辞職と退職はどう違う?法律のルールやスムーズな辞職のための施策も解説
辞職や退職について、就業規則や法的なルールの判断に悩んでいる企業もあるのではないでしょうか。辞職と退職の違いとともに、辞職・退職に関するルールを法律や判例から解説します。リスクや現場負担が少ない辞職に必要な取り組みも、併せて参考にしてください。
辞職と退職の違いとは
「辞職」と「退職」を普段は何げなく同じ言葉として使っている人は多いかもしれません。ただ、両者は明確に意味が違う言葉です。何が違うのかを分かりやすく解説します。
「辞職」は自主的な退職
「辞職」とは、従業員が自らの意思で企業に申し出て辞めることです。自己都合退職の一種であり、従業員からの届け出があって初めて成立します。届け出は「辞表」という形で提出するのが通常です。
役職者の自主退職に使われるのが一般的
「辞職」という言葉は、法律で定義が分かれているわけではありませんが、慣例として役員や管理職など責任ある立場の人が自ら辞める際に使われることが一般的です。一般社員の場合は「退職」という言葉と「退職届」を用いるのが通例です。
政治家や公務員が、自主的に公職から退くケースでも「辞職」が使われることがあります。ニュースで「議員の辞職(辞任)」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
「退職」は辞職を含む雇用関係の終了全般
「退職」は辞職をはじめとした自己都合退職だけでなく、倒産や整理解雇・退職勧奨などによる会社都合退職も含めて、雇用関係が終了すること全般を指します。定年で仕事を辞めるのも退職です。
「退職」は、役職者が自主的に辞めるときに使っても問題はありません。退職は雇用関係の終了全てを表すので、自ら仕事から離れることも含まれます。
辞職と退職の予告期間に関する法的ルール
辞職を含む退職には、それまでの期間について法律でルールが定められています。自ら申し出る辞職の場合と、解雇のような一方的な通告による退職に分けて、法的な定めを見ていきましょう。
辞職の申し出は原則2週間前まで
自ら仕事を辞める辞職は、法的には2週間前までに申し出れば可能です。民法第627条第1項では、無期雇用の場合、当事者(労働者・使用者)から解約の申し入れがあった日から2週間経過すれば雇用契約は終了するとされています。
従業員からの辞職は、原則2週間前に申し出れば法的には受け入れられるということです。一方で企業側からの解約申し入れには、労働基準法も絡んでくることに注意しなければなりません。
ただしこれは、雇用期間の定めのない「無期雇用」の従業員に適用されるルールです。契約社員など「有期雇用」の場合は、原則として契約期間中の自己都合退職は「やむを得ない事由」がなければ認められません(民法第628条)。なお、契約期間が1年を超える場合は、1年を経過した日以降はいつでも退職できます(労働基準法附則第137条)。
退職は解雇の場合に厳しい制限あり
企業側からの一方的な雇用契約の解約申し入れは、「解雇」に該当します。民法では解約申し入れから2週間経過後に終了するとされていますが、労働基準法第20条では「労働者を解雇しようとするときには少なくとも30日前に解雇予告が必要」という旨が規定されていることに注意が必要です。
30日前までに予告しない場合、解雇予告手当の支払いが求められます。さらに労働契約法第16条では解雇を有効とする条件として、次の2点を挙げています。
- 解雇の理由が客観的に見て合理的である
- 社会通念から考えて解雇が相当である
いずれの条件も同時に満たさなければ、解雇権の濫用として無効と定められているのです。解雇の場合、予告期間にも理由にも厳しい制限があることを覚えておきましょう。
就業規則で有効とされる辞職の予告期間
常時10人以上の従業員を雇用する企業には就業規則の作成が義務付けられており、就業規則には退職(辞職を含む)に関する事項も記載しなければなりません(労働基準法第89条)。
就業規則が適法に作られているなら、自主退職する場合いつまでに申し出るべきかも記載しているでしょう。就業規則は法律や労働協約に従っており、合理的な内容で従業員に周知されていれば労働契約の内容として有効です(労働契約法第7条)。
では「合理的」と見なされる基準は何なのでしょうか。企業の就業規則の実態や、判例から考えられる辞職の予告期間の合理性について解説します。
