組織風土改革とは?メリットや具体的な進め方、成功のポイントを解説
「制度は整えたのに期待した成果が出ない」と悩んでいるなら、原因は組織風土にあるかもしれません。組織の価値観や行動を変えることで、生産性とエンゲージメント向上を実現することが可能です。本記事では、組織風土改革の具体策と成功事例を解説します。
組織風土の基本知識
組織風土は企業活動の基盤であり、従業員の行動や意思決定に大きな影響を与えます。まずは組織風土の基本知識を整理し、改革の出発点となる理解を深めていきましょう。
組織風土とは
組織風土とは、企業や組織内で共有されている価値観・思考・行動の傾向を指す概念です。行動規範や企業理念のように明文化されたものだけでなく、日常の業務の中で自然に根付いた暗黙の前提や職場の空気なども含まれます。
「従業員が新しい提案を歓迎するか」「失敗を避けて無難な行動を選ぶか」「部門間で助け合う文化があるか」といった要素は、全て組織風土に表れます。
企業の歴史・経営層の姿勢・人事評価制度・社内コミュニケーションの習慣など、組織風土はさまざまな要因の積み重ねで形成されるため、短期間で変えることは容易ではありません。しかし、組織風土は従業員のモチベーションや企業の生産性、イノベーションの創出に影響を与える重要な土台であり、組織力を高める上で欠かせない視点といえます。
組織文化や社風との違い
組織風土は「組織文化」や「社風」と混同されることがありますが、それぞれは異なる概念です。
組織文化は、組織が大切にしている価値観や信念を指し、企業理念・ミッション・行動指針などに反映されやすい特徴があります。また、社風は従業員が日々の業務の中で感じ取る雰囲気や職場の空気を意味し、「明るい雰囲気」「挑戦を重視する」「上下関係が厳しい」など感覚的に表現されることが多い傾向があります。
一方の組織風土はそれらを含むより広い概念で、価値観・行動様式・人間関係の型・意思決定の傾向など、組織運営の土台となる特性の総称です。組織文化が「組織としてのあり方」、社風が「働く場の印象」を示すのに対し、組織風土はそれらを支える実態であり、組織の成果や従業員の行動に深く影響を及ぼします。
組織風土の代表的な種類
組織風土は行動特性や価値観の傾向によって4つのタイプに分類できます。自社の組織風土を把握することは、課題の発見や改善方針の明確化につながります。以下の分類は代表的な4パターンです。
組織風土の種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
家族的風土 | 人間関係重視、仲間意識が強い | 定着率が高い、協力体制が強い | 変化に弱い、同調圧力が生まれやすい |
官僚的風土 | ルールや手順を重視 | 安定した運営、品質の均一化 | 意思決定に時間がかかる、柔軟性に欠ける |
企業家的風土 | 挑戦や成果を重視 | イノベーションが生まれやすい | 個人主義に傾きやすい |
市場志向風土 | 競争や成果を重視 | 高い業績を追求 | プレッシャーが大きく疲弊しやすい |
組織風土改革を進める際は、現状の風土タイプを把握し、理想とする状態とのギャップを明確にすることが重要です。
組織風土改革が求められるケース
組織風土改革が求められるのは、表面的な制度や仕組みの改善では解決できない課題が組織に生じているときです。次のような症状が複数同時に見られる場合、組織風土そのものを見直さなければならないでしょう。
- 離職率が高い、採用しても定着しない
- 部門間の対立や情報の分断が起きている
- 新しい取り組みが進まない、挑戦が生まれにくい
- 指示待ちが多く主体的に動く従業員が少ない
- 経営層と現場の意識に大きな乖離がある
- 評価制度が形骸化してモチベーションが低い
- 形式的な報連相はあるが実質的な対話が不足している
- 従業員の不満がたまりやすくエンゲージメントが低い
- ミスが隠蔽されやすい、心理的安全性に欠ける
- 変化に対応するスピードが遅く競争力が低下している
このような状態では、制度を追加するだけでは根本的な解決になりません。従業員の価値観や行動の背景にある組織風土を見直し、改革へとつなげる必要があります。
組織風土を構成する要素
組織風土は、組織運営に関わる複数の要素が影響し合うことで形づくられます。主な構成要素としては次の通りです。
- 理念・価値観:企業が大切にする考え方や行動の基準となる指針
- 組織構造:意思決定プロセスや権限の分配、管理体制のあり方
- 制度・ルール:評価制度・人事制度・教育制度などの仕組み
