就業規則を変更するステップとは?適用の要件や不利益変更の注意点も解説

社内で新たな制度やルールを策定したときは、就業規則の変更が必要です。ただ就業規則には、法律で適用できる条件や届け出が定められています。法的な要件と実務上の進め方をチェックし、リスクやトラブルの少ない就業規則の変更を目指しましょう。

変更した就業規則が適用される最低要件

就業規則は、企業が決めたものだからといって無条件に適用できるわけではありません。労働契約法や労働基準法の定めから、どのような条件なら適用できるのか、最低限満たすべき事項を解説します。

変更内容に合理性があって周知されている

労働契約法第7条では、以下の2点を満たしていれば、その就業規則が労働契約の内容に反映されると定められています。

  • 就業規則の内容が合理的である
  • 就業規則の内容が従業員に周知されている

合理性と従業員への周知は、法的に最低限の条件です。これは就業規則の変更にも準用されます。「新たな就業規則」「変更した就業規則」のいずれも、合理的かつ周知されていない限り法的効力を持たないということです。

参考:労働契約法 第7条|e-Gov法令検索

法令や労働協約に反していない

就業規則と同じく「働く上でのルール」として存在するものに、法律や労働協約・労働契約があります。優先順位は「法令>労働協約>就業規則>労働契約」です。法令や労働協約に反する内容の就業規則変更は、そのまま適用できません。法令・労働協約に反する部分が無効になります(労働基準法第92条、労働契約法第13条)。

逆に労働契約は、就業規則に違反している部分が無効になる決まりです(労働契約法第12条)。就業規則を見直すときは、労働協約や労働契約も一緒に見直して整合性を取る必要があります。

参考:労働基準法 第92条|e-Gov法令検索

参考:労働契約法 第12条・第13条|e-Gov法令検索

就業規則の変更に必要なステップ

就業規則の変更が初めて・長年就業規則を変更していないという状態だと、実務上の手続きがよく分からない場合もあるのではないでしょうか。法律上の義務も交えながら、就業規則の変更をどのように進めていけばよいのかを見ていきましょう。

変更案の作成と経営陣の承認

就業規則を変更しようとするとき、制度の変更や労働実態との擦り合わせ・法的リスクの回避など、必ず何らかの目的があるはずです。まずは就業規則を変更する目的や適用範囲を明確にし、変更・追加すべき項目を決める必要があります。

法務担当がいるなら、この時点で労働関連法令に準拠できているかもチェックすると、手戻りがなく効率的です。変更案が出来上がったら、経営陣に提出して合意を得ます。

労働者代表からの意見聴取

労働基準法第90条では、就業規則を作成・変更するとき、事業場の過半数労働組合(過半数労働組合がない場合は過半数代表者)からの意見を聴取しなければならないと定められています。「意見を聴取」すればよいので、必ずしも同意は必要ありません。聴取した意見を記載した書類を提出することとされています。

ただ不満から離職率が上がったり労使トラブルが増えたりするリスクを回避するには、同意を得た方がよいでしょう。事前に就業規則の変更について説明の場を設け、丁寧に説明した上で理解を得ると円滑に就業規則の見直しが進みます。

参考:労働基準法 第90条|e-Gov法令検索

労働基準監督署への届け出

労働基準法第89条では、就業規則を作成・変更した後「行政官庁への届け出」を義務付けています。「行政官庁」とは、事業場を所轄する労働基準監督署を指します。変更した就業規則は、意見書とともに労働基準監督署に提出しなければ有効と認められません。

期間は定められていませんが、同法施行規則第49条に「遅滞なく」とあります。変更が決まったら、できるだけ早めに届け出た方がよいでしょう。なお同規則の同じ条で、意見書には労働者を代表するものの氏名が記載されていなければならないと定めています。

参考:労働基準法 第89条|e-Gov法令検索

参考:労働基準法施行規則 第49条|e-Gov法令検索

従業員への周知

最低要件としても紹介したように、就業規則は従業員に周知されていなければ法的に無効となってしまいます。変更内容を適用したい時期までに、従業員への周知が必要です。方法は必ずしも書面の送付でなくても構いません。

掲示や書面・メールの配布など分かりやすい方法で、変更後の就業規則が適用されるべき従業員全員に届いていれば、周知義務は果たせています。ただ、口頭での説明では周知義務を果たしたことになりません。文字で確認できる方法を採用しましょう。近年はデジタルデータでの周知が浸透してきました。

就業規則の変更でチェックしたいポイント

就業規則を見直すとき、休日・労働時間・休憩などの条件は労働基準法の規定に従わなければなりません。労働契約については、労働契約法への準拠が前提です。ただ、それ以外にも見落としがちなポイントがあります。

