承継人とは?事業承継の種類や選定基準について解説
事業承継を検討する際、最も重要な要素の一つが「承継人」の選定です。そのためには、承継人という言葉の正確な意味や、どのような基準で選ぶべきかについて明確に理解する必要があります。本記事では、承継人の基本概念から具体的な選定方法まで、事業承継成功のための重要なポイントを詳しく解説します。
承継人とは何か
承継人について正しく理解することは、事業承継を成功に導く第一歩です。法的な定義から実務的な意味まで、承継人に関する基本的な知識を整理しましょう。
承継の基本概念
承継とは、前の権利者が持っていた権利や義務、地位などを後の者が引き継ぐことを指します。法律用語として使われる場合、個人の死亡や法人の合併・分割などによって発生する権利義務の移転を意味します。
事業承継の文脈では、経営者が持つ株式や経営権、事業に関わる様々な権利義務を後継者に引き継ぐことを指します。これには会社の所有権だけでなく、経営ノウハウや取引先との関係、従業員との信頼関係なども含まれます。
承継人と相続人の明確な違い
承継人と相続人は混同されがちですが、法的には明確な違いがあります。相続人は被相続人の死亡によって財産を受け継ぐ法定の地位を持つ人を指し、原則として血族や配偶者に限定されます。
一方、承継人は権利義務を引き継ぐ人全般を指す概念で、血縁関係の有無は問いません。事業承継では、経営能力や事業への理解度、将来への展望などを総合的に判断して選定されます。
例えば、創業者の長男が会社を継ぐ場合、その人は相続人でもあり承継人でもあります。しかし、優秀な従業員が事業を引き継ぐ場合、その人は承継人ですが相続人ではありません。
承継人の種類と分類
承継人には法的な分類があり、それぞれ異なる特徴と効果を持ちます。適切な承継方法を選択するために、各種類の内容を詳しく確認しましょう。
一般承継人
一般承継人とは、被承継人の権利義務を包括的に引き継ぐ人のことです。個別の権利義務を特定せず、すべてを一括して承継する特徴があります。
個人の場合、相続による承継が典型的な一般承継です。被相続人の財産だけでなく、借金などの債務も含めてすべての権利義務を相続人が引き継ぎます。ただし、相続人は単純承認・限定承認・相続放棄の選択権を持ちます。
法人の場合、合併による承継が一般承継に該当します。合併により消滅する会社の権利義務は、存続会社または新設会社がすべて引き継ぐことになります。事業に関する契約関係や許認可なども、原則として引き継がれます。
一般承継の特徴は、個別の同意や手続きを経ることなく、法律の規定により自動的に権利義務が移転することです。
特定承継人
特定承継人とは、特定の権利義務のみを個別に引き継ぐ人のことです。承継する範囲を限定できるため、リスクを抑えながら必要な部分のみを引き継ぐことができるという利点があります。
事業承継では、事業譲渡による承継が特定承継の代表例です。譲渡する事業の範囲や対象となる資産・負債を個別に特定し、契約によって権利義務を移転します。
株式譲渡も特定承継の一形態です。株式という特定の権利のみを譲渡することで、間接的に会社の経営権を移転させます。この場合、会社の権利義務関係には変化がありませんが、経営権の承継が実現されるでしょう。
特定承継では、取引先や債権者など第三者の同意が必要になる場合が多く、手続きが複雑になる傾向があります。
承継方法による権利義務の違い
一般承継と特定承継では、承継される権利義務の範囲や手続きに大きな違いがあります。これらの違いを理解することで、自社の状況に最適な承継方法を選択できるでしょう。
一般承継では、契約関係が法的に自動的に承継されることが多く、取引先との契約を個別に変更する必要がない場合があります。許認可については、その種類によって承継の可否が異なります。建設業許可のように承継可能なものもあれば、個人の資格に基づく許認可は新たな取得が必要です。
特定承継では、承継する範囲を限定できるため、不要な負債やリスクを避けられます。しかし、契約の移転には相手方の同意が必要で、許認可の再取得が必要になる場合もあります。
承継方法の選択は、事業の性質や承継人の状況、リスクの程度などを総合的に考慮して決定する必要があります。
承継が行われる具体的ケースと選択基準
