ハラスメントの種類と具体例を紹介。企業が取るべき策とは?
ハラスメントは、嫌がらせやいじめと同義です。職場でよく見聞きするのは、パワハラやセクハラですが、ハラスメントの種類は時代の流れとともに多様化の一途をたどっています。ハラスメントの具体例や組織への影響、企業側が取るべき策を解説します。
ハラスメントの基礎知識
ハラスメントは被害者に精神的なダメージを与えるだけでなく、組織全体の成長を阻害します。個人的な問題として放置すると、企業が法的責任を問われる恐れがあるのをご存じでしょうか?ハラスメントの定義や国内における発生状況を理解しましょう。
民法の不法行為になる場合がある
ハラスメント(harassment)は、英語で「嫌がらせ」や「いじめ」を意味する言葉です。相手の尊厳を傷付けることから、広義では「人権侵害」と見なされています。パワハラやセクハラなど、「〇〇ハラ」と付くものは全てハラスメントに該当すると考えましょう。
ハラスメントは、内容や程度によって複数のレベルに分かれます。被害者の権利を侵害して不利益を与えた場合、加害者は民法の不法行為を行ったとして、損害賠償を請求される恐れがあります。
加害者を雇用する企業(使用者)にも損害賠償責任が生じるケースがあるため、ハラスメントのリスクの大きさをよく認識しなければなりません。
ハラスメントの発生状況
「令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、ハラスメントが最も多く発生する場所は「通常就業している場所」です。
過去3年間に相談があったと回答した企業の割合を見ると、パワハラ(64.2%)・セクハラ(39.5%)・カスハラ(27.9%)の順に高いことが分かりました。企業が実際にハラスメントに該当すると判断した事案の状況ではカスハラが最多です。
労働者調査(一般サンプル)においては、パワハラ(19.3%)の割合が最も高く、カスハラ(10.8%)とセクハラ(6.3%)が続きます。企業調査と労働者調査の結果を照らし合わせると、職場で最も発生しやすいハラスメントは「パワハラ」であることが分かります。
出典:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
倫理に関するハラスメントの種類
倫理感や道徳意識に反する嫌がらせの代表格として、パワーハラスメントやモラルハラスメントが挙げられます。具体的にどのような行為が該当するのかをチェックしましょう。
パワーハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)は、立場を利用した嫌がらせです。上司と部下の関係性の中で生じやすく、以下の全ての要素を満たしています。
- 優越的な関係性を利用している
- 業務上に必要な範囲・程度を超えている
- 就業環境が害される
具体的には、上司が部下のミスを注意する際に「役に立たない」と侮辱したり、椅子を足で蹴ったりする行為が該当します。そのほかに以下のような行為もパワハラと見なされます。
- 特定の従業員に仕事を押し付ける
- 定時直前に仕事を頼む
- 正当な理由なく、1人だけ別室で仕事をさせる
モラルハラスメント
モラルハラスメント(モラハラ)は、言葉や態度による精神的な嫌がらせのことです。パワハラは、上司と部下といった一定の関係性の中で生じますが、モラハラはあらゆる関係性の中で起こります。
- 相手に聞こえるように悪口をいう
- 上司の指示に対して、舌打ちやため息で反応する
- 特定の従業員に情報共有を行わない
- 人の行動を監視し、必要以上にプライベートに立ち入る
肉体的な暴力は伴わないものの、相手に大きな精神的苦痛を与えます。「自分は正しい」と思い込んでいる加害者も多く、行為が継続しやすい傾向があります。
性に関するハラスメントの種類
性に関するハラスメントというと、セクシャルハラスメントを思い浮かべる人が多いかもしれません。近年は、性差別的な価値観に基づいたジェンダーハラスメントも問題視されています。両者の特徴と違いを見ていきましょう。
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(セクハラ)は、相手の意に反する性的な言動により、労働環境が阻害されたり、不利益を被ったりすることを指します。身体的な接触はもちろん、下品な発言も含まれます。
- 髪や肩に触れる
- 宴会で部下に抱きつく
- 自分の性体験を話す・性体験について質問する
- 無理にデートに誘う
- わいせつなポスターを掲示する
「男だから」「女だから」という性別役割分担意識がある職場は、セクハラが生じやすい傾向があります。同性に対する性的な言動もセクハラとなる点に注意しましょう。
ジェンダーハラスメント
セクハラが性的な関心・欲求に基づく嫌がらせであるのに対し、ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、固定観念に基づく嫌がらせです。性差別的な価値観や性別役割分担意識から生まれる以下のような言動は、ジェンハラの典型といえます。
