従業員の定性評価は実施するべき?メリットや注意点を分かりやすく
「定性評価」は、業績が数値化できない部門やポジションの従業員に適した評価です。仕事への意欲やプロセスが評価されるのはメリットですが、精度や公正さに欠ける側面もあります。定性評価を実施する上でのポイントや注意点を解説します。
定性評価とは何か
人事評価方法の一つに「定性評価」があります。定量評価と対になる考え方で、従業員の働きぶりやモチベーションなどを測るのに使われます。定性評価の意味と活用に適した業務・職種について理解を深めましょう。
数値で表せない物事を評価する方法
定性評価とは、数値化できない物事を評価する手法です。「定性的」という言葉には、「性質に関するさま」や「数値や数量で表せないさま」という意味があります。別名を「らしさ評価」ともいい、その人の素養や性格を評価するのにも使われます。
営業担当者の場合、売上・アポイント数・受注件数などを基に業績を評価できます。一方で、以下のような業務プロセスや仕事に対する姿勢は、数値で表せません。
- 製品・サービスへの理解が深く、顧客ニーズに合った資料を作成できる
- 率先して仕事に取り組む姿勢が、新入社員のお手本になっている
- 上司への報連相が迅速な上、ミスが少ない
定性評価が適した職種・業務
ポジションや業務内容によっては、数値化できる項目が極端に少なく、公平な評価ができないケースがあります。以下のような職種は、定性評価を取り入れるのが望ましいといえます。
- 保育士
- 介護士
- 看護師
- 技術職
- 事務職
企業のバックオフィス業務を担う部門は「間接部門」と呼ばれます。総務・経理・人事・労務などは、業務が売上に直結しないため、定性評価による人事評価が欠かせません。
また、成果を数字で表せる職種においても、定性評価の基準で仕事の進め方や意欲を評価する場合があります。
定性評価と定量評価の違い
人事評価の手法では、定性評価と定量評価は対の関係にあります。公正で納得のいく評価を下すには、定性評価と定量評価を組み合わせるのがよいとされています。それぞれの評価方法の違いを見ていきましょう。
評価の軸
定量評価とは、数値や数量で評価する手法です。言い換えれば、共通の概念である「数字」が評価軸となるため、評価者ごとのぶれが生じません。評価されるほうも納得しやすく、次の目標が立てやすいのがメリットです。
定性評価は、独自の評価基準を設けた上で、数値や数量で表せないものを評価します。評価軸が数字以外なので、評価者ごとに評価結果が変わる点に注意が必要です。
定量評価はプロセスが評価の対象に含まれていませんが、定性評価ではプロセスが評価されます。どちらの手法を選択するかによって、対象者の評価は大きく変わるでしょう。
評価される項目
定量評価と定性評価の評価項目を比べてみましょう。定量評価では、以下のような項目が設定されるのが一般的です。
- 金額(売上)
- 数量
- 回数
- 時間
- アポイント件数・受注件数
- コスト削減率
- 関与した割合
- アンケート結果
ソフトスキルや業務プロセスを評価する定性評価では、以下のような項目が設定されます。統計や指標がないため、上司をはじめとする周囲の観察によって評価がなされます。
- 協調性
- やる気
- 責任感
- 迅速さ
- 思いやり
- コミュニケーション力
- リーダーシップ・率先力
- 創意工夫・努力
定性評価を取り入れるメリット
定量評価のみでは、評価結果に偏りが生じる恐れがあります。定性評価を取り入れることで、数値化が難しい側面の評価が可能となり、努力が報われたと感じる従業員も出てくるでしょう。定性評価を取り入れる代表的なメリットを解説します。
新入社員の評価が可能になる
一つ目のメリットは、定量評価ができないポジションの評価が可能になることです。定性評価は、技術職や事務職のほか、新入社員の評価にも適しています。
入社したばかりの新入社員は、業務に必要な知識やスキルが十分に身に付いておらず、大きな成果を上げる機会がほとんどありません。仕事への姿勢・努力・協調性・規律性などを評価できる項目を作れば、本人のやる気を引き出せます。
上司や管理職は、評価結果をフォローアップに活用しましょう。強みや弱みを把握させ、新たな目標を設定することで、成長が加速します。
エンゲージメント向上が期待できる
二つ目のメリットは、従業員エンゲージメントの向上につながることです。従業員エンゲージメントとは、組織に対する帰属意識を意味します。
努力や貢献度を適切に評価すれば、「自分の努力は無駄ではなかった」と実感する従業員が増えます。会社への愛着が増すきっかけとなり、生産性の向上や離職率の低下といったプラスの結果につながるでしょう。
従業員のエンゲージメントを高めるためには、評価制度の見直しに加えて、理念浸透や、称賛文化の情勢など様々な取り組みが必要です。
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定性評価のデメリット
定性評価では、いくつかのデメリットが指摘されています。評価基準が明確化しにくい上に、評価者の主観の影響が避けられないため、従業員から不満の声が上がるかもしれません。管理者や人事担当者が覚えておくべきデメリットを取り上げます。
評価者の主観が反映されやすい
数字を基準とする定量評価は、人によって評価がぶれる心配がありません。一方で定性評価は明確な基準を設けにくく、評価者の主観や価値観が反映されやすいのがデメリットです。
例えば、「大手企業の出身だから、優秀な人材だろう」「文系だから数字に弱いだろう」といった先入観があると、知らずしらずのうちに評価が歪められてしまいます。評価者の好き・嫌いが反映され、公平性が確保できないことも珍しくありません。