実際の事業承継では、様々な状況に応じて最適な承継方法を選択する必要があります。一般承継と特定承継それぞれが選ばれる典型的なケースを確認しましょう。
一般承継が行われる場合
一般承継は、事業全体を一括して承継したい場合に選択されます。特に、長年にわたって築いてきた取引関係や従業員との関係を維持したい場合には有効な方法です。
親族内承継で相続を活用する場合、一般承継の仕組みが利用されます。創業者の死亡により、相続人が株式や事業用資産をすべて引き継ぐことで、事業の継続が図られるでしょう。
法人間での合併による承継も、一般承継の典型例です。業界再編や事業統合を目的とした合併では、両社の事業を一体として運営することで、シナジー効果を期待できます。
一般承継を選択する際は、債務も含めてすべての権利義務を承継することになるため、事前の財務状況の精査が重要です。
特定承継が行われる場合
特定承継は、事業の一部のみを承継したい場合や、債務などのリスクを限定したい場合に選択されます。承継人の負担を軽減しながら、事業の継続を図れる利点があります。
事業譲渡による承継では、収益性の高い事業部門のみを譲渡し、不採算部門は譲渡対象から除外することが可能です。これにより、承継人は優良事業に集中して経営を行えるでしょう。
株式譲渡による承継も、特定承継の重要な選択肢です。段階的な株式譲渡により、経営権を徐々に移転させることで、承継人の負担を軽減できます。
親族外承継では、特定承継が選択されることが多い傾向があります。承継人となる第三者にとって、リスクを限定できる特定承継の方が受け入れやすいからです。
中小企業が承継人を選ぶ際の判断ポイント
中小企業の事業承継を成功させるためには、適切な承継人の選定と承継方法の選択が不可欠です。実務的な観点から、重要な判断ポイントを整理しましょう。
承継の目的と範囲を明確化する
承継人選定の前提として、何を誰に承継するのかを明確にする必要があります。事業全体の承継を目指すのか、特定の事業部門のみの承継なのかによって、求められる承継人の資質も変わってくるでしょう。
承継の目的も重要な要素です。事業の継続・発展を重視するのか、雇用の維持を優先するのか、創業者一族の経済的利益を確保したいのかによって、選択すべき承継人や承継方法が異なります。
承継のタイミングも考慮すべき要素です。創業者の引退時期や事業環境の変化、承継候補者の準備状況などを総合的に判断し、最適なタイミングを見極める必要があります。
M&Aを活用する
後継者不在の企業では、M&Aを活用した事業承継が有効な選択肢となります。第三者への事業売却により、事業の継続と従業員の雇用維持を図れる可能性があります。
M&Aによる承継では、買い手企業が承継人となります。買い手企業の経営資源やノウハウを活用することで、事業のシナジー効果や発展が期待できるでしょう。
M&A の実行には、企業価値の算定や買い手企業の選定、交渉などの専門的な知識が必要です。また、従業員や取引先への説明と理解を得ることも重要なプロセスとなります。
専門家と提携する
事業承継は法務・税務・財務など多岐にわたる専門知識が必要な複雑なプロセスです。適切な専門家との提携により、承継人選定から実行まで的確なサポートを受けられるでしょう。
税理士は、事業承継における税務上の課題解決に不可欠な存在です。相続税や贈与税の節税対策、事業承継税制の活用方法など、税務面での最適化を図れます。
弁護士は、承継に関する法的な課題や契約書の作成、紛争の予防などをサポートします。特に、親族間の利害調整や株主間契約の整備において重要な役割を果たすでしょう。
事業承継コンサルタントは、承継戦略の策定から実行まで総合的なサポートを提供します。承継人の選定基準作成や承継計画の策定において、豊富な経験に基づく助言を得られます。
承継人選定で事業承継を成功に導く
承継人の選定は、事業承継の成否を決定する最も重要な要素です。適切な承継人を選定し、従業員や取引先との信頼関係を維持することで、事業の継続・発展を実現できます。
事業承継を成功させるためには、早期からの計画策定と、承継人・現経営者・従業員間の密接なコミュニケーションが不可欠です。専門家のサポートを活用しながら、自社の状況に最適な承継方法を慎重に検討しましょう。













