グローバル人材の育成は急務。必要な能力や育成の進め方とポイントを解説

日本経済が停滞する中、多くの企業が海外での事業展開や取引の開始・拡大を志向しています。このような国際的なビジネスにおいて、グローバル人材は不可欠です。グローバル人材の定義から、その育成の重要性、具体的な育成方法、さらには育成の際の重要なポイントまでを網羅的に解説します。

現代に欠かせない「グローバル人材」の基本

「グローバル人材」というと、外国語を話せる人物を想像する人は多いのではないでしょうか。ただ、グローバル人材に求められるのは語学力だけではありません。グローバル人材にはさまざまな定義がありますが、この記事では文部科学省が発表している資料から定義を見てみましょう。

参考:高等学校教育部会(第4回) 配付資料「資料2 グローバル人材の育成について」PDF P.1〜3|文部科学省

グローバル人材の定義

グローバル人材とは、文部科学省の資料によると、主に以下の要素を兼ね備えた人材を指します。

  • 語学力・コミュニケーション能力
  • 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
  • 異文化に対する理解、日本人としてのアイデンティティー

まず語学力とコミュニケーション能力がなければ、海外でのビジネス活動全般ができません。単に言葉が通じるだけでなく、日本よりコンテクストが低い国の人にも正しく意図が伝わる「明確なコミュニケーション」が求められます。

2番目に挙げた項目は、海外という新たな環境でビジネスを成功させるために必要な要素です。例えば、主体性や積極性・チャレンジ精神がないと、そもそも国外のビジネスで活躍する意欲が湧かないでしょう。協調性や柔軟性は、異なる文化の中でもチームワークを高めたり問題が起きたとき素早く対処したりする力につながります。

異文化への理解は共働のために必要です。日本人としてのアイデンティティーは「ナショナル・アイデンティティー(National Identity)」の一つであり、海外で働いていても日本人としての立ち位置を自覚した上で、自信を持って発言するために求められます。

ほかに求められる能力

文部科学省の資料では、上に挙げた能力のほかにも、深い教養や専門性・課題解決力・リーダーシップやチームワーク・倫理観やメディアリテラシーなどが求められるとしています。

教養は、語学力だけでなく政治経済や世界情勢・各国の文化への理解も含みます。海外のビジネスパーソンや個人の顧客とやりとりするには、その国におけるタブーや政治・経済の状況を理解していなければなりません。

また、グローバル人材として活躍する中で、専門知識が求められたり難題に遭遇したりする場面は多いでしょう。リーダーシップとチームワークは、自分と異なる価値観を持っている人と理解し合い、チームとしてまとめるために欠かせません。

倫理観やメディアリテラシーは、事業を展開したりビジネスでやりとりしたりする国の人の印象を左右します。倫理観に欠ける言動や不適切な広報活動などがあれば、日本の企業全体に対する印象を悪くしかねません。

語学能力のレベルによる階級

同じく文部科学省の資料では、グローバル人材の能力水準は以下のような階級に分けられるとしています。

  1. 海外旅行者レベル
  2. 日常会話レベル
  3. 業務上の文書・会話レベル
  4. 2者間の折衝・交渉レベル
  5. 多者間の折衝・交渉レベル

日本の英語力は、世界的にはもちろんアジアの中でも低いレベルです。1〜3に当てはまる人材の拡大は進んでいますが、4・5のレベルの人材はまだ多くありません。2者間・多者間での折衝・交渉ができる人材の育成は急務です。

日本企業がグローバル人材を育成したい理由

現代の日本企業にとって、グローバル人材は組織を成長させるために不可欠な存在といえるでしょう。その理由は何なのでしょうか。社会情勢や人事課題から、三つの理由を紹介します。

日本経済の停滞による海外展開の必要性

日本経済はここ数十年停滞しています。経済成長の指標となるのが、GDP(国内総生産)の成長率です。物価変動の影響を除いた「実質GDP」で見ると、四半期ごとの変動はあるものの、ここ10年ほど伸びていません。さらに少子高齢化によって、今後さらにGDP成長率が落ちる可能性が高いでしょう。

日本の企業としては、海外の市場も視野に入れなければならない状況にあります。海外事業を展開するためにはグローバル人材が不可欠です。

参考:2025年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告) 「第1節 製造業の業績動向」PDF P.2(METI/経済産業省)

ダイバーシティ推進の重要性

ダイバーシティ(多様性)の推進は、人材確保や新しい視点の導入といったメリットがあるため、企業の成長にとって重要です。多様性の推進には、国籍の違う労働者を受け入れることも含まれます。

文化圏が異なる人々と協調して働くには、異文化を理解してコミュニケーションを取り、その人材の能力を発揮させられるグローバル人材が欠かせません。多様な人材を確保するためにも、グローバル人材を育成する必要性は高まっています。

