理念はなぜ現場で活かされない?データから見える理念浸透のポイント

企業理念は、組織の根幹を成す重要な指針であるはずです。しかし、多くの企業でその理念が社員の行動にまで浸透せず、「理解止まり」の状態に陥っています。なぜ理念は現場で活かされないのでしょうか?本記事では、実際の調査データをもとに、その要因と具体的な改善策、そして組織力を高めるための浸透ポイントを徹底解説します。

【時間がない方のためのポイントまとめ】

  • 理念浸透には「認識」→「共感」→「実践」→「定着」という4つのフェーズがある
  • 「認知」「共感」はされているものの「実践」「定着」に至っていない企業が多い
  • 「実践」「定着」のためには、社員が理念を自分ごと化できる施策が必要

企業理念浸透の実態

企業の掲げる「企業理念」は組織の羅針盤となるはずですが、パーソル総合研究所が2023年に公開した調査データによれば、その浸透度は決して十分とは言えません。

この調査によれば、自社の企業理念について「内容まで十分理解している」「内容に同意できる」と回答した社員は4割いたものの、「意識しながら業務を行っている」「自然と体現できている」と回答した社員はさらに少ない20~30%台​に留まりました。

つまり社員の多くは理念を知識として理解し賛同している一方、日々の業務で実践したり、それを習慣として定着するには至っていないという、理解止まりの状態にあります。このように理念の浸透に課題を抱える企業では、「全社の一体感がない」「現場の従業員まで理念が伝わっていない」といった悩みが生じがちです。

では、なぜ理念浸透はうまくいかないのでしょうか。次章では、よくある原因とその改善ヒントを見ていきます。

出典: 企業理念と人事制度の浸透に関する定量調査 - パーソル総合研究所

なぜ企業理念は浸透しないのか?よくある4つの原因と改善ヒント

企業理念がスローガン止まりで、現場の行動変容に繋がらない。その背景には、多くの企業に共通する課題が存在します。

ここでは、理念浸透を阻む代表的な4つの要因と、それぞれの改善に向けた具体的なヒントをご紹介します。

経営層の想いや背景が現場に届いていない

経営層が理念に込めた想いや、策定の背景が現場まで十分に伝わっていないと、理念は単なる「お題目」になってしまいます。

たとえば、「お客様第一」「挑戦を恐れない」といった理念を掲げても、それがどのような経緯や課題認識のもとに生まれたのか、具体的にどんな行動を期待しているのかが共有されていなければ、社員はそれを自分事として受け止めにくくなります。

こうしたギャップを埋めるには、経営トップ自らが理念の背景やエピソードを語る場を定期的に設けることが効果的です。

朝礼や社内報、動画メッセージを活用し、理念に対する想いを「経営の言葉」で届けることで、社員の理解が深まり、行動変容の第一歩となります。

従業員が理念に共感できていない

経営層が理念について語ったとしても、従業員が共感しなければ理念は現場に浸透しません。

その理由としてよくあるのが、会社が掲げている理念と経営層の姿勢との矛盾です。たとえば、「社会に貢献する企業に」という理念を掲げたとしても、経営層が社会貢献に興味がない姿勢を見せていれば「きれいごと」と受け止められてしまいます。

当然のことではありますが、まずは経営層が理念の体現を態度で示し、率先して行動していくことが重要です。

また、理念策定のプロセスにおいて現場の意見が十分に反映されていない場合、「押し付けられた」「自分には関係ない」と感じる社員も少なくありません。これも、従業員の共感を得づらくする理由です。

理念を語る際には、もちろん経営層が会社の方向性を示すことも必要ですが、同時に現場の声を丁寧にすくい上げ、共に考える姿勢も求められます。まだ理念の策定段階であるなら、現場ヒアリングやワークショップの実施など、社員の声を理念に反映する場を設けることが効果的です。

ビジョンが日々の業務と結びついていない

朝礼で理念を唱和してもその後の業務や会議でまったく触れられなければ、理念は記憶から薄れていきます。特に、部署や個人の目標設定が理念と無関係であれば、「理念は理念、現場は現場」との分断が生じ、浸透はますます難しくなります。

この課題に対応するためには、マネージャー層が日常的に理念と業務のつながりを意識的に語ることが重要です。

たとえば、目標設定や1on1の場で「この目標は会社のビジョンの〇〇に基づいている」といった言及をしたり、日報に「今日の業務が理念のどの要素に沿っていたか」を振り返る項目を設けると、社員は理念を日常の行動と結び付けて考えるようになります。