- 行動様式:従業員の働き方や意思決定の傾向、コミュニケーションの取り方
- 人間関係・信頼関係:職場での協力体制や心理的安全性の有無
- 社内コミュニケーション:情報共有の量と質、対話の頻度や方法
- 経営スタイル:経営層の姿勢や現場との関わり方
これらの要素は相互に影響し合い、組織全体の雰囲気や従業員の行動傾向を形成します。組織風土を改革する際は一部の仕組みだけを変えるのではなく、理念・制度・行動などに一貫性を持って見直すことが大切です。
組織風土改革を行うメリット
組織風土改革は時間と労力を要する取り組みですが、その効果は企業経営に大きなメリットをもたらします。組織風土改革がもたらす4つのメリットを見ていきましょう。
生産性がアップする
生産性の向上に悩む組織では、業務プロセスの非効率さや意思決定の遅さという表面的な課題の背景に、「変化を避ける姿勢」「前例踏襲の習慣」「部門間の協力不足」といった風土的な要因が潜んでいるケースが少なくありません。
組織風土改革によって挑戦や改善を歓迎する姿勢が根付き、従業員同士の協力体制が強化されれば、業務の無駄削減や属人化の解消が加速します。また、目標や役割が明確になれば、組織全体の意思決定スピードが向上し、成果につながる行動が加速するでしょう。
単なる業務改善では限界がある場合でも、風土改革を進めることで組織パフォーマンスの向上を持続的に実現できます。
従業員エンゲージメントが高まる
従業員エンゲージメントとは、従業員が組織に対して感じる貢献意欲や愛着、仕事への主体性の度合いを指します。一時的な気分の高まりを意味するモチベーションとは異なり、「この組織の成長に貢献したい」「この仕事に価値を感じている」という持続的な状態を意味します。
組織風土改革を進めれば、従業員エンゲージメントの向上を図れます。例えば、成果だけでなく挑戦や成長を評価する風土をつくることで、従業員が前向きに仕事に取り組める環境が整います。また、経営層と現場の対話が活性化して組織の方向性やビジョンが共有されれば、従業員は自分の役割を理解しやすくなるでしょう。
公正な評価制度や心理的安全性の高い職場が実現した場合、従業員は長期的に組織へ貢献しようとする意識を持ちやすくなります。このように、組織風土改革は従業員の意欲を高め、組織の成長を支える重要な要素となります。
人間関係が良好になる
組織風土改革は、職場の人間関係の改善にも大きく寄与します。
職場で発生するトラブルの多くは、業務内容そのものよりも、相互理解の不足やコミュニケーションの断絶によって引き起こされます。上下関係が強く意見が言いにくい状況や、部署間で協力が生まれにくい状況が続くと、従業員は孤立感や不信感を抱きやすくなります。
組織風土改革により相互尊重や対話を促す風土を築けば、従業員同士が協力する働きやすい環境が整うでしょう。また、心理的安全性が高まることで、相手の反応を過度に気にせず意見や提案を伝えやすくなり、円滑な人間関係が育まれます。
その結果、チームの連携強化や職場の一体感の向上につながり、従業員が安心して働ける健全な組織づくりを実現できます。
ビジョンの共有が促進される
ビジョンとは企業が目指す方向性や存在意義を示すものであり、全従業員が同じ目的を理解していなければ、一体感のある行動や継続的な成長は期待できません。しかし、日常業務の忙しさや部署間の分断があると経営層の思いが現場に届かず、目的を見失った業務遂行に陥りがちです。
組織風土改革では、社内コミュニケーションの活性化や情報共有の仕組みづくりを通じて、経営トップから現場まで一貫したメッセージを伝えられる環境を整えます。従業員一人一人が企業の方向性を理解し、自分の業務がビジョン達成にどうつながるのかを自覚できるようになるのです。
ビジョンの共有は行動基準の統一にもつながり、組織全体として迷いのない意思決定を行えるようになります。
組織風土改革の具体的な進め方
組織風土改革は、組織全体を巻き込みながら計画的に進める必要があります。改革を進める際の基本プロセスを4つのステップに分けて解説します。
現状を分析し課題を明確化する
組織風土改革の第一歩は、現状を正確に把握し課題を可視化することです。感覚的な判断や一部の声だけを基に改革を進めると、真の課題を見誤り、対症療法的な施策に終わってしまいます。
アンケート調査・従業員インタビュー・エンゲージメントサーベイなどを活用し、組織全体の実態を客観的に把握することが重要です。また、定量データに加えて「職場の雰囲気」「コミュニケーションの質」「心理的安全性」などの定性的な情報も収集し、課題の背景にある要因まで掘り下げて分析する必要があります。
