復職とは?休職・休業からの流れや復職支援の具体例・ポイントを解説
従業員が復職することは、企業にとってさまざまなメリットがあります。企業として復職支援体制を整備し、従業員の職場復帰をサポートしましょう。復職とは何かを解説した上で、復職支援の具体例やポイントも紹介します。
復職の基礎知識
休職や休業をしていた従業員が元の職場に復帰する仕組みが「復職」です。まずは、復職という言葉の具体的な意味と、その前提となる「休業」と「休職」の違いについて解説します。
復職とは
復職とは、病気・ケガ・育児・介護といった様々な理由による長期の休みを終え、従業員が再び元の職場・職務に戻って働くことを指します。
この「長期の休み」は、一般的に「休職」という言葉で広く使われがちですが、厳密には法律で定められた「休業」と、会社が任意で設ける「休職」の2種類に大別されます。この違いを理解することが、復職を正しく知るための第一歩です。
「休業」と「休職」の違い
① 法律で定められた「休業」
「休業」とは、法律に基づいて労働者に保障されている休みの権利です。代表的なものに、出産・育児・介護を理由とする休みがあります。
これらは「育児・介護休業法」などの法律でルールが明確に定められており、企業は従業員からの申し出に応じて、休業を与えなければなりません。
主な例:産前産後休業、育児休業、介護休業、業務上のケガや病気による休業(労災)など
② 会社が任意で定める「休職」
「休職」とは、法律上の義務ではなく、企業が福利厚生などの観点から任意で就業規則に定める制度です。主に、業務外の病気やケガ(私傷病)を理由とする長期の休みがこれに該当します。
どのような場合に、どのくらいの期間休めるかといったルールは、すべて会社の規定(就業規則)によって決まります。
主な例:メンタルヘルス不調(うつ病や適応障害など)、私的なケガや病気の療養など
休職は労働者の個人的事情による労働義務の免除であることから、企業には休職期間中の給与支払い義務は発生しません。
近年の復職率
令和5年度雇用均等基本調査によると、育児休業からの復職率は女性93.2%、男性97.3%と高い水準を維持しています。令和4年度の同調査では、介護休業の復職率も女性91.5%、男性97.2%と安定した数値を示しており、法整備による支援体制が機能していることがわかります。
しかし病気休職については状況が大きく異なり、メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査では、復職率が51.9%にとどまっています。特にがん、メンタルヘルス、脳血管疾患での退職率が高く、企業として病気休職者への復職支援強化が急務となっているのが現状です。
この数値の差は、法的な保護の有無だけでなく、企業側の支援体制の充実度や職場の理解度の違いも影響しています。病気休職者の復職率向上は、企業の人材確保と組織力維持の観点から重要な経営課題であり、体系的な復職支援プログラムの構築が求められているのです。
出典:「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」調査結果
復職支援の重要性
復職支援制度を整備することで得られる最大の効果は、従業員のエンゲージメント向上と優秀な人材の確保です。休職しても安心して職場に戻れる環境があることで、従業員は長期的なキャリアプランを描きやすくなり、企業への帰属意識も高まります。
経営的な観点では、新規採用と比較して大幅なコスト削減が可能です。復職者は既に企業文化や業務内容を理解しているため、教育研修コストが最小限で済み、即戦力として期待できます。採用市場が売り手市場である現在、経験豊富な人材を確保する手段として復職支援は極めて有効です。
復職支援は企業と従業員の双方にとって重要な取り組みです。適切な支援を行うことで、従業員の早期復帰や再発防止、ひいては企業の生産性向上や従業員の定着率向上につながります。
復職までの流れ
復職プロセスは休職理由により大きく異なり、それぞれに適した手続きと支援が必要です。育児・介護休業からの復職は法的に保護された明確なプロセスがある一方、病気休職からの復職は医学的判断と職場環境の評価を組み合わせた慎重な対応が求められます。