理念に沿った行動が評価されず、モチベーションが続かない

社員が理念を意識して行動に反映させても、それが組織として正当に認められなければ、次第にその努力は継続されなくなります。

そもそも現場では短期的な成果や数値目標を追うことに精一杯になりやすく、「理念に沿った行動=成果とは関係ない」といった空気が生まれると、なおさら理念は軽視されてしまいます。

このような悪循環を断ち切るには、たとえば、理念に基づいた称賛の取り組みが効果的です。具体的には、理念を体現する社員の行動を社内SNSや社内報で取り上げて称賛するなど、他の従業員にも見える形で実施するのがおすすめです。

あるいは人事評価の項目として、日々の業務におけるバリューの体現度を組み込むという方法もあります。等級が上がるごとに「理念を意識できているか」「理念を行動に移せているか」「他のメンバーに理念を広める動きができているか」とステップが上がる設計にするのも良いでしょう。これによって、社員に「理念や価値観を行動に移すことが評価される」というメッセージを伝えることができます。

データから読み解く企業理念浸透のポイント

理念が単なる掲示物で終わらず、社員一人ひとりの行動に根付くには、誰がどう伝え、どのような仕組みで支えていくかが重要です。

先述のパーソル総合研究所の調査では、理念を「現場の管理職」や「従業員の家族」から伝えることで、社員の納得感や実践意欲が高まることが示されています。

本章では、理念の定着度を高めるために有効とされる実践的なポイントを、調査結果に基づいて解説していきます。

家族と理念について語ることで浸透力が高まる

調査では、理念の浸透施策に「従業員の家族」が登場している場合、浸透プロセスに好影響が見られました。これは身近な存在が関与することで、理念が自分ごととして受け止められやすくなるためだと考えられます。

たとえば、会社で作った製品や社会貢献活動を家族が褒めてくれたり、「日常のこんなシーンで役立っている」といった何気ない感想でも、社員は自身の仕事が家族や社会に貢献していると実感が持てます。

また実際に仕事ぶりを見ている管理職から伝えることで、言葉に説得力が増します。身近な人や実際に仕事を知っている人から理念を伝えられることで、より浸透しやすくなるのです。

現場リーダーの「発信」が理念浸透を後押しする

理念は、単に上層部から押し下ろすだけでは根付きません。実際に調査では、理念が従業員の「うわさ」を介して広がることや、「課長・リーダー」などの現場リーダーが理念を語ることの重要性が指摘されています。

そのためには現場リーダー自身が理念に共鳴し、率先して発信すること、理念について部下と会話することが必要です。たとえば、リーダーが部署やチームの会議で自部署の目標と企業理念のつながりを話す、日報や1on1で理念と業務の関係を振り返るような取り組みが有効です。

そういった姿を見ることで部下も理念の重要性を理解し、理念が身近なトピックスとして会話に現れやすくなります。

広報や経営陣の一方通行の通知で理念は広がらない

理念を社内に伝える手段として、社内報やイントラネット、朝礼での唱和などの「一方通行の伝達」は多くの企業で取り入れられています。

しかし、これらの施策だけでは社員の内面に理念が根付くことは難しく、浸透効果は限定的です。理念の浸透度を高めるためには、社員自身が主体的に関わる必要があります。

たとえば、理念に基づいたワークショップや対話型の研修を実施したり、評価制度や表彰に理念の要素を組み込むことで、社員が「理念を体現することの価値」を実感しやすくなるでしょう。

単なる発信ではなく、対話・共創・評価の仕組みを通じて、理念を“自分たちで実現していくもの”として組織文化に定着させる工夫が求められます。

理念浸透を成功させる4ステップと具体施策

企業理念を組織内に深く浸透させ、文化として定着させるには、「認識」→「共感」→「実践」→「定着」という4つのフェーズを段階的に踏むことが欠かせません。

◾️関連するお役立ち資料
『理念浸透の4ステップと施策20選』
理念浸透を実現するための4つのステップと、理念を浸透させるための20の取り組みを解説しています。自社の状況と照らし合わせてぜひご活用ください!

ここからは、各ステップにおいて実践すべき具体的施策とポイントを紹介します。以下で紹介する施策は、いずれも弊社サービス「TUNAG(ツナグ)」で取り組むことが可能です。自社で取り入れられる施策がないか、ぜひ参考にしてみてください。

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【STEP1】理念を「認識」してもらう

最初に必要なのは、社員が理念の存在と内容を正しく認識することです。特に中途入社者や若手社員は、理念の意義や背景を知る機会がないまま業務を進めてしまうことが多いため、繰り返しの周知が重要となります。

理念は単に「覚えてもらう」だけでなく、「なぜこの理念なのか」を理解してもらう必要があります。社長メッセージや社内報を活用し、理念の背景や会社として大切にしている価値観を丁寧に伝えることで、社員が企業の方向性を把握しやすくなります。

