経営上、 シェアードサービスの導入により、以下の3点における効率化が期待できます。

コスト削減

各グループ会社それぞれが運営していた間接部門に係る人員・設備等を一元的に管理・運営したほうが、管理コスト等の削減が可能となります。また、ITの普及により、シェアードサービスはオンサイトで行う必要性が低下しています。そのため、人事・経理部などの各間接部門を、海外の労働力が安価な地域に集約することで、人件費や外注費等のコストを大幅に削減することが可能となります。

業務の専門性・生産性向上

シェアードサービスの導入により、グループ全体としての業務プロセスが標準化され、業務品質の安定的な確保につなげやすくなります。また各グループ会社が培ってきたノウハウ・知見が一つに集約され、業務の専門性・生産性の向上につなげることも可能となります。

社員の意識向上

シェアードサービスの導入により、間接部門の社員は、担当のグループ会社だけでなく全グループ会社を集めた大会社の一員として働いているという意識の向上が生まれやすくなります。
その結果、各社員の業務に対する責任感が向上し、人的ミスや不正等の減少にもつながることが期待されます。

まとめ

昨今のグローバル化や事業の多角化に伴う、情報量の飛躍的な増加や質の多様化により、本社が全てのグループ会社の経営内容に踏み込み事業運営していくことは、困難になりつつあります。
一方で、本社から各グループ会社への権限移譲が進むに伴い、個別事業の部分最適化に陥ると、グループ全体の経営資源が有効活用されない、グループ間でシナジーが創出されないなど、かえってグループ経営の非効率化につながってしまう恐れがあります。

適切なグループ経営につなげていくためには、本社と各グループ会社は対立関係ではなく、グループとしての経営戦略・目的を常に共有していくことが重要です。それぞれの役割を理解しながら、グループ全体としての企業価値の最大化を推進していくことが望まれます。"


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