ここでは、休職理由別の復職プロセスの違いと、企業として整備すべき標準的な手続きについて、実務的な観点から詳しく解説していきます。
病気休職からの復職プロセス
病気休職からの復職は、主治医による職場復帰可能の判断から始まる多段階のプロセスです。まず主治医の診断書提出を受けて、人事部門と産業医が従業員の回復状況と職場環境のアセスメントを実施します。
この段階では、医学的な回復度合いだけでなく、実際の業務遂行能力や職場の受け入れ体制も含めた総合的な評価が必要です。
次に復職支援プランを作成し、段階的な業務復帰スケジュールや必要な配慮事項を具体化します。短時間勤務から開始し、体調を見ながら徐々に通常勤務に移行する計画や、業務内容の調整、上司・同僚への情報共有の範囲などを明確に定めます。
最終的な復職可否は、主治医の診断、産業医の意見、職場の準備状況を総合的に判断して決定されます。
復職後も継続的なフォローアップが欠かせません。定期的な面談による体調確認、業務遂行状況のモニタリング、必要に応じた労働条件の再調整など、再発防止と安定就労の実現に向けた支援を継続します。
このプロセスを就業規則に明文化することで、復職支援の質の向上と標準化を図ることができるでしょう。
育児・介護休業からの復職プロセス
育児・介護休業からの復職は、法的に定められた手続きに従うため、病気休職と比較して明確なプロセスとなります。休業期間は事前に申請した期間で確定しており、原則として原職または原職相当職への復帰が法的に保障されています。企業は復職予定日の1〜2か月前から準備を開始し、スムーズな職場復帰を支援する必要があります。
復職前の重要な手続きとして、復帰後の労働条件の確認があります。育児のための短時間勤務制度の利用希望、時間外労働の制限申請、子の看護休暇の取得見込みなど、仕事と育児・介護の両立に必要な制度利用について事前に調整します。職場の体制変更や業務分担の見直しが必要な場合は、早めに準備を進めることが重要です。
そして復職時には、休業中の職場の変化や業務内容の更新情報を適切に共有し、必要に応じて研修機会を提供します。特に長期休業の場合は、システムの変更や新しい業務プロセスへの対応が必要になることもあります。
法的な保護がある分、企業として両立支援制度を積極的に活用し、従業員が安心して仕事と家庭を両立できる環境整備が求められるでしょう。
復職支援の具体例
従業員の復職をサポートするために、企業としてどのようなことをすべきなのでしょうか。復職支援の具体例を見ていきましょう。
復職支援プランの作成
復職支援プランとは、病気やケガなどで休職していた従業員が職場に円滑に復帰できるよう、企業が個別の状況に合わせて作成する計画のことです。就業上の配慮や人事労務管理上の対応、産業医によるサポート体制などを具体的に定めます。
復職支援プランの作成においては、復帰後の再休職を防ぐために必要な情報収集や評価を行い、具体的な支援内容を計画しなければなりません。また、従業員のプライバシーに配慮し、個人情報保護に努めることも重要です。
復職支援プランは、従業員が安心して職場復帰し再び活躍できるようになるために、非常に重要な役割を果たします。
試し出勤制度
試し出勤制度とは、休職中の従業員が本格的に職場復帰する前に、試験的に出勤して職場環境や自身の体調を確認する制度のことです。リハビリ出勤や慣らし勤務とも呼ばれ、休職者の不安を軽減しスムーズな復帰を促すことを目的としています。
試し出勤制度には次のような種類があります。
- 模擬出勤:実際の勤務時間帯に実際の業務に近い形で軽作業を行う
- 通勤訓練:通勤に対する不安を解消するために、実際の通勤経路で職場付近まで移動する
- 職場滞在:職場環境に慣れるために、実際の業務は行わず職場に滞在する
試し出勤制度は、休職者の円滑な復帰を支援する有効な手段の一つです。導入にあたっては、従業員の状況に合わせて適切な運用を行うことが大切です。
リワークプログラム
