ハラスメントの種類が多すぎる?増加する背景と職場での対策を解説
現代の職場では、さまざまなハラスメントが問題となっています。従来のセクハラやパワハラといった広く認識されているハラスメントだけでなく、新しい形のハラスメントが次々と注目されるようになっています。その背景には、社会の変化や価値観の多様化が密接に関係しています。本記事では、ハラスメントの種類とその背景、職場への影響、そして企業や個人が取るべき具体的な対策について詳しく解説します。
ハラスメントの多様化とその背景
ハラスメントの問題は、現代社会においてますます注目されています。セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントに加え、新たな形態のハラスメントが増えています
これらの背景には、価値観の多様化やデジタル技術の発展、労働環境の変化が深く関わっています。以下では、ハラスメントの定義とその重要性、多様化する背景について詳しく解説します。
ハラスメントの定義とその重要性
ハラスメントとは、相手に対して不快感や苦痛を与える行為や言動のことを指します。意図的な場合もあれば、無意識に行われることもあり、相手がどう感じるかが重要です。
主に、人間関係や職場環境の中で発生しやすく、相手の尊厳を傷つけたり、心理的・身体的な負担を引き起こす結果を伴います。また、相手の同意を得ずに行われる一方的な行為であることが多く、力関係や権力の差を背景にすることも特徴です。
このような行動は、社会的な規範や職場のルールに反し、時には法的な問題に発展することもあります。
関連記事:ハラスメントの種類と定義。経営者が知っておくべき対策も解説
ハラスメントが増加してきている背景
ハラスメントが多様化し、増加している背景にはいくつかの要因があります。まず、ジェンダーや働き方、多様な文化背景の共存など、価値観の多様化が挙げられます。現代では特に、性別、年齢、国籍、価値観の違いが職場における対人関係を複雑化させています。
さらに、デジタルツールの普及もハラスメントの形を変えています。SNSやチャットツールを通じたハラスメント行為、いわゆる「サイバーハラスメント」が新たな問題として浮上しています。
このような背景により、従来のハラスメントだけでなく、職場における「モラルハラスメント(モラハラ)」や「マタニティハラスメント(マタハラ)」といった新しい種類も広く認識されるようになりました。
職場で起こりやすいハラスメント
職場におけるハラスメントは、多くの従業員にとって深刻な問題となっています。セクハラやパワハラをはじめ、新たな形態のハラスメントも次々と浮上しており、働く環境の健全性を脅かしています。以下では、それぞれのハラスメントの特徴や影響について解説します。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクハラは、身体的な接触、性的な内容を含む冗談、外見に関する無神経なコメントなど、職場での性的な発言や行動が相手に不快感を与える行為を指します。
セクハラの発生には、上司から部下への立場の悪用や、性別に基づく偏見が根底にある場合が多いです。例えば、上司や同僚が立場を利用して行う性的な嫌がらせは、被害者が声を上げにくい状況を作り出します。
このような環境では、加害者の行動がエスカレートするリスクが高まり、職場全体の生産性や士気が著しく低下します。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワハラとは、職場において、地位や権限を利用して他の従業員に対して精神的、身体的、または業務上の負担を与える行為を指します。
これは、上司が部下に対して行うものに限らず、同僚間や部下から上司に対する行為も含まれます。職場の人間関係において行われるものであり、特定の相手に対する攻撃や嫌がらせが継続的かつ意図的に行われる場合に問題となります。
その結果、被害者が心身の不調に陥ったり、業務能力が低下したり、最悪の場合は退職を余儀なくされることもあります。
法律や企業のコンプライアンスの観点からも、パワハラは重大な問題として捉えられており、予防や適切な対応が求められています。
その他のハラスメントの種類(モラハラ、マタハラなど)
以下は、職場で見られるその他のハラスメントの種類です。
- モラルハラスメント(モラハラ):言葉や態度による精神的な攻撃を指します。例としては、侮辱的な言葉の繰り返しや、被害者を孤立させる行為が挙げられます。
- マタニティハラスメント(マタハラ):妊娠や出産を理由にした嫌がらせ行為で、育児休業の取得を妨害する発言や、妊娠を理由に不利益な扱いをするケースが含まれます。
