後継者がいない会社はどうなる?事業継続のための4つの選択肢と対策を解説

長年築き上げてきた事業を誰に引き継ぐかは、多くの経営者が直面する重要な課題です。特に、家族に後継者がいない場合は、事業の存続そのものが危機に瀕することになります。現在、多くの企業が同様の課題を抱えており、その解決策も多様化しています。適切な準備と戦略により、事業の継続と発展を実現することは十分可能でしょう。

後継者がいない企業の現状と深刻化する問題

日本の中小企業における後継者不在問題は、年々深刻化しています。経営者の高齢化が進む中、事業承継への取り組みが急務となっています。

後継者不在の企業が6割

東京商工リサーチが2024年に実施した調査によると、後継者不在率は62.15%と6割を超えています。これは前年から1.06ポイント上昇しており、問題の深刻さが増していることを示しています。

特に中小企業では、創業者やその家族が経営を担うケースが多く、次世代への事業承継が重要な課題となっています。しかし、子どもが事業を継ぐ意思がない場合や、そもそも後継者候補がいない場合が増加しているのです。

業種別では、建設業や製造業、サービス業で後継者不在率が高くなっています。これらの業界は専門的な技術や顧客との長期的な関係性が重要なため、後継者の育成に時間を要することが要因として挙げられます。

出典:後継者不在率、1.06ポイント上昇の62.15% 誰のための「事業承継」か検証も必要 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

後継者不在による倒産の増加

帝国データバンクの調査では、2024年1月から10月に発生した「後継者難倒産」は455件となっています。これは黒字経営にも関わらず、後継者不在により事業継続が困難となった企業数です。

後継者難倒産の特徴は、経営状況は良好であるにも関わらず、事業を引き継ぐ人材がいないために廃業せざるを得ないという点です。その結果、雇用の喪失や技術の継承断絶、地域経済への影響など、社会全体にとって大きな損失となっています。

また、長年構築してきたサプライチェーンの断絶により、取引先企業の事業活動にも深刻な支障が生じています。

出典:全国「後継者不在率」動向調査(2024年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

後継者がいない場合の選択肢

後継者不在の企業が事業を継続するためには、主に3つの選択肢があります。そして、それが困難な場合の最終的な選択肢として「廃業」があります。それぞれの特徴を理解し、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。

親族外承継(社内承継・MBO)

社内の幹部社員や管理職に事業を引き継ぐ方法です。MBO(Management Buy Out:経営陣買収)として、現在の経営陣や従業員が金融機関等からの借入により株式を取得し、経営権を承継するケースが代表的です。

メリットは、事業内容を熟知した人材への承継により、企業文化や取引先との関係を維持しやすいことです。顧客や従業員からの理解も得やすく、事業の継続性が高まります。

一方、課題となるのは株式取得資金の確保です。中小企業であっても数千万円から数億円の資金が必要となる場合があり、金融機関からの借入や分割払いによる承継が検討されます。また、経営者としての資質を持つ候補者が社内にいるかどうかも重要な要素です。

M&A(第三者承継)

第三者企業への事業売却による承継方法です。近年、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的支援も充実し、中小企業のM&A件数は年々増加しています。

最大のメリットは、事業継続と従業員の雇用維持が実現できることです。創業者は売却対価を得ることができ、買い手企業の経営資源を活用した事業拡大も期待できます。帝国データバンクの調査によると、M&A後も8割以上の企業で雇用が維持されています。

注意点は、企業文化の違いによる従業員の離職リスクや、買い手企業との条件交渉の複雑さです。適切な企業価値算定と条件交渉には専門知識が必要なため、M&A仲介会社やアドバイザーの活用が重要になります。

外部招聘(プロ経営者の招聘)