評価者は、客観性に欠けるリスクを十分に意識した上で、慎重に評価を行う必要があります。
評価に納得しない人もいる
定性評価は評価基準が曖昧になりやすい上、評価者の主観が影響します。同じポジションでありながら結果に差が付くケースがあり、「なぜこの評価になったのか」と不満や疑問を感じる従業員が出てくるでしょう。
評価結果に対する明確な根拠を提示できない場合、会社に対する不信感や不満が募ります。モチベーションの低下や早期離職につながりかねないため、公平で納得感のある評価基準を目指す必要があります。評価者同士で基準のすり合わせを行い、評価のばらつきを防ぐことも重要です。
定性評価の実施手順
数値化できない項目を評価するのは極めて難しく、目標や基準が曖昧な状態だと、公平性に欠けたものになってしまいます。定性評価を実施する際は、以下のような手順で進めていきましょう。
目標を掲げる
定性評価には数値目標がありません。代わりに独自の評価基準を設け、その基準と比較して、対象者がどの程度達成できているかをチェックするのが基本です。まずは「パフォーマンス目標」と「ストレッチ目標」の二つを設定しましょう。
パフォーマンス目標とは、個人の能力やパフォーマンスを基準にする目標です。主に、目に見える成績や他者との比較を重視するもので、「1位になる」「試験に合格する」といった内容が掲げられます。評価では、目標を達成したかどうかが基準となります。
ストレッチ目標とは、「現状では難しいが、努力すれば達成可能」というレベルの目標です。目標達成に向けて努力と工夫を重ねることで、個人の成長が促されます。
達成レベルを設定する
目標を決めた後は、達成レベルを設定します。「必ず達成したいレベル(必達レベル)」と「達成できると望ましいレベル(努力レベル)」の二つを設定しましょう。
「両方のレベルをクリアすれば〇点」「必達レベルのみは〇点」などと、達成度合いに合わせて点数を配分するのがポイントです。スコアリングシートの作成により、定性的な評価に客観性を持たせられます。
評価基準やルール設定後は、関係者同士で内容のすり合わせを行い、評価のぶれを最小限に抑えることが重要です。
定期的な面談・フィードバックを行う
定量評価と違い、定性評価はどのような基準で評価されたのかが分かりにくいのが難点です。評価の後、「まさかこれほどの低評価だとは思わなかった…」とショックを受け、モチベーションが下がってしまう従業員が出てくるかもしれません。
評価期間の後半や評価の終了後にまとめてフィードバックをするのではなく、普段からも1on1ミーティングなどを小まめに実施する必要があります。上司は、目標や進捗状況を一緒に確認しながら、改善点や成長のポイントを伝えましょう。
定性評価の欠点をカバーするには?
定性評価のデメリットは、評価者の主観や先入観が排除しにくい点です。評価の精度と公平性を維持するには、どのような工夫が求められるのでしょうか?定性評価のデメリットをカバーする方法を紹介します。
他の評価方法と組み合わせる
人事評価では、定性評価と定量評価を組み合わせるのが望ましいとされています。また「多面評価」を取り入れて、定性評価の公正性を高めるのもよいでしょう。
多面評価とは、複数人の視点から評価を行う方法で、「360度評価」とも呼ばれます。とりわけ管理職の評価に適した方法であり、自己評価と他者評価の違いや自分の強み・弱みが明らかになるのがメリットです。
多面評価を採用する場合、上司・同僚・部下などの多くの関係者の協力が必要です。評価にかかる工数と時間が大幅に増えることを頭に入れておきましょう。
関連記事:360度評価方法の基本からメリット・デメリットまで幅広く解説!
評価者のトレーニングを実施する
評価者に人材を見極める目が備わっていない場合、従業員を適切に評価できない恐れがあります。実態とかけ離れた評価を未然に防ぐためにも、評価スキルの向上を目指す「評価者のトレーニング(考課者訓練)」を実施しましょう。
具体的には、実際に起こり得る心理バイアスを理解したり、評価者同士でロールプレイング(演習)を行ったりします。評価結果を人材育成につなげられるように、評価面談の進め方やフィードバックの仕方を学ぶことも重要です。
日々の業務を可視化・共有する
日々の業務や行動を可視化・共有する仕組みを整えることで、評価材料を増やし、自他ともに納得感のある評価をすることができます。例えば、どのような工夫をして業務に取り組んでいるか、チームのためにどんな貢献をしたかといった「見えにくい頑張り」も、日々発信されていれば第三者からも把握しやすくなります。
社内SNSや情報共有ツールを用いて日報やサンクスカードといった取り組みを実施することで、従業員の行動やプロセスが自然と蓄積され、評価時の参考情報として活用できます。また、上司や同僚とのやりとりが記録に残るため、評価者の主観に頼らない、より納得感のある定性評価につながります
■社内SNSはTUNAG/社内コミュニケーション活性化を実現
適切な定性評価は従業員の意欲向上につながる
人事評価では、定量評価と定性評価の両方をバランスよく取り入れる必要があります。一部の職種・ポジションは業績の数値化が難しく、定量評価だけでは納得感が得られません。
適切な定性評価を実施すれば、従業員は自分の強み・弱みを理解できるほか、仕事へのモチベーションも向上するでしょう。定性評価を導入するに際し、評価基準の設定や評価者トレーニングなどの事前準備が欠かせません。担当者の負担が増える可能性があるため、効率的な運用方法を考えましょう。













