ジョブローテーションは効果あり?企業ごとの向き・不向きや導入時のポイント

マネジメント層を育成したい企業にとって、効果的な手段の一つが「ジョブローテーション」です。ジョブローテーションとは具体的に何なのかとともに、向く企業と向かない企業、実際に導入するときのポイントなど実務に役立つ情報を紹介します。

日本で活用されてきた「ジョブローテーション」とは

ジョブローテーションは、日本で長く取り入れられてきた人事制度です。日本企業の特徴と相性が良く、新卒入社の従業員を中心に実施されてきました。ジョブローテーションの定義や目的、特徴などの基本を再確認しておきましょう。

人材を育成するための配置転換

ジョブローテーションとは、幅広い経験を積ませて従業員を育成するため、部署や職務を定期的に変更する戦略的人事異動です。企業によって変わりますが、導入目的は自社への理解促進や長期的な人材育成、業務の標準化などです。

「人事異動」とは目的が異なります。ジョブローテーションが育成を目的としている一方、人事異動は経営戦略上必要になるものです。人事異動が結果的に従業員の成長につながるケースもありますが、実施する目的が違うことは押さえておきましょう。

長期的な雇用を前提とした人事制度

ジョブローテーションは、基本的に終身雇用のように長期的な雇用が前提となる人事制度です。長い場合は5年ほどかけて実施することもあります。短期間では中途半端なスキルしか身に付かない可能性が高いでしょう。

ただ、人材の流動性が上がってきた現代では、新卒入社を一括でジョブローテーションに参加させるなどの従来型のジョブローテーションがなじまないケースも考えられます。労働者の考え方や自社の状況によって柔軟な対応を意識し、個別のジョブローテーション計画を立てるなどの工夫が必要です。

向く企業・向かない企業がある

ジョブローテーションはその性質から、向く企業と向かない企業があります。自社の予算や業務内容など、多角的な視点で導入を検討しないと、効果が期待できないばかりかコストだけかさむ結果になりかねません。

ではどのような企業が向いていて、どのような企業には不向きなのでしょうか。それぞれの特徴を理由とともに解説します。

向く企業の特徴

ジョブローテーションには、前提として多数の部署やポジションが存在しなければ成り立ちません。一定以上の事業規模がある企業なら、転換先が豊富なので、効果的なジョブローテーションを実現しやすくなります。

教育のリソースに余裕があることも、ジョブローテーションの導入に向く企業の特徴です。ジョブローテーションでは、未経験の業務に当たらせることになります。新たな部署やポジションで働いてもらうとき毎回教育コストが発生するため、資金や人員のリソースが十分な企業に向いています。

複数部署が商品・サービスに関わっている企業も、ジョブローテーションの導入に向いているでしょう。他部署に移った際も、大きく見れば一つのプロジェクトに関われるため、前の部署での経験を生かせます。

また、離職率が低い企業はジョブローテーションの費用対効果が高くなります。ジョブローテーションにかかった費用分だけ、成長した従業員が長く働いて還元してくれるためです。

不向きな企業の特徴

ジョブローテーションに向かないのは、まず向く企業と反対の特徴を持つ企業です。小規模で1〜2部署しかなければ多様な経験を積めず、教育のリソースがなければ対象者が放置されて知識やスキルが身に付きません。

離職率が高い場合、ジョブローテーションに費用がかかっただけですぐ辞められてしまう可能性が高く、費用対効果が悪くなります。

別の視点では、業務の多くに専門的なスキルが求められる企業も向いていません。ジョブローテーションでジェネラリストを育てるより、一つの部署やポジションで専門性を高めた方が企業としての成長につながります。

また、中長期的なプロジェクトが多い場合、ジョブローテーションは悪手です。メンバーが途中で脱退することで、業務が円滑に進まなかったり取引先とのやりとりで食い違いが発生したりといった問題が出てきます。

部署や職種によって基本給や手当などの待遇差が大きい企業も、ジョブローテーションの導入が難しいでしょう。部署やポジションの変更で収入が大きく変われば、対象者の生活が安定しなくなってしまいます。

ジョブローテーションを導入する効果とは

ジョブローテーションを取り入れると、その企業が導入に向いていた場合、大きな効果を実感できます。具体的にどのようなメリットがあるのか、企業側と従業員側に分けて見てみましょう。

企業が得られる効果

ジョブローテーションは、やり方にもよりますが、基本的には複数部署・ポジションの仕事を複数人が経験する制度です。実施すると特定業務についてのノウハウを持つ人が増え、業務の属人化を防ぎやすくなります。