- カスタマーハラスメント(カスハラ):顧客が従業員に対して理不尽な要求や暴言を行う行為です。サービス業や接客業で被害が増加しており、社会問題として注目されています。
これらの新たなハラスメントは、被害者が声を上げにくい環境で起こることが多いため、周囲の理解と組織的な支援が求められます。
ハラスメントの多様化が職場に与える影響
職場におけるハラスメントの多様化は、従業員の働きやすさや組織全体の健全性に大きな影響を及ぼします。被害を受けた個人のメンタルヘルスに悪影響を与えるだけでなく、職場全体の雰囲気や生産性にも深刻な影響をもたらすのです。
以下では、ハラスメントが職場に与える具体的な影響について掘り下げていきます。
職場での心理的安全性の低下
「心理的安全性(psychological safety)」とは、集団の中で従業員が、自分の意見や意思を安心して発言できる状態を指します。ハラスメントが放置されるような職場では、この心理的安全性が著しく低下することがわかっています。
意見を述べることへの恐怖心が広がることで、従業員が新しいアイデアを共有する機会が減り、業務効率が低下する恐れがあります。また、ミスをしたときにもハラスメントの口実になることを恐れて隠ぺいしたり、問題が発覚することが遅れる可能性が高まります。
生産性の低下と離職率の上昇
ハラスメントが原因で従業員がストレスを抱えると、集中力やモチベーションが低下し、結果的に生産性が著しく下がります。
また、心理的負担から職場環境に耐えられなくなり、離職を選択する従業員が増える傾向があります。この離職の増加により、企業は新たな人材の採用や育成にかかるコストの増大を余儀なくされ、経営資源の浪費につながります。
訴訟リスクと企業イメージへの影響
ハラスメントが法的問題に発展すると、企業は訴訟リスクに直面します。
このリスクは金銭的な損害だけでなく、企業の評判にも深刻な影響を及ぼします。特にSNSが普及している現代では、ハラスメント事例が瞬時に拡散される可能性があり、企業イメージが著しく損なわれる危険性があります。
特に、2020年に施行された「パワハラ防止法」は、職場におけるパワハラに関する措置を義務付けるものであり、パワハラが発覚した場合、企業は行政から指導や勧告を受け、改善が見られない場合は企業名をさらされるケースもあります。
このような事態は顧客の信頼を失うだけでなく、採用活動にも悪影響を及ぼします。
多すぎるハラスメントの種類に対してとれる対策
現代の職場では、ハラスメントの多様化が企業にとって大きな課題となっています。これに対して、組織は包括的な対策を講じる必要があります。本節では、具体的に実施できる取り組みを解説します。
相談窓口の設置
ハラスメント被害者が安心して相談できる環境を整えることは、企業にとっての重要な責務です。
相談窓口を設置することで、被害者が状況を共有しやすくなり、適切な対応を迅速に行うことが可能になります。
パワハラ防止法により、相談窓口の設置は中小企業でも2022年度に義務化されていますので、設置していない中小企業はすぐにでも取り組む必要があります。
従業員教育と定期的な研修の実施
ハラスメント防止には、従業員全体の意識改革が欠かせません。定期的な研修では、ハラスメント行為の具体例やそれが与える影響について学ぶ機会を提供します。
特に、世代の違いによりハラスメントの認識の違いを是正することは重要です。ハラスメントの問題では、加害者側が無自覚な場合も少なくありません。
各従業員が自身の行動を見直し、適切なコミュニケーション方法を身につけることが期待されます。
外部との連携も視野に入れる
相談窓口の設置は企業側の義務ですが、リソース的に難しい場合もあるでしょう。企業内での対応が困難な場合、外部の専門機関との連携が効果的です。
従業員のメンタルヘルスケアや法的対応の強化を図ることで、ハラスメント問題への対応力を向上させることが可能です。
相談窓口の設置については、厚生労働省や法務省の窓口は無料で利用することができますが、こちらは義務化の要件を満たしていませんので注意しましょう。
健全な職場環境を築くために
ハラスメントの多様化は避けられない現実ですが、適切な対策を講じることで、ハラスメントの発生率を下げ、問題が発生した際にも迅速かつ効果的に対応することができます。
企業は、相談窓口や教育、外部機関との連携を活用し、全ての従業員が安心して働ける環境を提供する責任があります。
心理的安全性の高い職場を築くことが、従業員満足度の向上と企業の成長に直結するのです。