グローバル人材の採用ハードルの高さ

即戦力となるグローバル人材を求めて経験者採用の募集をかけても、高度なスキルを持った人(ハイクラス人材)は簡単に採用できません。労働人口そのものが減っている中で、グローバル人材になり得るハイクラス人材はかなり少ないと考えられます。

グローバル労働市場でのニーズが高いため、相当良い待遇やキャリアステップを提示できないと、応募が来ません。転職エージェントやヘッドハンティングを活用すれば不可能ではありませんが、大きなコストがかかります。大きな予算は組めないけれどグローバル人材が欲しい場合、自社で育成するのが現実的です。

グローバル人材育成の進め方

海外拠点を設ける・海外との取引を始めるという場合、計画が出た時点でグローバル人材の育成を始めなければ間に合いません。育成は具体的にどう進めればよいのでしょうか。

自社が求めるグローバル人材の要件を明確化する

グローバル人材といっても、一般的な定義に全て当てはまれば自社で活躍できるとは限りません。紹介してきた定義と自社のニーズを照らし合わせて、人材要件を決める必要があります。

まず自社の現状と経営方針から、グローバル人材を育てる目的を明確に定めましょう。そこからどのような人材を育てたいのかを具体化し、人材要件を決めていくのが第一歩です。

候補者を選定する

人材要件が決まったら、自社の従業員の現状(スキルやキャリアの希望など)を把握した上で、自社の求める人物像に育成できそうな候補者を選定するステップです。

選定の際はスキル面だけでなく、勤怠状況や素行・評判など人となりが分かる情報も収集しておきましょう。それぞれの弱点となるスキルや能力も、この段階で明らかにするとスムーズです。弱点の補強を中心とした育成プログラムを考えやすくなります。

人材育成プログラムを作成・実行する

候補者が決まった後は、企業ごとのゴールに向けた育成プログラムを計画していきます。手法は海外赴任か現地で働くかなどによっても必要スキルが変わるため、ポジションに応じたスキルが身に付く育成方法が必要です。

例えば課題の洗い出しや戦略の立案が必要なポジションなら、クリティカルシンキング(批判的思考)を高めるトレーニングが役立ちます。実施に当たっては、周囲のサポートやプログラム終了後のフォローアップも大切です。

フィードバックを実施して改善につなげる

グローバル人材の育成は、1回研修をして終わるものではありません。一つのスキルを習得すれば活躍できるわけではないためです。

継続的に取り組みながら、フィードバックを通じて成果の確認やプログラムの改善点の洗い出しをし、改善していく必要があります。育成の対象者とは定期的に1on1のような面談機会を設け、目標までどの程度近づいたか、つまずいている点がないかをヒアリングしましょう。

グローバル人材を育成するときのポイント

グローバル人材の育成には、活躍できる人材を育てるためのポイントがあります。海外での事業展開や海外とのやりとりが増えたとき、実際にパフォーマンスを発揮できる育成のポイントも押さえておきましょう。

海外拠点の実態をよく把握する

海外拠点での事業展開を目的としてグローバル人材を育成する場合、海外拠点の実態把握が重要です。人材要件を決める段階で、実際に働く海外拠点の現状がよく把握できていないと、見当違いな人材選定や育成プログラムになりかねません。

課題や空気感を確かめるためにも、現地に足を運んで実際に海外拠点の現状を把握するのがベストです。現地に赴くのが難しくても、向こうのスタッフとオンラインミーティングを実施するなど、リアルタイムでのコミュニケーションを心掛けると空気感をつかみやすくなります。

研修は小分けにしてスモールステップで育成する

グローバル人材には幅広いスキルや能力が求められます。元々素質がある従業員でも、1回の研修で人材要件を満たす成長を期待するのは困難です。育成が不十分なままグローバル人材として配置しても、求められる役割を果たせない可能性が高いでしょう。

自社で取り組みやすい研修から始めて、習得具合を確かめながら少しずつ段階を進めていくのが確実です。

グローバル人材の育成で生き残れる組織に

現代では、日本の企業だからといって、日本国内だけの市場だけで利益を上げるのが難しくなってきました。ここ10年の推移を見ても、GDP成長率は伸びていません。少子高齢化による労働力不足で、文化圏の違う人たちを含む多様な人材の確保が必要になってきている背景もあります。

このような現代日本の現状を鑑みると、企業は早急にグローバル人材を確保すべきといえるでしょう。新たに採用することも可能ですが、ハードルは高めです。

グローバル人材を育成するには、目的から人材要件を明確化し、適切な人材を選んで目標達成に向けたプログラムを組みます。育成の成功には、海外拠点の実態把握やスモールステップでの研修の継続が必要です。

著者情報

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