- 女性にだけお茶出しや雑用をさせる
- 「男なら〇〇しろ」「女のくせに〇〇だ」という発言をする
- 男性と女性でキャリアパスが異なる
近年は、性的マイノリティに対するジェンハラも問題視されています。男らしさや女らしさを強要したり、同性愛をからかったりする行為は、本人の心を深く傷付けるでしょう。
子育て・介護に関するハラスメントの種類
少子高齢化が進む日本では、子育てや介護に関するハラスメントも増えています。職場でハラスメントが横行すれば、子育てや介護による離職者が増える恐れがあります。
マタニティ・パタニティハラスメント
マタニティハラスメント(マタハラ)やパタニティハラスメント(パタハラ)は、妊娠・出産・育児に関する嫌がらせです。マタニティ(maternity)は「母であること」、パタニティ(paternity)は「父であること」を意味します。
- 「育休を取るなら会社を辞めろ」と言う
- 「育休は男が使うものではない」と言う
- 育休の利用を理由に業務を与えない
- 妊娠・出産を理由に軽易な業務への転換を迫る
育児・介護休業法や男女雇用機会均等法では、妊娠・出産・育児などを理由にした不利益取り扱い(解雇・降格・減給など)を禁じています。
ケアハラスメント
ケアハラスメント(ケアハラ)は、家族の介護(ケア)をする従業員への嫌がらせです。職場の上司や同僚が介護の大変さを理解していない場合、以下のような言動が多くなるでしょう。
- 介護休業の取得を阻害する・認めない
- 介護休業の取得を理由にプロジェクトから外す
- 家族の介護を理由に、昇進・昇格の選考対象から外す
- 介護をしている人をけなす・嫌味を言う
仕事をしながら介護をする従業員は「ビジネスケアラー」と呼ばれます。かつては、専業主婦(主夫)が家族の介護を担うケースが多く見られましたが、独身世帯や共働き世帯が一般的になった現代では、働き盛りの40~50代がビジネスケアラーになる事例が増えています。
その他のハラスメントの種類
ハラスメントの種類は、時代の流れや社会の変化とともに多様化しており、意図せず加害者になってしまう人も少なくありません。社内で起こりやすいハラスメントをピックアップして紹介します。
テクノロジーハラスメント
テクノロジーハラスメント(テクハラ)とは、デジタル機器を使いこなせない人への差別や嫌がらせです。パワハラの主な行為者は上司であるのに対し、テクハラの行為者は「デジタルネイティブ」と呼ばれる若年層であるケースが大半です。
- デジタル機器が使えないことを責める
- 「これくらい知っていて当然」として、システムの使い方を教えない
- ITが苦手な人に、デジタルツールを使った仕事を強要する
- わざと専門用語を多用して、特定の従業員をのけ者にする
DXや多様な働き方が浸透するにつれ、テクハラの発生件数は増えるものと予想されます。企業は、従業員のIT格差をなくすための取り組みを進めるとともに、誰もが理解できるマニュアルを整備する必要があります。
アルコールハラスメント
アルコールハラスメント(アルハラ)は、お酒の席での嫌がらせです。上下関係を背景に飲酒を強要した場合、アルハラとパワハラの両方に該当する可能性があります。
- 飲酒をせざるを得ない状況に追い込む
- 意図的に泥酔させる
- お酒以外の飲み物を用意しない
- 酔った状態で人に絡む
「お酒の席での迷惑行為は仕方ない」「乾杯は必ずお酒で」「お酒でコミュニケーションが円滑になる」と考える人が多い職場は、アルハラが常態化しやすいといえます。無理な飲酒が原因で命を落とす人もいるため、企業はアルハラの撲滅に努めなければなりません。
カスタマーハラスメント
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、顧客などからの著しい迷惑行為を指します。クレームがあれば、企業側は真摯に事実を受け止める必要がありますが、その要求が社会通念上不相当なものであり、かつ労働環境が害される恐れがあれば、組織として従業員を守る必要があります。
- 暴行や暴言を吐かれる
- 土下座を要求される
- 居座りや不退去などで、従業員が拘束される
- 瑕疵(かし)がないにもかかわらず、商品の交換や返金を要求される
職場のハラスメントに関する実態調査報告書(2023年度)によると、カスハラの相談が多い業界は「医療・福祉」「宿泊業・飲食サービス業」「不動産業・物品賃貸業」でした。
出典:令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書
時短ハラスメント
時短ハラスメント(ジタハラ)とは、労働時間の短縮に関連する嫌がらせです。政府の「働き方改革」によって生まれたハラスメントで、以下のような言動が該当します。
- 定時退社を強要する
- 残業を認めない・サービス残業を強要する
- 具体的な策を示さずに、業務時間を短縮する
