執行役員の仕事とは?取締役との違いや設置のメリット・注意点などを解説
近年はガバナンスの強化や経営の効率化を目的に、多くの企業が執行役員制度を導入しています。取締役とは異なる役割を持ち、経営陣の意思決定を現場で実行する重要なポジションです。執行役員の仕事内容や取締役との違い、導入の手順を確認しておきましょう。
執行役員制度の基本知識
執行役員制度は、日本企業で広く導入されている経営体制の一つです。取締役が経営の意思決定に集中できるように、日々の業務執行を担う役割を設けたのが始まりです。まずは執行役員制度の概要と、取締役・執行役との違いを理解しておきましょう。
執行役員とは?
執行役員とは、取締役会で決定された経営方針や、経営戦略を実行に移す役割を担う立場の役員です。会社法上の機関ではなく会社が任意に設置する内部的な役職であり、取締役会が決定した方針に基づき、特定の業務分野の執行を担う責任者です。会社との契約形態は企業によって異なり、従業員としての雇用契約の場合と、経営を委任する委任契約の場合があります。
多くの企業では、部門長クラスの管理職が執行役員に任命され、各部門の責任者として経営陣と現場をつなぐ重要な役割を果たしています。
取締役との違いは?
取締役は会社法第326条に基づき選任され、経営方針や戦略の最終決定を担う立場です。一方、執行役員はその方針に基づき実務を担う立場にあり、法的な責任が異なります。
また、取締役は会社の業績や意思決定の最終責任を負いますが、執行役員は企業内部での業務執行責任が中心です。そのため取締役は「経営の意思決定者」、執行役員は「運営の実行者」といった役割分担が明確にされています。
執行役との違いは?
「執行役」は、指名委員会等設置会社において、会社法第402条で定められた機関であり、執行役員とは異なる制度です。法的機関として設置が義務付けられており、会社を代表して業務を行う責務を負います。
一方、執行役員は上記のように、あくまでも任意の制度であり、法的な規定は存在しません。責任の範囲は、基本的に会社の内規によります。両者は名称が似ていますが、権限や法的立場が全く異なるため、混同しないように注意しましょう。
執行役員の仕事内容
執行役員の仕事内容は、担当する分野や企業規模によって異なりますが、共通するのは経営方針を具体的な行動に落とし込み、組織全体を動かすことです。例えば、営業部門なら市場戦略の遂行や数値管理、人事部門なら人材採用や、育成戦略の推進などが中心となります。
また、社内外との調整や会議での進捗報告など、実務とマネジメントを幅広く担う点が特徴です。経営者の意向を現場に的確に伝えつつ、成果を出す実行力が求められる立場で、部下の指導やチーム運営も重要な役割の一つです。
執行役員を設置するメリット
執行役員制度の導入には、以下のように多くのメリットがあり、経営の効率化とガバナンスの強化が可能です。取締役が経営の意思決定に専念できることで、より戦略的で長期的な視点での経営判断が可能になります。
経営と執行の分離による迅速化
執行役員制度により、取締役会が経営判断に集中できるようになり、意思決定と実行役を分離できます。これにより、取締役は長期的な経営戦略に専念でき、執行役員は現場に即した判断でスピーディに動ける体制が整えられます。
市場の変化に柔軟に対応できる点は、競争が激しい業界において特に大きな強みとなるでしょう。また、業務の進捗状況をリアルタイムで把握しやすくなるため、課題への迅速な対応も可能になり、組織全体の効率化にも寄与します。
責任の明確化とガバナンス強化
執行役員制度は、組織内の責任関係を明確化し、コーポレートガバナンスの強化にもつながります。執行役員が特定の業務領域で明確な責任を負うことで、問題が発生した際の責任の所在が明確になり、より効果的な問題解決と再発防止策の策定が可能です。
また、取締役会は執行役員の業務執行を監督する役割に専念できるため、客観的で独立した立場からの監督機能も強化できます。これにより、株主や投資家に対して説明責任を果たしやすくなり、企業の透明性と信頼性が向上します。
人材育成とモチベーション向上
執行役員に任命されることは、多くの社員にとって、キャリア上の大きなステップとなります。本人のモチベーションを高めるだけでなく、周囲の従業員にとっても努力の方向性を示すものとなり、組織全体の活性化につながるでしょう。
さらに、経営陣に近い立場で実務を担うことで、経営的な視点を養う機会にもなります。若手リーダーの育成や次世代経営幹部の候補者育成にも役立つため、長期的な組織力強化の観点からも、大きなメリットがある制度です。
執行役員制度の導入手順
執行役員制度を導入するには、まず会社の定款や社内規定に基づき、適切な制度の設計をする必要があります。取締役会で制度導入の方針を決定し、執行役員の任命基準や権限範囲、任期などを定めましょう。その後、社内規程を整備し、役員会や従業員へ周知して実施に移します。
制度の導入に当たっては、既存の組織体制との整合性や、ガバナンス面への影響を考慮することが大切です。導入後も定期的に制度の運用状況を見直し、必要に応じて改善を重ねましょう。また、制度の目的や運用ルールを社員に丁寧に説明し、理解と協力を得ることも、制度の定着には欠かせません。
執行役員を設置する際の注意点
執行役員制度の導入は多くのメリットをもたらしますが、以下のように注意すべき点もあります。制度設計が不適切な場合、組織の混乱や業務効率の低下を招く可能性があるため、権限や指示系統を明確に定め、意思決定や情報共有のルールも整備しておきましょう。
指示系統が曖昧・複雑になる可能性がある
取締役と執行役員の役割分担が明確でなければ、指示系統が複雑化し、現場に混乱をもたらす可能性があります。同じ業務に対して、複数の立場から異なる指示が出されると、社員はどちらを優先すべきか迷ってしまい、業務効率の低下を招くでしょう。
制度の導入時には職務権限の規程を明確に定めておき、組織全体で共有することが大事です。また、指示系統の運用ルールを定期的に見直すことで、役割の重複や不明瞭さを減らし、円滑な業務の遂行を促しましょう。
意思決定に問題が生じる場合も
執行役員制度を導入しても、取締役と執行役員の意思疎通が不足していると、重要な経営判断に支障を来す可能性があります。取締役会の方針と現場の実行がかみ合わなければ、意思決定のスピード感が失われるだけではなく、組織全体の方向性も揺らぐことになりかねません。
定期的な会議や報告体制の整備により、経営陣と執行役員の間で、十分な情報共有を図ることが重要です。加えて、意思決定プロセスの可視化や、課題発生時の迅速なフィードバック体制の構築などにより、判断の遅れや現場の混乱を防ぐ必要があります。
執行役員の役割を理解しよう
執行役員制度は、取締役が経営判断に専念できる環境をつくり出し、執行役員が業務遂行を担うことで組織全体の効率を高める仕組みです。取締役や執行役との違いを理解し、制度の特性を生かすことで、ガバナンスの強化や経営人材の育成にも役立ちます。
ただし、指示系統の曖昧さや意思決定の停滞といったリスクもあるため、導入時には職務分担と情報共有のルールを徹底することが大事です。制度の意義を正しく理解し、効果的に運用することが、企業の持続的な成長につながります。