2週間より長い予告期間を設けている企業は多い
民法では、辞職に当たって2週間前に申告すればよいことになっています。しかし、1カ月・2カ月といった予告期間を就業規則に定めている企業も少なからずあるでしょう。
円滑に引き継ぎをするため、欠員補充の期間を十分に取るためなど企業によって理由はさまざまです。就業規則で2週間より長い予告期間を定めていても、その規定が直ちに無効となるわけではありません。しかし、民法第627条は労働者の退職の自由を保障する趣旨が強いと解釈されており、従業員が2週間前での退職を主張した場合、就業規則の規定(例:1カ月前予告)が無効と判断される可能性が高い点には注意が必要です。
2週間を超える予告期間が無効とされた判例も
就業規則で民法の規定(2週間)を超えた予告期間を定めるとき、有効か無効かの判断基準は民法第627条と合理性です。過去の判例で、無効と判断されたケースを紹介します。
「高野メリヤス事件」では、「係長以上の役職者が辞職するとき、6カ月以前に退職願を出して企業の許可を得なければならない」と規定した就業規則が無効と判断されました。
「法は労働者が辞職したいと思ったとき制限となる定めを排除する趣旨を持つため、使用者の都合で民法第627条第1項の2週間という予告期間を延長できない。同条第2項・第3項の例外に当てはまる場合のみ延長するのが妥当」という見解です。
この判例を見る限り、できるだけ予告期間は2週間とした方がよいでしょう。
法的リスクなく現場負担も少ない辞職を実現するには
従業員の退職は、企業にとって事業継続上の課題となる一方、従業員にとってはキャリアにおける重要な選択です。企業には、法律を遵守するだけでなく、従業員の権利を尊重し、円満な退職をサポートする社会的責任があります。こうした姿勢は、企業の評判を守り、在籍する従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
辞職や退職は、ルールや仕組みが整っていないと従業員とのトラブルが起こりやすい出来事です。就業規則が無効とされたり現場の負担が増えたりせず、辞職の手続きをしてもらうには何をすればよいのか、重要なポイント2点を紹介します。
就業規則はできるだけ民法の定め通りにする
就業規則の予告期間が無効とされた例として紹介した事件は、「辞職には6カ月以前の辞職願と企業の承認が必要」という極端なケースです。とはいえ、裁判所の見解を見れば民法に規定された「2週間」という民法の予告期間は極力延長すべきでないと判断できます。
1カ月や2カ月でも、すぐ引き継げるような業務であれば無効とされる可能性が出てくるでしょう。万が一紛争になったときのリスクを軽減するには、できる限り就業規則の予告期間も2週間にする努力が必要です。
短期間で引き継げる仕組みをつくる
民法では2週間前の申し出で辞職が可能ですが、特に役職者の場合、この期間で業務の引き継ぎを完了させるのは容易ではありません。法的リスクを抑えつつ、円滑な事業継続を図るためには、日頃からの仕組みづくりが不可欠です。
まず重要なのは、急な辞職の申し出にも対応できるよう、日頃から業務の標準化や情報共有を進め、特定の個人に業務が依存する「属人化」を防いでおくことです。こうした取り組みは、退職への備えとなるだけでなく、組織全体の業務効率化や生産性向上にも貢献します。
その上で、実際に従業員から辞職の申し出があった際には、個別の引き継ぎを円滑に進める必要があります。退職する従業員の担当業務を速やかに整理し、引き継ぎ計画書を作成して進捗を管理することで、効率的に引き継ぎを完了できます。特に、退職や引き継ぎの経験が少ない従業員の場合は、企業側が手順を明確に示すなど、積極的にサポートすることが望ましいでしょう。
辞職・退職の違いと法的ルールを知って対応
辞職と退職の違いは、辞職が自主的に仕事を辞めることであるのに対し、退職は辞職を含む雇用関係の終了全般を指す点です。「自己都合退職」「会社都合退職」などと違って、並列に扱える言葉ではありません。
辞職を含む退職には、労働基準法や労働契約法に定められたルールがあります。就業規則の有効性(合理性)も加味しながら、法的リスクをできるだけ回避できる決まり・仕組みをつくりましょう。現場にしわ寄せがいかないようにするには、スピーディーな引き継ぎの工夫も大切です。