三つ目の選択肢は外部からプロ経営者を招聘し、経営を委託する方法です。業界経験豊富な人材や他社での経営実績がある人材を後継者として迎え入れます。

この方法では、新たな視点での事業運営や既存事業の改革が期待できます。また、創業者は会長職などで会社に残りながら、段階的に経営を移譲することも可能です。

課題は適任者の発掘の難しさです。業界ネットワークや人材紹介会社を活用した人材探しが必要で、招聘した経営者が企業文化に適応できるかも重要な要素となります。

廃業

最後の選択肢が廃業です。事業を終了し、会社を解散する方法ですが、これは最も避けたい結果と言えるでしょう。

廃業を選択する場合、従業員の雇用や取引先への影響を最小限に抑える配慮が必要です。事業用資産の処分や債務の整理、税務手続きなど、適切な手順を踏んで進める必要があります。

ただし、廃業は雇用の喪失や技術の断絶を招き、地域経済にも悪影響を与えます。できる限り他の選択肢を検討し、事業継続の道を探ることが重要でしょう。

後継者がいない状況を解決するための実践的対策

後継者不在問題を解決するためには、早期からの対策が不可欠です。複数のアプローチを組み合わせることで、最適な解決策を見つけることができるでしょう。

早期対応と後継者候補の発掘・育成戦略

後継者探しは時間がかかるプロセスです。早めに始めることで、より多くの選択肢を検討できます。

社内での後継者候補発掘では、管理職や幹部社員の中から経営者としての資質を持つ人材を見つけることが重要です。日頃から社員の能力や意欲を観察し、リーダーシップを発揮している人材を特定しましょう。

候補者が見つかったら、段階的に経営に参加させることが効果的です。部門責任者から始まり、徐々に経営判断に関わらせることで、経営者としての能力を育成できます。外部研修や他社での研修機会を提供することも有効でしょう。

社外からの後継者候補については、業界内のネットワークや人材紹介会社を活用する方法があります。同業他社で実績のある管理職や、起業経験のある人材などが候補となります。

事業継続計画(BCP)策定による緊急時対応の準備

事業継続計画(BCP)は、自然災害や経営者の不在など、事業継続を脅かす緊急事態に備えて、あらかじめ対応策を定めておく重要な仕組みです。

BCPでは、経営者不在時の意思決定体制を明確にします。代表権を誰が持つか、重要な契約や取引の承認権限をどう分担するかなど、具体的な手順を定めておきましょう。

また、主要な取引先や金融機関との関係を引き継げるよう、普段から複数の役員が関係構築に携わることが重要です。経営者個人に依存した関係を組織的な関係に移行させることで、事業の継続性を高められます。

財務面では、緊急時の資金調達手段を確保しておくことも大切です。複数の金融機関との取引関係を維持し、必要に応じて迅速に資金調達できる体制を整えましょう。

企業価値向上と専門家活用による解決力強化

企業価値を向上させることで、M&Aや第三者承継の選択肢がより魅力的になります。

財務体質の改善は最も重要な要素です。売上の安定化と収益性の向上、負債の削減などにより、買い手にとって魅力的な企業にすることができます。また、業務プロセスの標準化や文書化により、経営者個人への依存度を下げることも効果的でしょう。

知的財産の整理と保護も重要です。特許や商標、ノウハウなどを適切に管理し、企業の競争力を明確化することで、企業価値の向上につながります。

専門家の活用では、税理士や弁護士、M&A仲介会社などとの連携が不可欠です。早期から相談を始めることで、最適な解決策を見つけやすくなります。

後継者がいない場合は早めの対策を

後継者不在問題は、一朝一夕に解決できる課題ではありません。しかし、適切な準備と戦略により、必ず解決の道筋を見つけることができます。

重要なのは早期からの取り組みです。後継者の育成には一般的に5年から10年の期間が必要であり、M&Aについても準備から成約まで1年以上かかることが一般的です。

経営者が元気なうちに、複数の選択肢を検討し、最適な方法を選択することが事業継続の鍵となるでしょう。

著者情報

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