経営層・管理職・現場従業員など立場の異なる層ごとに意見の違いを整理すれば、組織内の認識ギャップを発見することが可能です。現状分析を丁寧に行うことで、改革の優先順位や取り組むべきテーマを明確化でき、効果的な組織風土改革へとつながります。
組織風土改革の必要性を社内で共有する
組織風土改革は、現場に施策を押し付けるだけではうまくいきません。従業員の理解と納得を得ながら進めなければ、表面的な取り組みとなり形骸化してしまいます。
改革の初期段階では、「なぜ組織風土改革が必要なのか」を全社で共有し、共通認識を醸成することが重要です。現状の課題を正直に伝え、改革の目的と期待される効果を明確に示すことで、従業員の納得感を高められます。
社内説明会や部門別ミーティングを通じて、経営層→管理職→現場へと段階的に理解を広げるアプローチが有効です。一度の発信で終わらせず、社内報やイントラネットで継続的にメッセージを届けることで、改革への参加意識を醸成できます。
アクションプランを策定し実行に移す
組織風土改革を現実的な取り組みに落とし込むためには、具体的なアクションプランの策定が欠かせません。理想像やスローガンを掲げるだけでは、現場での行動変化にはつながらないためです。
まずは現状分析で抽出した課題に優先順位をつけ、短期・中期・長期の3段階で実行計画を整理します。実行可能性を高めるために「誰が・いつまでに・何を行うのか」を明確にし、担当者や関係部門との役割を定義しておくことが重要です。
行動計画は制度改革や仕組みの整備だけでなく、組織内のコミュニケーション改善や評価基準の見直しなど、行動変容を促す施策を盛り込みましょう。アクションを実行に移す際は、部分的な取り組みで終わらないよう、経営層から現場まで一体となって取り組める推進体制を構築することが成功のポイントです。
進捗を管理し柔軟に軌道修正を行う
組織風土改革は一度計画した施策を実行して終わりではなく、継続的に効果を検証しながら改善を重ねていく必要があります。
組織風土は目に見えにくい要素が多いため、進捗管理を怠ると取り組みが有名無実化し、成果が曖昧なまま終わってしまう恐れがあります。
改革の目的に基づいたKPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に変化を測定することが重要です。
従業員エンゲージメントスコア・部門間連携の改善度・制度利用率・1on1実施率などを活用し、具体的な数値で進捗を把握しましょう。また、施策が想定通りに機能していない場合には、原因分析を行いながら柔軟に軌道修正を図ることが求められます。
環境変化に応じて改善し続ける姿勢こそが、組織風土改革を成功へ導く重要なポイントです。
組織風土改革を成功させるためのポイント
組織風土改革は計画通りに進むとは限らず、途中で停滞したり形骸化したりすることも少なくありません。成功に導くために押さえるべき重要なポイントを解説します。
経営層が積極的にコミットする
組織風土改革を成功させるためには、経営層が本気で取り組む姿勢を示すことです。現場主導のボトムアップだけでは、改革が一部の部署に止まり、取り組みが数ヶ月で立ち消えになるリスクがあります。経営層が改革の必要性を明確に打ち出し、ビジョンと変革方針を示すことで、組織全体が同じ方向を向くことが可能になるのです。
また、経営層は言葉だけでなく行動で姿勢を示すことも重要です。施策の会議や社内発信に積極的に参加する、組織課題について現場の声を直接聞く機会をつくるなど、リーダーシップを体現することが求められます。
経営層が評価制度や組織体制の見直しに関与し、改革を推進する意思を示せば、従業員の信頼を得ながら継続的な改革を進めやすくなるでしょう。
従業員が主体的に関与できる環境をつくる
現場の意識や行動が変わらなければ、いくら制度や仕組みを整えても組織風土は変わりません。改革の実行段階では、従業員が主体的に関わる環境づくりが重要です。
トップダウンで施策を押し付けるのではなく、月1回の意見交換会や匿名アンケートで従業員の声を収集し、改善案に反映することで、取り組みへの納得感と参加意識を高められます。
このとき、意見を募る仕組みを設けるだけでなく、改善提案を評価する制度やプロジェクト型のチームを設置するなど、従業員自らが改革に関与できる仕組みを整えることが有効です。
また、現場の意見を実際の施策に反映し、その結果をフィードバックすることも信頼醸成につながります。従業員が「自分たちの組織を自分たちで良くしていく」という感覚を持てる環境をつくることが、改革を持続可能な取り組みにするポイントになります。
