傾聴力とはどのようなスキル?高めるメリットや従業員の育成方法

傾聴力とは、相手の話に真剣に耳を傾け理解しようとするスキルです。従業員の傾聴力を高めれば、コミュニケーションの質が向上し、さまざまなメリットをもたらすでしょう。傾聴力の意味やトレーニング方法について解説します。

傾聴力の基礎知識

「聞き上手」という言葉がありますが、傾聴力は相手の話に聞き入る力とはニュアンスが少し違います。具体的にどのようなスキルを指すのか、まずは傾聴力の意味を押さえておきましょう。

傾聴力とは

傾聴とは、相手の話に対して丁寧に耳を傾け、話の内容を理解しようとすることを意味します。単に相手の話を聞くだけでなく、話の要点を捉えて理解を示すことが重要です。

元々はカウンセリングで活用されていたコミュニケーション手法ですが、近年はビジネスシーンでも必要なスキルとして認識されています。

例えば、営業で傾聴力を発揮できれば、クライアントのニーズを把握しやすくなるでしょう。また、管理職が部下との会話で傾聴力を使うと、部下への深い理解を示せるため良好な信頼関係を構築しやすくなります。

日本語の「きく」の違い

日本語の「きく」には、聞く・訊く・聴くの3種類があります。それぞれの意味は次の通りです。

  • 聞く:音声が受動的に耳に入ること
  • 訊く:人に何かを尋ねること
  • 聴く:相手の話を能動的に理解すること

使用範囲が最も広いのは「聞く」ですが、「聞く」には相手に寄り添う意味合いはありません。傾聴は相手の背景や気持ちを考慮しながら能動的に理解する力であるため、3種類のうちの「聴」という漢字が使われているのです。

傾聴力の3要素

アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズは、傾聴で大切にすべき三つの要素を示しています。

  • 共感的理解:相手の立場に立って共感・理解しようとすること
  • 無条件の肯定的関心:自分の価値観や先入観を排除し、相手の話に肯定的な関心を持つこと
  • 自己一致:分かったふりをせず、質問しながら相手の話を分かろうとすること

傾聴の際は、常に上記の姿勢を持って相手の話に耳を傾けることが重要です。

傾聴の種類

傾聴には三つの段階があるとされており、段階を踏んで実践することで、より高い傾聴力を発揮できるようになります。3種類の傾聴を理解し、傾聴力を鍛える際に役立てましょう。

真摯に耳を傾ける「受動的傾聴」

受動的傾聴とは、とにかく相手の話に真摯に耳を傾ける方法です。傾聴のベースとなるものであり、相手の話を受け止めて安心感を与える目的があります。

軽い相づちを打っても構いませんが、あくまでも相手のペースに合わせることが重要です。聞き手の意見は後回しにし、真剣に聴いている姿勢を示すことに徹底します。

会話中に相手が黙り込んだ場合も、会話を促すために聞き手が発言するのはNGです。沈黙の中で相手が考えを巡らせているのだと捉え、相手が発言するまで待つ必要があります。

相づちを打ちながら聴く「反映的傾聴」

相手の話を繰り返しながら聴く傾聴が反映的傾聴です。復唱や言い換え、要約などを短い言葉で返すことで、相手は「自分の話や心情を理解してくれている」と感じやすくなります。

反映的傾聴における重要なポイントは、相手の話の内容を相づちに反映させることです。要点を捉えた明快かつ短い言葉で、相手に言葉を返す必要があります。

聴きながら思考を促す「積極的傾聴」

積極的傾聴とは、相手の話に対して積極的に働きかけるタイプの傾聴です。受動的傾聴や積極的傾聴に比べ、より踏み込んだコミュニケーションを目指したスタイルになります。

積極的傾聴では相づちに加え、相手の発言に対して言葉を添えたり質問を投げかけたりします。うまくいけば相手も気付いていない本音や気付きを引き出せるでしょう。

相手の話に対する適切な反応が求められるため、積極的傾聴では一定レベル以上の経験やスキルが必要です。

従業員の傾聴力を高めるメリット

人材教育で傾聴力を鍛えると、企業にどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。従業員の傾聴力を高めることで期待できる効果を紹介します。

顧客と信頼関係を構築できる

顧客とのコミュニケーションで傾聴力を発揮すると、相手に安心感を与えられます。「自分のことを理解してくれている人」と思ってもらえるため、良好な信頼関係を築けるでしょう。

相手から潜在的なニーズを引き出しやすくなることもポイントです。営業の際に相手の潜在ニーズを満たす提案ができれば、顧客からさらなる信頼感を得られるようになり、「この人に任せれば安心」と思ってもらえます。

顧客自身も認識していない潜在ニーズは、会話の中からしか分かりません。相手との間に良好な関係を築き、何でも話してもらえるようになることで、新たなビジネスチャンスが生まれやすくなるのです。