実際に見直すとき、チェックしておきたい項目を三つ紹介します。

記載事項に漏れがないか

就業規則には、労働基準法第89条で必ず記載すべき項目(絶対的記載事項)と、定めがある場合に記載が必要な事項(相対的記載事項)が定められています。それぞれにどのような項目があるのかを見てみましょう。

<絶対的記載事項>

  • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇に関する事項(労働者を2組以上に分ける交替制では就業時転換に関する事項)
  • 賃金(臨時の賃金以外)の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切りや支払い時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

<相対的記載事項>

  • 退職手当が適用される従業員の範囲や退職手当の決定・計算・支払いの方法、退職手当の支払い時期に関する事項
  • 臨時の賃金(退職手当以外。ボーナスなど)や企業内最低賃金額に関する事項
  • 労働者の食費・作業用品をはじめとした負担に関する事項
  • 安全・衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰や制裁の種類・程度に関する事項
  • その他、当該事業場の全労働者に適用される定めに関する事項

相対的記載事項も、「定めがあれば必ず記載しなければならない」項目です。元々の就業規則に抜けがないかを含め、変更時にチェックしましょう。

参考:労働基準法 第89条|e-Gov法令検索

労働者の不利益になる変更がないか

就業規則の変更によって従業員に不利益が生じる(「不利益変更」となる)場合は、原則として個別に同意を得なければなりません。労働契約法は、第9条で不利益変更を原則として禁止しています。

就業規則を変更する際は、見直しによって不利益変更が発生していないかをまずチェックする必要があります。不利益変更の例は、次のようなものです。

  • 基本給を引き下げる
  • 諸手当を廃止する
  • 残業代の割増率を引き下げる
  • 休日数を減らす

不利益変更がどうしても発生してしまうなら、全従業員の同意を得ましょう。もちろん不利益変更がやむを得ない場合でも、賃金や割増率・休日などは関連法令や労働協約に違反できません。

参考:労働契約法 第10条|e-Gov法令検索

不利益変更でも有効になるケース

労働契約法第10条では、不利益変更に関する例外規定を設けています。次のいずれも満たす場合に限って、従業員の同意を得なくても適用できる決まりです。

  • 変更後の就業規則を従業員に周知している
  • 変更によって従業員が受ける不利益の程度や変更の必要性、変更した就業規則の相当性、労働者代表との交渉状況などを考慮して合理的である

とはいえ、労働条件が悪化するのは従業員にとって不満の原因となります。この例外規定に当てはまる場合でも、丁寧に説明して納得を得た方がよいでしょう。

参考:労働契約法 第10条|e-Gov法令検索

誰でも分かる表現になっているか

就業規則は、従業員全員が理解すべきものです。専門用語が多かったり文章が難解すぎたりすると、従業員が正確に内容を把握できない可能性が出てきます。曖昧で抽象的な表現も、解釈違いからトラブルの原因になりかねません。

分かりやすい・明確な表現になっているか、文章を作った担当者以外がチェックするのが理想です。法律で定められているわけではありませんが、「周知されていなければならない」という定めから、内容の分かりやすさも重要と考えられます。

就業規則の変更に反発された場合は?

就業規則の変更には、必ずしも従業員の同意は必要ありません。とはいえ、強い反発がある状態で強引に進めようとすると、労使トラブルを引き起こす可能性があります。反発があったとき、極力円滑に就業規則の見直しを進めるには、何をすればよいのでしょうか。

労使で丁寧に協議する

就業規則の変更に当たって、経営状況の悪化など致し方ない理由で不利益変更をしなければならない場合は少なからずあります。客観的に合理性があったとしても、従業員からの反発が起こる可能性は否めません。

労働契約法第10条で、不利益変更の合理性を認めるために考慮されるべき要素として、「労働組合など労働者代表との交渉状況」が挙げられています。まずは労使で協議する場を設けて、丁寧に説明・話し合いをしましょう。

外部の専門家に相談する

避けられない不利益変更について労使で協議を重ねても、同意を得られないケースも十分に考えられます。自社内での合意形成が難しい場合は、社会保険労務士をはじめとする専門家に相談するのも一つの手です。

社会保険労務士は労務の専門家であり、多くのケースに対応してきているため、適切なアドバイスを受けられる可能性が高いでしょう。そもそも不利益変更に当たるかの判断が難しい、法令対応に自信がないという場合にもサポートを受けられます。

就業規則の変更はルールにのっとって手続きを

就業規則には、複数の法律に定められたルールがあります。ルールに従って変更を進めないと、法令違反になったり深刻な労使トラブルが発生したりする可能性が高くなってしまうでしょう。

まずは関連法令の知識を整理した上で、紹介したステップに沿って丁寧に変更を進めれば、円滑に就業規則を変更しやすくなります。ルールにのっとり、従業員へ誠実に説明すれば、エンゲージメントの向上にもつながるはずです。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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