退職金の種類・計算式・支給方法を分かりやすく解説

退職金制度については、企業の人事担当者や経営者であれば詳しく知っておかなければなりません。本記事では、退職金の基本から種類、計算方法、税金の取り扱いまで、分かりやすく解説します。退職金制度の整備や改定を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

退職金の基本と制度の概要

退職金とは、従業員が会社を退職する際に、会社から支払われる金銭給付です。これは、長年の勤務に対する功労報償や、退職後の生活保障という意味合いを持っています。

退職金制度の導入は法律で義務付けられているわけではありませんが、多くの日本企業で古くから支給が行われています。

企業は任意で退職金制度を設計でき、その支給条件や金額は会社ごとに大きく異なります。ただし、会社の就業規則や雇用契約書などで退職金の支給条件が明記されている場合、退職金の支払いは労働契約の内容に含まれることになり、会社に従業員への支払い義務が生じます。

退職金制度を設ける主な目的には以下のようなものがあります。

  • 求職者に対し、労働条件の良さをアピールできる
  • 従業員の勤続意欲を高め、優秀な人材の定着につなげられる
  • 退職後の生活資金を確保し、従業員の将来不安を和らげる
  • 功労報償として、長年の貢献に報いる意味を持つ

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、日本の企業のうち約75%が何らかの退職給付制度を持っているとされています。企業規模が大きくなるほど導入率は高まり、従業員1,000人以上の企業では約90%に達します。

参考:3退職給付(一時金・年金)制度|厚生労働省

退職金の種類

退職金制度にはさまざまな種類があり、企業はそれぞれの特性や経営状況に合わせて選択しています。ここでは代表的な四つの退職金制度について解説します。

ポイントをためて金額が決まる「ポイント制退職金」

ポイント制退職金は、勤続年数や役職、評価などに応じてポイントを付与し、退職時にそのポイント数に応じて退職金額を算出する仕組みです。

例えば、「勤続1年当たり5ポイント」「課長職で年間10ポイント」「成績Aランクで年間3ポイント」などと設定し、累計ポイント数に1ポイント当たりの単価(例:1ポイント=10,000円)をかけて退職金を計算します。

このシステムの最大の特徴は柔軟性にあります。従来の年功序列型の退職金制度から成果主義的要素を取り入れることができ、会社の経営方針に合わせて、どの要素(勤続年数・職能・業績など)を重視するかをポイント配分で調整できます。

ポイント制退職金の導入企業は増加傾向にあり、特に成果主義的な人事制度を取り入れている企業に多く見られます。中期経営計画の策定時などに、人事制度全体の見直しの一環として検討されることが多いようです。

掛け金を運用して将来を準備する「企業型確定拠出年金(DC)」

企業型確定拠出年金(DC:Defined Contribution Plan)は、企業が毎月一定額を従業員の個人口座に拠出し、従業員自身がその資金を運用して将来の退職給付に充てる制度です。

この制度の特徴は以下の通りです。

  • 運用成績によって将来受け取る金額が変動する
  • 従業員自身が運用商品(投資信託など)を選択する
  • 転職時にも資産を持ち運ぶことができる(ポータビリティがある)
  • 企業にとっては将来の退職金支払い額が確定しているため、経営の安定化につながる
  • 掛け金の拠出時と運用段階での税制優遇がある

2001年に導入されて以降、採用企業は増加し続けており、特に従来の退職一時金からの移行や、企業年金制度の見直しの一環として導入されることが多いです。

ただし、運用リスクは従業員側が負うため、従業員に対する投資教育が重要となります。また、掛け金の上限額が法令で定められているため、高額な退職金を支給したい場合は他の制度と併用することになります。

毎月の給与や役職に応じて変動する「給与比例制」

給与比例制退職金は、在職中の給与額に比例して退職金を計算する方式です。具体的には、退職時の基本給(または平均給与)に勤続年数と支給乗率をかけて算出することが一般的です。

支給乗率は企業によって異なりますが、勤続年数や退職事由(定年・自己都合・会社都合など)によって変動するケースが多いです。

給与比例制の特徴は、現役時代の処遇(給与水準)がそのまま退職金に反映されるため、年功序列型の人事制度と親和性が高い点です。長年勤務して給与が上がるほど退職金も増加するため、長期勤続のインセンティブとなります。

