内定者SNSの注意点や目的、事例を押さえ、内定辞退の防止に取り組む
内定者SNSとは
内定者のフォロー施策の一環で、SNSサービスを活用して学生とコミュニケーションをとる企業があります。内定者SNSとは、内定者と企業・内定者同士のコミュニケーションを促進するサイトです。メッセージ機能や掲示板といった機能が備えられていたり、オンラインでの学習機能が付加されたサービスや会社の雰囲気がわかる社内報としての機能を担うなど、入社前の知識向上や内定者の不安解消に役立つでしょう。
オンライン選考の普及で、就活生が一度も会社に足を運ばない場合も
採用コンサルティング事業を行う株式会社プレシャパートナーズが、2023年度の新卒採用を実施している102社を対象に実施した「新卒採用に関する調査」では、83.3%の企業がオンラインでの選考を導入していることがわかりました。また、人材総合サービス事業を行う株式会社ディスコが、2021年10月に1,116人を対象に実施した「キャリタス就活 2022 学生モニター調査」によると、就職決定企業との対面経験が「一度もない」と回答した学生は4割超にのぼります。
このように、近年はオンラインでの採用活動を行う企業も少なくなく、就活生が一度も会社に足を運ばず入社を迎えることもあります。企業の求人数が就職希望者数を上回る、新卒の売り手市場が続くなか、内定者SNSは企業と内定者が継続的に接点を持ち、内定者に自社への意識を向けてもらうための一つの手段と言えるでしょう。
内定者SNSのデメリット
内定者SNSはさまざまな機能で便利なフォローツールである一方、ネガティブなイメージを抱く学生も少なくありません。また、採用担当者にとってもいくつかのデメリットがあります。自社で内定者SNSを導入する際に、注意すべきポイントを内定者と採用担当者のそれぞれの側面から確認しましょう。
内定者側のデメリット
1. 会社や同期との距離感に疲弊する
内定者SNSは気軽に企業と内定者がやり取り可能ですが、過剰な接触には注意が必要です。必要以上のコミュニケーションは疲弊感を増す可能性があります。なかには同期のプロフィールを見て、卑屈になる学生も出てくるかもしれません。
SNSの使い方は人それぞれであるため、必要に応じてSNS以外のフォロー施策で個別に対応することも検討してみてください。企業側と内定者で気持ちのズレが生じないように、内定者一人ずつに目を配ることも大切です。
2. 会社に監視されているように感じる
内定者SNSによる進捗状況の報告に対して、内定者が「監視されている」と感じる場合があります。採用担当者が内定者全員を管理するには便利なツールですが、内定者からするとプライベートにまで踏み込まれていると感じるものです。
特に、内定者による発言や交流を強く促すと、企業側にネガティブな印象を持つ可能性があります。内定者フォローにSNSを活用する場合は、専用のアカウントを与えるなどして対策を講じましょう。
3.入社前なのに対応するのがめんどくさい
内定とは、法的に労働契約が成立しているわけではありません。新卒の内定者は学生の身分でもあり、内定者SNSでの干渉は「めんどくさい」と思われかねません。特に、近況報告を強制するといったルールを設ける際には注意が必要です。
企業としては重要なコミュニケーションでも、内定者にとってはネガティブなものになり得ます。新卒であれば入社前に卒業旅行の計画を立てるなど、残りの学生生活を謳歌する時期です。このような活動を阻害するような、過度な連絡は控えると良いでしょう。
採用担当者側のデメリット
1.メッセージ返信の工数がかかる
内定者SNSは、企業側と内定者とのコミュニケーションに役立ちます。一方で、採用担当者の業務量が増える可能性があり注意が必要です。メッセージを一人ずつ開封して返信するのは、膨大な工数がかかる作業です。
また、内定者から返信がない場合は、採用担当者から改めてメッセージを送る必要があります。普段の業務に加えて内定者のフォローをしなければならず、内定者への連絡は効率的に行うことが大切です。