業務時間の短縮や生産性の向上を命じるのであれば、労働時間と労働量のバランスをあらかじめ調整する必要があります。具体的な策がない場合、仕事の持ち帰りや昼休みの返上が多くなり、心身のストレスに悩む従業員が増えるでしょう。
ハラスメントが企業に与える悪影響
ハラスメントで被害者が出た場合、企業の法的責任が問われます。損害賠償を請求されるだけでなく、人材の流出や企業イメージの失墜にもつながりかねません。ハラスメントが企業に与える悪影響を知りましょう。
休職・離職による人材不足
ハラスメントの内容や悪質性によっては、被害者が休職・離職に追い込まれるケースがあります。企業が何らかの対策を講じなければ、社内でハラスメントが横行し、次々と人が辞めていく「連鎖退職」に発展するかもしれません。
少子高齢化で労働人口が減少している中、人材の休職・離職は企業にとって大きな痛手です。中核を担う人材が離職すれば、経営の屋台骨が大きく揺らぐ可能性があります。人手不足の状況が長く続くほど、残された従業員の業務負荷が増大するため、一刻も早い対策が求められます。
生産性の低下による経済的損失
人材不足と同時に起こるのが、組織の生産性の低下です。職場内でハラスメントが起こると、ハラスメントを受けている本人はもちろん、それを見聞きしている従業員にも心身の不調やモチベーションの低下が生じます。
「仕事に身が入らない」「だるくて疲れやすい」「注意力が散漫になる」といった従業員が増えれば、企業の競争力が低下し、経済的損失につながります。生産性の維持・向上を目指すのであれば、全ての従業員が快適に過ごせる職場環境を整備することが重要です。
出典:パワハラを見聞きするだけで心身の不調やモチベーションが低下/お知らせ|ヘルスイノベーションスクール - 神奈川県立保健福祉大学大学院
企業イメージや信頼性の低下
ハラスメントは企業内部の問題ですが、SNSを通じて広く拡散される可能性があります。ハラスメントの事実やハラスメント対策の不十分さが世間に知られれば、企業イメージや社会的な信頼性が低下し、以下のような弊害が生じるでしょう。
- 取引先や顧客が離れる
- 求職者の応募数が減る
- 株価が暴落する
- 従業員が離職する
悪化したイメージや信頼性を回復させるのは容易ではありません。事後対応に膨大なコストがかかり、経営が圧迫されてしまいます。
企業が取り組むべきハラスメント対策
ハラスメントが起きると、負の連鎖によって組織全体に悪影響が及びます。問題が起きてから動くのではなく、ハラスメントを未然に防ぐ対策を講じなければなりません。企業が取り組むべき基本の対策を紹介します。
ハラスメントに関するルールの明確化
一つ目の対策は、ハラスメントに関するルールの明確化です。加害者の中には、自分がハラスメントをしていることに気が付かない人もいます。どのような言動がハラスメントに該当するのかを明らかにした上で、罰則規定や処分内容を定めましょう。
就業規則などにルールを盛り込むに当たっては、労働組合や労働者の代表から意見を聴取する必要があります。就業規則を変更した後は、説明会を開いたり文書を配布したりして、全ての従業員に周知しなければなりません。
相談窓口や通報窓口の設置
二つ目の対策は、相談窓口や通報窓口の設置です。2022年4月1日以降は、中小企業に対してもハラスメント相談窓口の設置が義務付けられました。
窓口の設置に際し、「相談者の秘密が守られること」「相談者に不利益が及ばないこと」を徹底することが重要です。面談に限定せず、メール・チャット・電話などの複数の方法を用意しましょう。
ハラスメントの事実確認は、相談者の了承を得た上で行います。本人の了承を得る前に対応したことで、職場中にうわさが広まり、問題がこじれてしまった事例があります。
ハラスメント防止研修の実施
三つ目の対策として、従業員に対するハラスメント防止研修の実施が挙げられます。研修によって、組織全体のリテラシーが向上すれば、自分の言動が相手を傷付けていないかに敏感になる人が増えるでしょう。
研修の対象者は、非正規雇用労働者を含む全従業員です。内容は、「管理監督者向け」と「一般従業員向け」に分けるのが望ましいですが、一斉研修でも構いません。
研修方法は「講師を招いての社内研修」「外部に出向いての社外研修」「オンライン研修」の三つが主流です。参加者の事情に合わせて、複数を組み合わせるとよいでしょう。一度研修したら終わりではなく、一定の周期で繰り返すと効果的です。
ハラスメント対策は風通しの良い職場づくりから
ハラスメントは、従業員の心身の健康を阻害するだけでなく、貴重な人材の流出や企業イメージの低下、訴訟による金銭的負担の増加を招きます。職場におけるハラスメント対策は、企業が負うべき義務といえるでしょう。
ハラスメントが起きやすい職場の多くは、会社や従業員間のコミュニケーションが少なく、相互理解が不十分な傾向があります。全ての従業員が利用できるコミュニケーションツールやサービスを導入すれば、風通しが良く、心理的安全性が高い組織へと一歩近づく可能性があります。
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