アブセンティーズムとは何か?原因・測定方法・企業が今すぐ取り組むべき対策を解説

従業員の欠勤・休職による生産性損失は、賃金コストだけでなく業務代替や採用コストを含めると直接費用を大幅に上回るケースも多く、経済産業省や学術研究でもその深刻さが指摘されています。この損失を「仕方ない」で終わらせず、経営課題として数値化・対策化する考え方が「アブセンティーズム」です。本記事では、プレゼンティーズムとの違いや発生原因の整理から、損失コストの具体的な計算手順、削減のための企業対策まで順を追って解説します。

アブセンティーズムとは何か

アブセンティーズムへの対策を効果的に進めるには、まず言葉の定義を正確に押さえておく必要があります。似た概念であるプレゼンティーズムと混同されやすいため、違いを理解した上で自社の課題を整理しましょう。

アブセンティーズムの定義と誕生の背景

アブセンティーズム(Absenteeism)とは、産業保健・健康経営の分野で使われる健康関連パフォーマンス損失の指標のひとつです。WHOはその測定ツール(WHO-HPQ)を開発・普及させており、日本でも健康経営の文脈で広く参照されています。

従業員が身体的疾患やメンタルヘルス不調、けがなどを原因として欠勤・休職している状態、およびそれに伴い企業が被る生産性の損失コストを指します。

日本語に訳すと「病欠」や「欠勤」に相当しますが、単なる欠勤件数のカウントとは異なります。欠勤によって失われる生産性を「経営課題」として数値で捉える点が、この指標の本質です。

こうした背景から、欠勤・休職の損失を数値で把握するアブセンティーズムと、出勤中の不調を可視化するプレゼンティーズムの両方を管理する重要性が高まっています。

出典:健康経営オフィスレポート|経済産業省

プレゼンティーズムとの違い

アブセンティーズムと対になる概念が「プレゼンティーズム(Presenteeism)」です。両者の違いを正確に押さえておきましょう。

アブセンティーズムは、従業員が職場に「いない」状態から生じる損失です。一方、プレゼンティーズムは、従業員が職場に「いるにもかかわらず」体調不良や精神的不調により十分なパフォーマンスを発揮できない状態を指します。

以下の表で両者の特徴を整理しています。

アブセンティーズム

プレゼンティーズム

状態

欠勤・休職している

出勤しているが不調

損失の可視性

把握しやすい

把握しにくい

損失の規模感

比較的小さい傾向

より大きいとされる

プレゼンティーズムによる損失はアブセンティーズムを大きく上回るともいわれています。

しかし、アブセンティーズムは欠勤日数という形で数値化しやすいため、健康経営対策の入口として活用しやすい指標です。

経済産業省が示す2つの評価指標

経済産業省は健康経営の推進において、企業の健康投資効果を測る指標としてアブセンティーズムとプレゼンティーズムの2つを示しています。

  • アブセンティーズム:欠勤・休職による生産性損失
  • プレゼンティーズム:出勤中の体調不良による生産性損失

この2指標を定期的に測定・比較することで、従業員の健康状態が企業パフォーマンスに与える影響を数値で把握できます。健康経営を推進する際は、両方の指標をモニタリングする仕組みを整えましょう。

出典:経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」

出典:健康経営オフィスレポート|厚生労働省

アブセンティーズムが企業に与える影響

アブセンティーズムが増加すると、企業はさまざまな側面でダメージを受けます。目に見えやすい損失から、気付かぬうちに積み重なる損失まで、その影響は多岐にわたります。それぞれを正確に把握しておきましょう。

欠勤・休職が引き起こす生産性低下と業務停滞の連鎖

一人の従業員が欠勤すると、その業務は誰かが代わりに担うことになります。残った従業員の負担が増し、過重労働や疲労の蓄積につながります。

その結果、業務の質が低下したり、ミスが増えたりするリスクが高まります。さらに、業務を代替した従業員自身もストレスを抱えやすくなります。こうして欠勤者が新たな欠勤者を生む「連鎖」が起こりやすくなる点が、アブセンティーズムの恐ろしさです。

