手当が積み重なり、支給額の根拠を説明しづらくなっている企業も少なくありません。賃金制度の見直しとは、基本給・手当・賞与の設計を組み直す取り組みです。貢献と支給額の関係を整え直すこと、と言い換えてもよいでしょう。ただし進め方を誤ると、社員の反発や人件費の膨張を招きます。本記事では、見直す理由から具体的な手順、失敗を防ぐポイントまでを順に解説します。
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本資料では、評価に対する従業員の納得感を高め、日々の成長につなげるための人事評価制度のノウハウを凝縮して解説します。 「主体性」の評価基準の設計例や、自社の現状がわかるチェックリスト付きで、今の制度状況をすぐに確認できます。
▼本資料でわかること
・評価制度が機能不全に陥る「4つの構造的原因」
・経営戦略を評価基準に落とし込む方法
・評価基準の設計例:「主体性」をどう評価する?
賃金制度は一度作ると、そのまま運用され続けがちです。しかし外部環境も社内の状況も変わっていきます。ここでは、見直しが必要になる代表的な三つの理由を確認しましょう。
賃金水準は、応募者が真っ先に比べる条件です。採用競合より低ければ、母集団はなかなか集まりません。
近年は初任給を引き上げる企業が増えています。その結果、新入社員と入社数年目の社員の差が縮まる「賃金の圧縮」が起きやすくなりました。入社3年目の社員が新入社員とほとんど変わらない給与になっている。こうした状態は、既存社員の不満や離職につながりかねません。
制度を見直すと、入り口の水準だけでなく賃金カーブ全体を整えられます。長く働くほど処遇が上がる道筋が見えれば、定着にもつながるでしょう。
給与は生活の基盤であると同時に、評価のメッセージでもあります。成果を出した人と、そうでない人の支給額が変わらない。この状態が続くと、貢献意欲は下がっていきます。
評価結果が処遇にどう反映されるのかが不透明な場合も同じです。「頑張っても給与に反映されない」という認識が広がれば、制度そのものへの信頼が失われます。
評価と賃金のつながりを明確にすることが大切です。何をすれば等級が上がり、給与がどう変わるのかという道筋が見えるだけで、日々の仕事の受け止め方は変わります。
事業戦略が変わったのに、賃金制度だけが以前のままというケースは珍しくありません。
新規事業のために専門人材を採りたい、という場面を考えてみましょう。制度が勤続年数や年齢を基準にしたままだと、役割の重さに見合った処遇を用意できません。結果として、採用も昇格も進まなくなります。制度と戦略のずれが、経営判断の足かせになるのです。
制度は経営方針を実現するための道具です。どのような人材に、どう報いたいのか。その方針と制度が一致しているかを確認しましょう。
見直しは思いつきで進めると途中で行き詰まります。現状把握から移行計画まで、順を追って進めることが重要です。ここでは実務的な四つのステップを紹介します。

最初に行うのは、今の制度で何が起きているかを数字で押さえることです。賃金台帳や等級ごとの支給実績を集めて、実態を可視化しましょう。
現状把握で確認したい項目は次の通りです。
特に手当の棚卸しは効果があります。導入の経緯が誰も分からない手当が残っていることは、実際によくあるためです。洗い出した課題を基に、今回の見直しで何を解決するのかを一つか二つに絞りましょう。
自社の水準が高いのか低いのかは、社内の情報だけでは判断できません。外部データと突き合わせる必要があります。
参考になる代表的な情報源が、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」です。産業・企業規模・職種・年齢階級ごとの賃金が公表されています。同じく厚生労働省の「就労条件総合調査」では、賃金制度の改定状況や諸手当の状況を確認できます。
比較する際は条件をそろえることが大切です。地域、企業規模、職種を近い条件に絞って見ましょう。併せて、実際に採用が競合する企業の求人票を確認する方法も有効です。応募者が比べているのは統計値ではなく、目の前の求人だからです。
新しい制度を設計したら、必ず総額人件費で試算します。ここを飛ばすと、後から経営を圧迫することになります。
見積もりに含めるべき費用は次の通りです。
昇給は一度実施すると、翌年以降も固定費として残り続けます。社会保険料の会社負担も、賃上げに連動して増えていきます。新制度を適用した場合の総額を、現行制度のまま推移した場合と並べて比較しましょう。3年後、5年後まで試算しておくと判断しやすくなります。
制度の切り替えは一日では終わりません。設計から運用開始まで、1年程度をみておくと無理がないでしょう。
移行スケジュールの一例が次の表です。

移行時に支給額が下がる社員が出る場合は、差額を補う調整給を設ける方法があります。数年かけて段階的に縮小していく設計にすれば、急激な変化を避けられます。
制度そのものが優れていても、進め方を誤れば定着しません。ここでは、実務で押さえておきたい四つのポイントを解説します。
失敗の要因としてよくあるのが、三つの要素の役割が混ざっていることです。それぞれの位置づけを整理しましょう。

役割を分けると、支給額の根拠を説明できるようになります。手当を整理する場合は、廃止分を基本給へ組み入れる方法があります。ただし、基本給が増えると割増賃金の単価や社会保険料の算定基礎も変わります。総支給額を揃えても手取りが同額になるとは限らないため、個別に試算しておきましょう。
公平性には二つの側面があります。社外と比べたときの水準と、社内で比べたときのバランスです。
社内のバランスでは、同じ等級の社員の支給額に説明のつかない差がないかを確認します。中途採用者の入社時の交渉結果が、そのまま残っているケースは要注意です。
法律の面では、パートタイム・有期雇用労働法が定める均衡待遇と均等待遇の考え方を押さえましょう。正社員と非正規社員で待遇に差を設ける場合、職務内容や責任の範囲などに照らして不合理でないことが求められます。手当の支給要件が雇用形態だけで分かれていないか、併せて点検してください。
なお2023年4月からは、労使協定の締結など一定の要件のもとで、指定資金移動業者の口座への支払いも認められています。制度を変える際も、この枠から外れることはできません。
例えば、新制度の移行に伴う過払い分を翌月給与から一方的に差し引くことはできません。控除には労使協定が必要です。制度設計の段階で、この五原則に抵触しないかを確認しておきましょう。
制度改定で最も慎重さが求められるのが、この段階です。賃金を引き下げる変更は、労働条件の不利益変更に当たります。
労働契約法9条は、労働者と合意することなく、就業規則の変更によって不利益に労働条件を変更することはできないと定めています。ただし10条により、変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ変更が合理的であれば認められます。
合理性は、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合との交渉の状況などを総合して判断されます。要件が複雑なため、実際に賃金を引き下げる変更を行う際は、社会保険労務士や弁護士に相談することをおすすめします。
実務では、全社説明会と個別面談を組み合わせるとよいでしょう。説明会では、なぜ見直すのかという背景と全体像を伝えます。個別面談では、その人の支給額がどう変わるのかを具体的に示します。
支給額がどう変わるかを伝えるだけでは足りません。どんな成果や行動が評価され、それが処遇にどうつながるのか。その考え方まで共有しましょう。制度の背景が伝わって初めて、社員は納得できます。
賃金制度の見直しは、役割ごとに設計を分け、総額を管理しながら進めることが基本です。そのうえで、制度の考え方が現場に伝わり続けるかどうかが定着を左右します。
新制度は導入した時点で終わりではありません。等級の基準や評価の考え方を、日常的に社員が確認できる状態にしておく必要があります。
制度を整える取り組みと、それを伝え続ける仕組みとがそろったとき、貢献が正しく報われる組織に近づいていきます。