2.内定者との距離感が難しい
採用担当者のなかには、気軽にやり取りできる内定者SNSでも「距離感が難しい」と悩むケースも出てくるでしょう。メッセージの文面はフランクもしくはフォーマルな内容にすべきか一つの課題として挙げられるかもしれません。
距離感が近すぎる場合、内定者によっては嫌な印象を持つ可能性もあります。逆に、距離感が出すぎても学生からの返信が堅苦しくなりがちです。内定者との心理的な距離を縮めるためには、メッセージの文面を工夫する必要があります。
内定者SNSの運用目的・メリット
内定者SNSの活用には注意点がある一方で、さまざまなメリットが期待できます。オンラインの採用活動がメインとなるなか、内定者との接点が少ないのが課題です。ここでは、LINEやFacebookとは違う内定者SNSの魅力を解説します。
1. 内定辞退の防止
内定者SNSを運用するメリットの一つが、内定辞退の防止につながることです。株式会社ディスコが2022年10月に1,165社に対して行った「2023年卒採用 内定動向調査/2024年卒採用計画 」によると、41.4%の企業が2021年度と比較して「内定辞退者が増えた」と回答しました。新卒採用が「売り手市場」になっていることや、オンライン選考が普及し、会社が就活生に対して自社の魅力を対面でアピールしにくくなっていることなどが背景としてありそうです。内定を出した学生に入社してもらうために、企業側では何ができるでしょうか。
就活生が内定を辞退する主な理由として以下が挙げられます。
- 内定後のフォローで不信感を抱いた
- 入社後のイメージが持てないことによる不安
- 採用担当者の態度が悪かった
これらは、企業側と内定者とのコミュニケーションや相互理解が足りていないことが原因です。
内定者SNSを活用すれば、採用担当者からの声がけや質疑応答が可能になります。十分なコミュニケーションを取ることで、内定辞退の防止につながります。入社前の時期は不安がつきものであるため、内定者SNSを通じて心のケアを行いましょう。
2. 採用担当者の負担軽減
内定者SNSでは、内定者との連絡を一括管理できます。メッセージ機能でのフォローはもちろん、オンラインでの学習機能やマニュアル資料の格納、タスクを依頼する機能などが備えられているのが内定者SNSの魅力です。一つのツールで管理することで、採用担当者の負担の軽減につながります。
これらの業務を一括管理できない場合は、以下のようになります。
- コミュニケーション手段:メールやLINE
- 内定者課題の準備:専用の学習ツールを準備
メッセージのやり取りだけであれば、LINEやFacebookでも可能です。しかし、入社前に提出してほしい課題や書類などは個別での対応や別のツールを準備する必要があります。内定者SNSの中には、これらに対応する機能が備わっているものもあり、採用担当者の業務効率化が期待できます。
3. 情報漏えいのリスク回避
オンライン上で情報を管理するうえで注意すべき点が情報漏えいのリスクです。内定者SNSは、LINEやFacebookと比べて情報漏えいのリスクを軽減できます。LINEやFacebookを用いた内定者フォローの落とし穴は以下のとおりです。
- LINE:間違えて別のグループに機密情報を送信した
- Facebook:誰でも見られる設定にしてしまった
プライベートと併用して使用する学生が多いからこそ起こり得るミスです。専用ツールである内定者SNSの導入は、情報漏えいを防止し、自社の信頼やブランドイメージを守ることにもつながります。
内定者が抱える3つの不安
株式会社ラーニングエージェンシーが2022年度入社予定の内定者743人を対象に実施した「内定者意識調査」によると、内定者の75.4%が入社前に不安を感じていると回答しています。ここでは、内定者が抱えている不安を3つ紹介します。
1. 自身のスキルに対する不安
いくら内定が出たとはいえ、自分のスキルに対する不安は拭えないものです。「自分の能力で仕事についていけるのか」「しっかりと成果を出せるのか」など、入社前に不安を抱える内定者は少なくありません。