適材適所の配置が容易になるのも、ジョブローテーションが企業にもたらすメリットです。特に社会人経験のない新卒・既卒の従業員の場合、どのような業務が向いているのか本人すら把握できていない場合があります。ジョブローテーションで複数の業務を経験することで、適性を判断しやすくなるでしょう。

また、ジョブローテーションの導入には、ジェネラリスト(幹部候補)が育成できるという効果があります。複数部署・ポジションを経験できれば、幅広い知識・知見を持つ人材に育ちます。

従業員が得られる効果

ジョブローテーションは、対象となる従業員本人にとっても良い効果があります。まず企業全体を把握できるようになり、多角的な視点が得られるのがメリットの一つです。

複数の業務を経験でき、飽きることなくモチベーションを保てる点も、大きな効果といえるでしょう。さらにジョブローテーションから自身の適性を把握し、今後のキャリアパスを描きやすくなります。

ジョブローテーションを導入するときの注意点

ジョブローテーションの導入に向いている企業でも、取り入れるに当たって注意したいポイントがあります。今後導入を検討しているなら、解決策も検討しておかなければなりません。

企業にとっての注意点

ジョブローテーションの注意点として重要なのが、運用コストが高く離職されたときの損失が大きいことです。教育には人件費やツールの導入費用・時間など多くのコストがかかります。ジョブローテーションを実施した後にすぐ離職されてしまうと、企業にとっては損失しか残りません。

離職率が高くなかったとして、対象者が離職しない保証はないでしょう。ジョブローテーションの対象とする従業員には特に、定期的な面談や積極的なコミュニケーションなど、エンゲージメントを高められるような働きかけが必要です。

転換直後にパフォーマンスが落ちる可能性は、「ジョブローテーションを実施すれば起こるもの」として捉えるのがベストです。新たな環境や業務でそれまでと同じ業績をキープするのはほとんど不可能なので、対象者のフォローアップや受け入れ先部署に対するサポート体制を用意しておく必要があります。

従業員にとっての注意点

ジョブローテーションは、導入の仕方や本人のキャリア志向によって、対象となる従業員にデメリットをもたらす場合があります。

まず自身の希望や適性に合わない転換だと、モチベーションが低下してしまうでしょう。ジョブローテーションは適性を知る過程にもなるとはいえ、絶対にやりたくないと思っていた職種に転換させられる、コミュニケーション力に極度の不安があるのに営業部に移されるといった状況では、モチベーションが下がるのは自然です。

専門性が身に付かないことでキャリアへの不安が募るのも、従業員にとってデメリットとなり得るジョブローテーションの注意点です。特にジェネラリストではなく、スペシャリストとして多様な働き方ができるようになりたいと思っていた場合、ジョブローテーションがキャリア構築を邪魔することになります。

ジョブローテーションの導入効果を上げるポイント

対象者の希望や属性を考慮する

日本で長く活用されてきたジョブローテーションも、現代では一律の実施では受け入れられにくくなっています。導入する場合は、可能な限り個人に合わせたジョブローテーションにした方がよいでしょう。

希望や適性に合わないとモチベーション低下はもちろん、離職のリスクも高まります。導入に当たっては、対象者本人へのヒアリングや適性の見極めが必要です。

対象者本人の振り返りを促す

ジョブローテーションの効果を得るには、振り返りが不可欠です。目標の達成状況を記入するシートや、モチベーションの変化を記入するシートを用意すると振り返りがしやすくなります。

定期的な面談でのフィードバックも、客観的な視点からの振り返りに効果的です。今回の転換でどのような経験を積み、どのようなスキルを身に付けたのかを明確に把握できれば、本人も自らの成長を感じられるでしょう。

自社の状況に合わせてジョブローテーションを導入

ジョブローテーションとは、さまざまな部署・ポジションを経験させて従業員を育成する人事制度・戦略です。基本的に長期の雇用関係が前提となるため、従業員のエンゲージメントや離職率が低い企業に向いています。

事業規模や教育リソースの多寡、業務・プロジェクトの性質などによっても、ジョブローテーションの向き・不向きは変わってきます。自社の状況を整理した上で、導入を検討しましょう。実際に取り入れるときは、対象者の意向や受け入れ先に配慮し、できるだけ長く働いてもらえる環境をつくると効果を実感しやすくなります。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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