職場の心理的安全性が高まる

傾聴力の高い従業員が多い職場では、お互いに相手の話を真摯に聴くようになります。自分の意見を真剣に聴いてくれる人が多ければ、従業員が臆することなく意見を言える雰囲気が醸成されるため、職場の心理的安全性が高まるでしょう。

多くの従業員が自己表現できるようになると、職場におけるさまざまな制約から解放され、パフォーマンスの最大化を図れます。一人一人が最大限の能力を発揮すれば、企業の生産性向上にもつながるでしょう。

イノベーション創出につながる

従業員がコミュニケーションにおいて傾聴力を発揮すると、周囲が考えていることや期待していることを理解できます。現状を俯瞰的に整理できるようになるため、従来の視点からは生まれなかった新たな気付きの創出につながるでしょう。

新しいアイデアが生み出される職場では、常にイノベーションが起こるチャンスがあります。イノベーション創出により、これまでにない商品やサービスが開発されれば、変化の激しい今の市場においても優位性を保ちやすくなるでしょう。

管理職のマネジメント力が向上する

管理職がチームや部署を適切にマネジメントするためには、部下の考え方や価値観をしっかりと把握することが大切です。管理職の傾聴力を鍛えることで、上下の信頼関係が構築されるため、マネジメント力の向上にもつながります。

部下の悩みや目標を把握したい場合にも、傾聴力が効果を発揮します。1on1ミーティングで部下の考えを的確に把握できれば、良好な信頼関係が構築できるため、部下を正しい方向に導きやすくなるでしょう。

従業員の傾聴力を高める方法

傾聴力は日々のトレーニングで鍛えることが可能です。従業員の傾聴力を高める具体的な方法を見ていきましょう。

自分の発言を意識的に控える

傾聴では相手の話を聴くことが重視されるため、自分の意見を伝えようとする意識が強いと、傾聴力を高めにくくなってしまいます。普段から自分の発言を意識的に控えることが重要です。

傾聴における理想的な会話の割合は、「相手7:自分3」とされています。実際にこの割合で会話した場合、自分の発言がかなり少ないと感じるでしょう。感覚的に自分がほとんど発言していない会話になれば、傾聴に近づいているといえるのです。

いつも自分の話ばかりする傾向がある人は、「相手7:自分3」を強く意識し、自分の発言を控えるようにしましょう。

相手の発言を肯定する

傾聴では相手の意見を尊重しなければなりません。自分の考え方や価値観とは異なる発言が出てきたとしても、肯定する姿勢を示す必要があります。

相手の発言を肯定するのに役立つのが、「そうなんですね」という相づちです。自分がどう考えているかはともかく、相手の話を肯定的に聴いていることは示せます。

相手の発言を肯定する際、無理に共感しようとする必要はありません。相手の話を否定せず受け入れることが、傾聴力を鍛える上で重要なポイントです。

バックトラッキングを実践する

バックトラッキングとは、相手の発言をオウム返しのように繰り返すことです。相手が話した言葉や内容を改めてこちらからも発言することで、相手に安心感や親近感を与えられます。

バックトラッキングで繰り返すべきことは、相手が話した事実や感情、相手の話の要約です。これらを使い分けながら重要な部分のみを繰り返せれば、傾聴力をより高められるでしょう。

ただし、使うポイントを間違えたり多用したりすると、相手を不快な気持ちにさせてしまいかねない点に注意が必要です。

ミラーリングを実践する

ミラーリングは相手の動きをまねることです。表情・しぐさ・姿勢・声のトーンなどを相手に合わせることで、相手が親近感を抱きやすくなります。

相手がほほ笑んだら自分もほほ笑んだり、相手が悲しい感情を示したら自分も悲しい表情をしたりすると、リラックスしたコミュニケーションを取れるようになります。

過度なミラーリングはわざとらしい印象を与えるため、自然な振る舞いでミラーリングを行うことが重要です。

ペーシングを実践する

相手とのペースを合わせるコミュニケーションスキルがペーシングです。話すスピードや相づちのタイミング、声の大きさや高さを合わせることで、相手に安心感を抱いてもらえます。

受動的傾聴では相手のペースに合わせることが大切です。耳を傾けながら相づちを打つ際は、ペーシングを意識するとよいでしょう。

傾聴力の向上を図り組織力を高めよう

傾聴力とは、コミュニケーションを通して相手を深く理解するための能力です。相手の話をただ聞くだけでなく、共感したり深掘りする質問を投げかけたりして、相手の話をさらに引き出します。

傾聴では、「共感的理解」「無条件の肯定的関心」「自己一致」の3要素を意識することが重要です。また、傾聴は受動的傾聴・反映的傾聴・積極的傾聴の3段階に分かれています。

傾聴力はトレーニングで高めることが可能です。従業員の傾聴力を鍛えるための施策を実施し、傾聴力を発揮したコミュニケーションが職場で実現すれば、企業にとってもさまざまなメリットを得られるでしょう。


著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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