リワークプログラムとは、主にうつ病や適応障害などの精神疾患で休職している人が復職を目指すための支援プログラムです。主に次のような種類に分かれています。
- 医療リワーク:医療機関で医学的なリハビリテーションを行う
- 職リハリワーク:地域障害者職業センターなどで職業リハビリテーションを行う
- 職場リワーク:企業内で企業独自のプログラムを実施する
医療リワークと職リハリワークは、企業で実施するものではありません。このような復職支援制度があることを、企業が休職者に情報として提供することが大切です。
復職面談
復職面談は、休職していた従業員が職場に復帰する前に、企業と従業員が面談を行って復職の可否や条件などを話し合う場のことです。従業員の健康状態や復帰への準備状況を確認し、円滑な職場復帰をサポートすることを目的としています。
復職面談では多角的な視点から復職の可否を見極めなければなりません。また、必要に応じて復職後の職場環境や就労条件を検討することも重要です。
なお、主治医が『復職可』と判断していても、企業が安全配慮義務の観点から業務の遂行が困難と判断することもあります。ただし、客観的かつ合理的な理由なく復職を認めずに解雇した場合は、不当解雇と判断される可能性があるため、慎重な対応が求められます。
復職支援のポイント
従業員の復職をサポートする際は、いくつかのポイントを押さえることが大切です。企業における復職支援のポイントを解説します。
休職・休業に関する情報提供を行う
労働者の休職や休業に関しては、国や自治体がさまざまな制度を整備しています。従業員が安心して休めるよう、以下のような情報を提供しましょう。
- 法律で定められている休職・休業制度
- 不安や悩みの相談先
- 手当金や給付金など経済的な保障
- 公的または民間による復職支援サービス
労働者を孤立させないよう、休職中の従業員と定期的に連絡を取り合い、職場の状況などを伝えることも大切です。
復職後の給与や待遇を明確化する
復職後の給与や待遇は原則として休職前と同等ですが、時短勤務や職務内容の変更がある場合は、就業規則や賃金規程に基づいて見直しが必要になるケースがあります。変更がある場合は事前に内容と理由を説明し、従業員の同意を得なければなりません。
給与や待遇を事前に明確化しておくことで、従業員が安心して復職後の生活を計画できるほか、復職後の給与や待遇に関する誤解やトラブルも防げます。
なお、休職中に無給であったとしても、社会保険の負担は従業員と企業の双方に発生します。このことを就業規則に明記した上で、従業員にもきちんと説明することが大切です。
やむを得ず復職以外の選択肢を検討する場合
あらゆる復職支援を尽くしても、本人の健康状態や職場の状況から復職が困難なケースも想定されます。そのような場合に退職勧奨を行う際は、従業員の将来に大きな影響を与えるため、慎重かつ誠実な対応が求められます。
まず最も重要なのは、退職勧奨はあくまで会社からの提案であり、従業員が応じる義務はありません。拒否された後も退職勧奨を繰り返すと、退職強要とみなされて違法となる恐れがあります。退職勧奨を拒否されたことを理由に、減給や降格などの不利益な処分をすることも違法です。
面談の際は、威圧的な言動を避け、従業員のこれまでの貢献に敬意を払いつつ、現在の状況や心情を丁寧にヒアリングし、共感する姿勢が不可欠です。会社側の事情を一方的に伝えるのではなく、なぜ復職が困難なのかという客観的な事実と、会社として提案できる選択肢(特別休暇の付与や再就職支援など)を具体的に情報提供しましょう。従業員が冷静に考え、判断するための時間を十分に与える配慮も極めて重要です。
企業として復職支援を整備しよう
復職とは、病気・育児・介護などの理由で休業・休職していた従業員が、再び元の職場に戻って働くことです。職場復帰が可能になった場合に、会社との手続きを経て復職となります。
病気による休職者が職場にスムーズに復帰し、再び健康的に働けるようになるためには、復職支援制度の整備が不可欠です。復職支援は、従業員の健康維持や生産性向上、離職率の低下を図れるほか、企業の社会的責任の遂行にもつながる重要な投資となります。