特にプロジェクト単位で動いている部署では、欠員が一人出るだけでスケジュールが大幅に狂うこともあります。人手が少ない中小企業ほど、この影響は深刻です。

直接コストと間接コストで見る健康関連損失の全体像

アブセンティーズムによる損失は、大きく直接コストと間接コストに分けられます。

直接コストとは、欠勤・休職中の従業員に対して支払われる賃金や社会保険料です。雇用関係が継続する限り、コストは発生し続けます。

間接コストとは、業務代替にかかる人件費や派遣スタッフの費用、生産性低下による機会損失などです。一般的に間接コストは直接コストを大きく上回る傾向があります。

例えば、月給30万円の従業員が1カ月休職したとします。直接コストは30万円ですが、業務代替や生産性低下を含めると、実際の損失はその数倍に達する可能性があります。コスト全体を把握することが、経営課題としての問題提起に不可欠です。

離職リスク増大と採用コスト増加

欠勤・休職が多い職場は、他の従業員への負担が重くなります。「なぜ自分だけがこれほど働かなければならないのか」という不満が蓄積し、元気な従業員が離職を検討し始めるリスクが高まります。

経験者採用にかかる費用は、職種や経験レベルにもよりますが、1人当たり数十万〜100万円以上になることも珍しくありません。採用後の研修や定着にも時間とコストがかかります。アブセンティーズムの増加が採用コストの増加にもつながるという視点を、経営課題として認識しておきましょう。

アブセンティーズムの主な原因

アブセンティーズムは突然発生するものではありません。日常の職場環境や従業員の健康状態が複合的に絡み合い、やがて欠勤・休職という形で現れます。主な原因を理解しておきましょう。

メンタルヘルス不調

アブセンティーズムの原因として最も多いのが、メンタルヘルスの不調です。

職場でのストレス、過重な業務負担、上司や同僚とのコミュニケーション不足などが重なることで、従業員は徐々に心の余裕を失っていきます。初期段階では「少し疲れているだけ」と見過ごされやすく、気づいた時には長期休職に至っているケースも少なくありません。

メンタルヘルス不調による欠勤・休職は、一度起きると長期化しやすく、再発率も高い傾向があります。だからこそ、早期発見・早期対応の仕組みが欠かせません。

身体的疾患・慢性疾患・感染症による病欠増加

メンタルヘルス以外にも、生活習慣病や慢性疾患、感染症による欠勤も無視できません。高血圧・糖尿病・腰痛・肩こりなど、日本の職場には慢性的な身体不調を抱える従業員が多く存在します。

これらは一見軽微に見えますが、放置すれば重症化し、長期の治療や入院につながる可能性があります。インフルエンザや感染性胃腸炎などの感染症については、シーズンによって欠勤率が大きく変動するリスクもあります。

特定保健指導や健康診断の事後フォローを充実させることが、身体疾患によるアブセンティーズム予防に直結します。

長時間労働・職場の人間関係悪化

長時間労働は、身体的な疲弊だけでなく、精神的なストレスの蓄積ももたらします。過重労働が常態化している職場では、従業員の免疫力が低下し、体調を崩しやすくなります。

職場の人間関係も見逃せない原因の一つです。ハラスメントや孤立、コミュニケーション不足が慢性的なストレスを生み出します。このようなストレスは身体症状としても現れ、欠勤・休職の引き金になります。

心と体は密接に連動しています。職場環境の改善こそがアブセンティーズム削減の根本対策であるという認識が重要です。

アブセンティーズムの測定方法と損失コストの計算手順

アブセンティーズムを「なんとなく多い気がする」という感覚で捉えているだけでは、経営課題として具体的な改善策を講じることはできません。正確な測定と損失コストの可視化が、対策の第一歩です。

従業員アンケートを使った欠勤日数の正確な把握方法

アブセンティーズムを測定するにはまず、欠勤・休職に関するデータを正確に収集する必要があります。勤怠管理システムのデータを活用するのが基本ですが、病欠と有給休暇の区別が不明確な場合は、アンケートによる補完も有効です。