内定者SNSには学習ツールが備わっている場合もあり、e-ラーニングなどの学習コンテンツを提供できます。基本的なビジネスマナーなど、仕事をするうえでの必要な知識を学べるのが特徴です。また、学習ツールが備わっていない場合でも、メッセージ機能などでナレッジや研修資料の共有を行えば、仕事のイメージをつかみやすくなるでしょう。
2. 職場の人間関係に対する不安
新しい環境へと飛び込むのは誰しもが不安を感じるものです。「入社後に職場の人間関係はスムーズにいくのか」「同期とのコミュニケーションに問題は生じないか」など、職場での人間関係に対して不安を抱える内定者も少なくありません。
このような内定者のフォローとして活用したいのが内定者SNSです。内定者による自己紹介やメッセージ機能でのコミュニケーション、採用担当者が各部署の紹介を気軽に行えます。職場の雰囲気がどのような感じなのかを伝えてあげましょう。
3. 会社の経営方針や事業理解に対する不安
これから長く勤めていくことになる会社に対して、将来的な不安を覚える内定者も一定数存在します。会社の経営方針や事業理解について、入社前の時点で内定者と共有できるようにしておくことが大切です。
内定者SNSには、各事業部の部長やマネージャーなどが発信するリーダーズコラムが備わっているサービスもあります。入社後に上司となる人の考えを知ることができるのは、内定者にとっても多くの学びを得る機会になるはずです。
内定者SNSの運用事例3社
自社が抱える課題に内定者SNSが適しているのか、実際に運用してみないと判断ができません。ここでは、内定者SNSを導入した企業の事例を紹介します。各企業が抱えていた悩みが、内定者SNSでどのように解消できたのかを見ていきましょう。
1. 株式会社ユー・エス・エス(サービス業)
株式会社ユー・エス・エス様は、中古車のオートオークション事業を展開しています。全国に19拠点を持つ企業ですが、拠点ごとに文化が異なることが課題でした。新卒内定者も「地元の会社に入った」という認識が強くあったといいます。横のつながりを深く構築することを目的に、内定者SNSを導入します。気軽にコミュニケーションが取れる仕組みを構築したことで、内定辞退がゼロになったそうです。
2. 株式会社トップ(商社)
株式会社トップ様は、トータルオフィスプランニングを行う企業です。内定者SNSを導入するまでは、内定後に実施する懇親会が年に1~2回程度。会社と内定者との距離感があり、内定辞退率の高さが課題でした。
会社と内定者のコミュニケーションツールとして内定者SNSを導入し、ちょうどよい距離感で継続的にコミュニケーションが取れるようになったといいます。その結果、導入前に30%あった内定辞退率が5%にまで減ったそうです。
3. 株式会社八百鮮(小売業)
株式会社八百鮮様は、大阪と愛知の商店街に計6店舗の八百屋を構える企業です。八百鮮様のビジョンは「八百屋を、日本一かっこよく」。しかし、従業員の数が増えるととともに「想い」の共有が難しくなったのが課題でした。
内定者SNSを導入し、入社前から会社のことを知ってもらう機会を設けます。先輩社員の姿や会社の風景が共有できる、入社後の働く姿がイメージできるといった理由から、入社前と入社後のギャップがなくなったそうです。
まとめ
今回は内定者SNSについて、メリットや運用上の注意点などを解説しました。内定者SNSを活用すれば、内定者に対して自社の魅力を伝えやすくなるため、内定辞退の防止や入社後の早期離職防止にもつながります。一方で、運用方法を誤ると、内定者に不信感を与えてしまうことになりかねないので、注意が必要です。内定者SNSをはじめとする内定者フォロー施策については、内定者と世代が近い若手社員に意見を取り入れながら、改善していくことが大切になるでしょう。
現在、内定辞退や若手社員の早期離職に課題をお持ち企業様は、内定者フォロー施策の一つとして、内定者SNSを検討してみてはいかがでしょうか。