一方で、給与水準の高い従業員の退職金が大きくなるため、企業側の退職金支給額の予測が難しく、経営の不安定要素となる可能性もあります。

勤続年数ごとに固定金額を積み上げる「定額制退職金」

定額制退職金は、勤続年数ごとにあらかじめ定められた金額を積み上げて、退職金額を算出する方式です。

例えば、「勤続1年目は10万円、2年目以降は毎年15万円加算」などとシンプルに設定するケースが多いです。役職や業績によって加算額に差をつけるパターンもあります。

定額制の最大の特徴はシンプルさと分かりやすさです。従業員自身が簡単に将来の退職金を計算できるため、退職金への期待感が高まりやすいというメリットがあります。また、企業側も将来の支給額を予測しやすく、財務計画を立てやすいという利点があります。

中小企業や退職金制度を新たに導入する企業に好まれる方式ですが、インフレなどによる貨幣価値の変動に対応しにくいというデメリットもあります。長期的な運用を考える場合は、定期的な見直しが必要になるでしょう。

退職所得と税金の計算方法

退職金を設計する際に忘れてはならないのが税金の問題です。退職金には「退職所得控除」という特別な控除があり、一般的な給与所得と比べて税負担が軽減されています。ここでは退職金に関わる税金について解説します。

退職所得の計算方法

退職金に対する税金計算は、一般の給与所得とは異なる特別な計算方法が適用されます。この仕組みを理解することで、実際に手元に残る金額の見通しが立てやすくなります。

退職所得の基本的な計算式は以下の通りです。

退職所得の金額=(退職金の収入金額-退職所得控除額)×1/2

重要なポイントは2つあります。1つ目は「退職所得控除額」という特別な控除が適用される点です。この控除額は勤続年数に応じて計算され、勤続20年以下であれば「40万円×勤続年数(最低80万円)」、20年超の場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」となります。

2つ目のポイントは計算式の最後にある「×1/2」の部分です。

この計算によって課税対象額が半分になるため、大きな節税効果があります。ただし2022年以降、「役員等で勤続5年以下」の場合や、「役員等以外で勤続5年以下」で300万円を超える部分については、この1/2の計算が適用されなくなりました。

障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、さらに100万円の控除が加算されます。

参考:No.1420退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁

退職金の受け取り方による税負担の違い

退職金の受け取り方には主に「一時金」と「年金」の2パターンがあり、税金の扱いが大きく異なります。それぞれの特徴を理解し、最適な受け取り方を選択することが重要です。

一時金で受け取る場合

一時金で受け取る場合は「退職所得」として扱われ、前述の退職所得控除と1/2課税の特例が適用されます。

多くのケースでは、この方法が税負担の面で有利となります。例えば、勤続35年で退職金3,000万円を受け取る場合、退職所得控除額(1,850万円)の1/2となり、課税対象は575万円まで圧縮されます。

年金として受け取る場合

年金形式で受け取る場合は「雑所得」として毎年課税され、「公的年金等控除」が適用されます。この控除は退職所得控除より小さいことが多く、総合的な税負担は一時金より重くなる傾向があります。

ただし、一度に多額の金額を手にする際のリスク分散や、定期的な収入確保という観点では年金形式にもメリットがあります。

退職金の方式次第で会社の信頼もコストも大きく変わる

退職金制度は、単なる福利厚生ではなく、企業の経営戦略や人事戦略と密接に関わる重要な制度です。

適切な退職金制度を設計・運用することで、従業員の安心感を高め、企業の安定的な発展に寄与することができます。

まず、退職金制度の設計においては、自社の経営理念や人事制度との整合性を考慮することが重要です。

退職金制度は一度設計したら終わりではなく、定期的な見直しが必要です。社会情勢や経済環境、企業の経営状況などを踏まえ、3〜5年ごとに制度の適正性を評価し、必要に応じて調整していくことをおすすめします。

退職金制度の設計と運用には、専門的な知識とバランス感覚が求められます。必要に応じて社会保険労務士や税理士などの専門家に相談しながら、自社に最適な制度を構築していくことが大切です。

著者情報

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