職場の心理的安全性を高める
心理的安全性とは、職場で自分の意見を安心して表現でき、失敗を恐れず挑戦できる状態を指します。これが低い職場では、従業員が批判を恐れて発言を控え、新しいアイデアを出すことを避けるため、建設的な議論や改善の動きが停滞してしまいます。
組織風土改革を進める上で、心理的安全性を高めることは不可欠です。失敗を頭ごなしに否定するのではなく、挑戦を評価する姿勢を示す必要があります。1on1や意見交換の場を設けて対話を促進し、従業員が安心して意見を発信できる環境をつくるのも効果的です。
これらの取り組みにより、組織内に挑戦が生まれやすい風土が醸成され、活発なコミュニケーションと主体的な行動が育まれます。
社内コミュニケーションを活性化させる
社内コミュニケーションは組織風土を形成する基盤であり、その活性化は改革成功の鍵を握ります。
コミュニケーションが不足すると、部門間の連携が途切れ、必要な情報が共有されないまま滞り、組織の一体感が低下します。
相互理解が進まず不信感が生じることで、業務効率にも悪影響を及ぼすでしょう。組織風土改革では、コミュニケーションの総量と質を高める仕組みづくりが求められます。
具体的には、部署を横断したミーティングの実施や経営層からの定期的なメッセージ発信、1on1による対話機会の強化が効果的です。また、社内SNSや情報共有ツールを活用することで、現場の情報がオープンになり知識やノウハウの循環を促進できます。
組織全体でコミュニケーションを活性化すれば、相互理解と協力が深まり、健全な組織風土の土台が構築されるのです。
組織風土改革に活用したいフレームワーク
組織風土改革は、場当たり的な施策の積み重ねではなく、実証されたフレームワークを活用して体系的に取り組むことが重要です。
その際に役立つのが、企業変革や組織開発の分野で確立されたフレームワークです。代表的な4つの手法を紹介します。
マッキンゼーの7S
マッキンゼーの7Sは、組織の現状を多面的に分析し、課題の本質を明らかにするためのフレームワークです。7つの要素の頭文字がいずれも「S」で始まることからこの名称が付けられています。7つの要素は次の通りです。
- Strategy(戦略):組織が目指す方向性や競争戦略
- Structure(組織構造):権限や役割分担、組織体制
- System(制度・仕組み):評価制度・業務プロセスなど
- Shared Value(共有価値観):組織の根幹となる価値観
- Style(経営スタイル):リーダーシップや意思決定の特徴
- Staff(人材):従業員構成や育成方針
- Skill(スキル):組織が持つ専門性・強み
このフレームワークの特徴は、7つの要素が相互に影響し合う前提で分析する点にあります。組織風土改革を進める際には、特定の問題を単独で捉えるのではなく、組織全体のバランスを見ながら改善することが重要です。そのため、マッキンゼーの7Sは改革前の現状把握や改革プラン設計に役立つ手法として活用できます。
8段階組織変革プロセス
8段階組織変革プロセスは、ジョン・P・コッターが提唱した組織変革のモデルです。変革が失敗する理由を分析し、成功に導くための具体的なプロセスを8つの段階に整理したもので、次のように構成されています。
- 危機意識を高める
- 変革推進チームを結成する
- ビジョンと戦略を策定する
- 変革の必要性を社内に周知する
- 従業員の主体的行動を促す環境を整える
- 短期的成功を積み重ねる
- 成果を拡大し変革を継続させる
- 新しい文化を組織に定着させる
8段階組織変革プロセスでは、単に施策を実行するだけでなく、「変革を組織に根付かせること」を重視しています。組織風土改革においても、方針策定から社内浸透、定着化まで一貫したプロセスを踏むことが成功のポイントです。
OKR
OKR(Objectives and Key Results)は、GoogleやIntelなどの企業が採用し広く普及した目標管理フレームワークです。「Objectives(達成したい目標)」と「Key Results(目標を測定するための主要な成果指標)」の2つで構成され、組織・チーム・個人の目標を一貫性を持って連動させられます。
OKRの特徴は、数値管理よりも組織の方向性と挑戦を重視する点にあります。従来のMBO(目標管理制度)と比べ、より柔軟かつ成長志向の目標設定が可能です。