従業員アンケートでは、以下のような項目を確認します。

  • 欠勤日数:過去1年間に健康上の理由で欠勤した日数
  • 欠勤理由:身体疾患・メンタルヘルス・その他の内訳
  • 中抜け時間:通院や検査のために業務を離れた時間

アンケートは匿名性を確保することが重要です。正直な回答が得やすくなり、より精度の高いデータ収集につながります。

「病欠日数×賃金」で算出する損失コストの計算式

アブセンティーズムによる損失コストの基本的な計算式は次のとおりです。

損失コスト=病欠日数×1日当たりの賃金

例えば、1日当たりの賃金が1万5000円の従業員が年間10日欠勤した場合、損失コストは15万円となります。これを全従業員に当てはめて合算することで、組織全体の損失規模を把握できます。

さらに精度を高める場合は、以下の要素も加味します。

  • 代替人件費:業務を代替した従業員の追加労働コスト
  • 機会損失:業務遅延による売上・成果への影響額
  • 復職支援コスト:産業医面談や復職プログラムにかかる費用

数値として可視化することで、経営陣への問題提起がしやすくなります。また、対策への投資根拠を示す際にも役立ちます。

アブセンティーズムを削減するための企業対策

アブセンティーズムを放置すれば、組織の生産性は下がり続けます。では、具体的にどのような対策が効果的なのでしょうか。今すぐ着手できる三つの施策を解説します。

定期的なストレスチェック

2015年から従業員50人以上の事業所では、ストレスチェックの実施が義務化されています。年1回の実施が最低限の要件ですが、より早期の不調発見には半期ごとの実施も効果的です。

ストレスチェックの結果を基に、高ストレス者に対して医師による面接指導を行います。また、集団分析を活用することで、特定の部署や業務に問題が集中していないかを把握できます。

ストレスチェックはやりっぱなしにせず、結果を基に職場環境改善のアクションを取ることが重要です。「実施して終わり」ではなく、改善サイクルを回すことがアブセンティーズム削減に直結します。

産業医・EAPと連携したメンタルヘルス支援体制の構築手順

産業医やEAP(従業員支援プログラム)との連携は、不調者の早期発見と職場復帰支援に大きな効果をもたらします。支援体制の構築は以下の手順で進めると効果的です。

  • 産業医面談ルールの設定:月1回などの定期的な面談機会を制度化する
  • EAP窓口の整備:従業員が気軽に相談できる外部相談窓口を導入する
  • 復職支援プログラムの適用:段階的な職場復帰をサポートする仕組みをつくる
  • ラインケア研修の実施:管理職が部下の変化に気づけるスキルを養う

特に管理職によるラインケアは、部下の不調を早期に察知するために欠かせません。「最近元気がないな」という変化を感じた段階で声をかけられる職場文化の醸成が重要です。

健康経営の推進

健康経営とは、従業員の健康管理を経営戦略の一部として位置付ける考え方です。経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」への申請を検討することで、対策の体系化が進みます。

健康経営の実践においては、運動促進・禁煙支援・食生活改善・睡眠の質向上など、生活習慣全般へのアプローチが効果的です。また、残業削減や社内コミュニケーションの活性化など、職場環境の改善もアブセンティーズム予防に有効です。

健康経営は従業員のためであると同時に、企業の競争力向上にもつながります。単発の施策ではなく、長期的な視点で継続して取り組むことが大切です。

アブセンティーズム対策は組織の生産性向上と人材定着への近道

アブセンティーズムへの対策は、単に欠勤を減らすだけの施策ではありません。従業員が心身ともに健康な状態で最大限のパフォーマンスを発揮できる職場をつくることに直結しています。

欠勤や休職のデータを正確に把握・分析し、それによって生じる損失コストを数値化します。この分析結果に基づき、ストレスチェックの実施、産業医との連携強化、健康経営の推進といった根本的な改善策を講じることが重要です。この一連の流れを継続的に行うことで、組織全体の生産性向上と従業員の定着率アップにつながります。

著者情報

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