短いサイクルで進捗を確認し、透明性の高い目標共有を行うため、組織全体の一体感を高める効果もあります。組織風土改革においては、OKRを活用することで、改革の目的を明確にしながら現場の主体的な取り組みを引き出しやすくなるでしょう。
チェンジマネジメント
チェンジマネジメントとは、組織が変革を進める際に発生する抵抗や混乱を管理し、スムーズに変化を浸透させるためのマネジメント手法です。
組織風土改革は従業員の価値観や行動習慣に影響を及ぼすため、抵抗が生じやすくなります。その抵抗に適切に対応しながら変革を推進することが、チェンジマネジメントの目的です。
主な取り組みとしては、変革の必要性を明確に伝えるコミュニケーション、従業員を巻き込む仕組みづくり、改革を支える人材の育成、成果の可視化と定着支援などが挙げられます。また、従業員が変化を受け入れやすくするためには、不安を軽減し、改革のメリットを実感できる仕掛けを取り入れることも重要です。
チェンジマネジメントは、一過性の取り組みで終わらせず改革を組織に根付かせるための重要な取り組みだといえます。
実際に組織風土を改革した企業事例
組織風土改革に成功した企業の取り組みを分析すると、共通する考え方や施策のポイントが見えてきます。代表的な4社の事例を見ていきましょう。
キリンビール
キリンビールは、2001年に業界首位の座を明け渡したことをきっかけに、組織風土改革に本格的に取り組み始めました。社長による「新キリン宣言」の発信を皮切りに、「お客様本位」「品質本位」という価値観を全社で再定義し、企業としての方向性を明確にしました。
改革の特徴は、経営だけでなく現場を巻き込む推進体制を構築した点です。特に、労働組合や若手従業員を積極的に巻き込んだことが大きなポイントとなっています。
経営層が一方的に方針を押し付けるのではなく、対話を重視する姿勢を徹底し、社長自ら全国の拠点を巡って従業員と意見交換を行う取り組みを継続しました。また、社内には若手人材による提案型プロジェクトや育成プログラムが設けられ、従業員一人一人が主体的に改革に関わる土壌が整えられています。
これらの取り組みにより、組織に存在していた上下の壁や部門間の分断が解消され、風通しの良い企業文化が醸成されました。従業員の意識変革と主体性の発揮によって企業の競争力を取り戻した事例として注目されています。
トヨタ自動車
トヨタ自動車では、グローバル市場の激化や技術革新、組織拡大とともに、従来の「教え・教えられる」風土に課題が生じていました。そこで同社は、組織風土改革の一環として、職位・階層構造や意思決定プロセスの見直しに着手しました。
職場をフラット化し、部門・階層を越えた協働体制を整備することで、意思決定のスピードと従業員の裁量を高めています。同時に、従業員が成長実感を持てる環境づくりとして、職場ごとに「職場先輩制度」を設け、若手が先輩に相談しやすい体制を構築しました。
問題発生時には、「三現主義(現地・現物・現実)」と「なぜなぜ5回」の共通言語による分析を徹底し、ミスの早期発見・対応に取り組みました。さらに、トップが現場の声を直接聴き、労使協議などで課題を共有しながら、モノづくり・人づくりの姿勢を強化しています。
このような多面的な改革により、従業員が自ら改善に参加できる風土が醸成され、変化に強い組織基盤を築いていったのです。
組織風土改革の先進事例としてグローバルで注目されるのがGoogleです。同社では、従業員が日常的に意見を交わし、対話を通じて学び合う文化を構築しています。
例えば、1on1の形式でカジュアルにコーヒーを囲みながら対話する場を設け、職位や部署を超えて声が届きやすい環境を整備しました。このような取り組みにより、従業員は「思いを言っていい」「失敗しても学べる」という安心感を持ち、挑戦的な行動を取りやすくなっています。
また、透明性の高い情報共有やオープンな議論の場により、組織全体が変化を受け入れ進化し続ける風土が根付きつつあります。変化・成長を日常とする文化こそが、Googleがイノベーションを持続できる原動力となっており、組織風土改革を目指す企業にとっての貴重な参照モデルといえるでしょう。
日本航空
日本航空(JAL)は、経営破綻という極限の状況を経て、組織風土の根本的な改革を図った企業の代表例です。
全従業員が共有すべき価値観として「JALフィロソフィ」を策定し、職場ごとにその実践テーマを掲げて毎日の業務に落とし込む教育を継続しました。また、現場の小集団に経営意識を持たせる「アメーバ経営」的な手法を導入し、傍観者ではなく当事者として従業員が主体的に行動する仕組みを整えています。
加えて、トップが現場に足を運んで従業員との対話で価値観のすり合わせを図ることで、階層や部門を超えた一体感を醸成しました。このような価値観の刷り込みと行動変革の両輪により、かつて機械的・官僚的だった社風から、従業員一人一人が自ら考えて動く風土へと転換を遂げています。
組織風土改革の推進に役立つ「TUNAG」
組織風土改革は、「掲げた理念をどう現場に浸透させるか」が成功の分かれ道です。TUNAG(ツナグ)はその課題に真正面から向き合い、組織を変える仕組みを提供するサービスとして導入企業を拡大しています。ここからは、TUNAGの特徴と活用事例を紹介します。
組織風土改革に貢献できるTUNAGの機能
TUNAG(ツナグ)は、従業員エンゲージメント向上や社内コミュニケーション活性化を目的としたクラウド型プラットフォームです。企業理念や経営方針の浸透、従業員同士のつながり強化、制度運用の改善など、組織運営に必要な仕組みを日常業務の中に定着させることを支援します。
単なるコミュニケーションツールではなく、企業文化の醸成と組織風土改革を推進する仕組み化を実現できる点が大きな特徴です。TUNAGが組織風土改革に貢献できる理由は、次のような機能を備えているためです。
機能カテゴリ | 主な内容・効果 |
情報発信・社内浸透機能 | 経営メッセージや理念・方針を全社に共有し、組織の一体感を醸成 |
双方向コミュニケーション | コメント・リアクション・社内SNSで従業員の声を引き出す |
制度運用・業務定着 | ワークフロー機能により制度を形骸化させず運用を仕組み化 |
エンゲージメント可視化 | 投稿・反応・参加率などから組織の状態を見える化 |
承認・称賛文化の醸成 | サンクスカード機能で感謝の可視化とプラスの文化づくりを支援 |
これらの機能により、組織の課題になりやすい「情報が届かない」「制度が定着しない」「従業員の主体性が生まれない」といった問題を解消しやすくなります。
TUNAGの活用で組織風土改革に成功した事例
全国約600拠点・従業員約6,000人を擁する渡辺パイプ株式会社では、拠点間の連携が希薄で「理念が現場に浸透していない」「従業員同士のつながりを感じられない」といった課題を抱えていました。Web社内報ではログイン率の分析や投稿の自由度に限界があり、対話型コミュニケーションを構築するには不十分な状態でした。
そこでTUNAGを導入し、トップメッセージ配信や拠点紹介の「SCリレーコラム」、朝から利用促進する「TUNAG宝くじ」企画などを活用しています。顔写真登録率90%超を達成し、拠点を超えた投稿・コメントも増加しました。
TUNAGの導入後は従業員が互いの顔や仕事を知る機会が増え、横のつながりが強化されて情報が届かない状況が改善しました。組織の一体感とコミュニケーション活性化の成果を得ています。
また、創業80年の食品卸売企業の株式会社山福では、M&Aや全国展開を経た結果、支社間・製造部門・営業部門など間に距離感が生まれ、従業員の「会社としての一体感」「どこにどんな仕事があるか分からない」といった思いが課題でした。
従来のチャットや複数ツール使用では情報がクローズド化し、後から入った従業員が追えないという状況もありました。
TUNAGの導入後は、社内報機能+ワークフロー・組織図機能を活用し、「誰でも投稿できる」「部署紹介」「製造・営業の情報共有」を促進しています。朝礼内容の投稿や管理職ブログで心理的距離も縮まり、社内アンケートでは約9割が「事業理解が深まった」と回答しました。
これが次のステップであるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定の土台にもなっています。
出典:600拠点の従業員6,000名がつながる。コミュニケーション課題を解決した渡辺パイプの挑戦 | TUNAG(ツナグ)
出典:創業80年、組織変革に成功。M&Aや事業拡大の溝を埋めたWeb社内報運用の秘訣 | TUNAG(ツナグ)
組織風土改革で企業の成長と競争力強化を図ろう
組織風土改革は、制度や仕組みを整えるだけでは実現できない企業変革の要となる取り組みです。現場の声を取り入れながら課題解決を積み重ねることで、従業員の主体性や協働性が高まり、生産性向上や離職防止といった効果を期待できます。
市場環境が急速に変化する今、組織の強さは制度や戦略だけでなく、それを支える風土によって決まります。表面的な改善にとどまらず、中長期的な視点で風土改革に取り組み、企業の未来を切り開いていきましょう。