まずは「この会社は何を目指しているのか」をしっかり伝えることが、理念浸透の第一歩です。

理念を認識してもらうための施策

①トップメッセージ配信

社長や経営層から、経営理念やビジョンについての動画メッセージやブログを社内SNS等に掲載し、通知機能で全員に届けることで、どの勤務地・勤務形態の社員にも一斉に周知できます。

社員は経営トップの肉声を通じて理念に触れることで、まずは「会社が何を大切にしているか」を認識できます。

②社内報

社内報で理念の解説や事例紹介を掲載します。紙やPDFの社内報だけでなく、社内報アプリや社内SNSに記事を投稿すれば、スマホからでも手軽に閲覧でき、現場スタッフまで情報を行き渡らせることが可能です。

既読機能があるアプリやツールを使えば、どのくらい記事が読まれたか分かるため、理念の浸透度合いを計り、その後の施策や周知方法を考えることにも役立ちます。

【STEP2】理念に「共感」してもらう

理念を知っているだけでは、行動にはつながりません。次に必要なのは、社員一人ひとりがその理念に「共感」し、「自分もその一翼を担いたい」と思えることです。

そのためには、抽象的な理念を具体的なストーリーとして可視化し、リアルな共感を引き出すことが重要です。理念を体現する社員を称賛し、社内で共有することは、社員の心に火を灯す好循環を生み出します。

理念に共感してもらうための施策

①今月のMVP

社内で理念を体現した模範的な社員を「今月のMVP」として表彰・紹介します。

表彰された社員の実際のエピソードを共有することで、他の社員も「こうやって理念を体現すれば良いのか」「こういう行動が会社に認められるんだ」と感じ、理念への共感や理解が深まるでしょう。

他部署の人も「いいね!」やコメントで称賛できる仕組みがあると、社内全体で理念への共感をより促進できます。

②成功事例の共有

理念を体現できた成功事例や、理念が発揮されたプロジェクトを社内で共有します。「〇〇に取り組んだ結果、お客様からこんな嬉しいお声をもらいました!」「〇〇という理念を体現するプロジェクトXが成功した」など、具体的なストーリーとして伝えることで、社員は理念の有用性を実感できます。

発表会や社内報特集、SNS投稿など形式は問いませんが、ポイントは社員が自分のチーム以外の取り組みから学べる場を作ることです。横のつながりを通じて「自分もやってみよう」という共感の輪が広がります。

◾️関連するお役立ち資料
『理念浸透の4ステップと施策20選』
理念浸透を実現するための4つのステップと、理念を浸透させるための20の取り組みを解説しています。自社の状況と照らし合わせてぜひご活用ください!

【STEP3】理念を「実践」してもらう

共感が生まれたら、次は理念を「行動」に移してもらう段階です。どれほど共感していても、実際の業務で活用されなければ浸透とは言えません。

社員が日々の業務における判断や行動の場面で、「この選択は理念に沿っているか」を自問しながら実践していくことが大切です。理念を軸に継続的に振り返る機会を仕組みとして設けることで、理念の実践を習慣化させていきましょう。

理念を実践してもらうための施策

①日報

社員に日々の業務日報を書く習慣がある場合、日報の中に「今日体現できた経営理念は?」といった振り返り項目を入れてみましょう。会社のバリューに関連して良かった点・課題点を振り返ることで、一人ひとりが日常業務の中で理念を意識し、実践していく習慣が育まれます。

②個人MVVの策定・共有

従業員それぞれが自分のMission・Vision・Value(MVV)を言語化する取り組みも効果的です。会社の理念と照らし合わせながら「自分は仕事を通じて何を成し遂げたいか」「どんな価値を大事にしたいか」を考える機会を設けます。

ワークショップ形式で発表し合ったり、社内SNSのプロフィール欄に各自のMVVを記載してもらうのも良いでしょう。

自分自身の価値観と会社の理念とを重ね合わせることで、理念の実践が他人事でなく自分事として腹落ちします。

【STEP4】理念を「定着」させる

最後のステップは、理念を「定着」させることです。これは、理念に沿った行動が“当たり前”として根付く状態を指します。一部の社員や部署だけが実践するのではなく、組織全体に広がり、日々の行動や意思決定に自然と反映されるようになることが理想です。

定着には仕組み化と継続的な評価・フィードバックが不可欠であり、理念を文化として根づかせるための中長期的な視点が求められます。

理念を定着させるための施策

①バリューカード(サンクスカード)の運用

社員同士が理念に沿った行動を称賛し合う文化を醸成しましょう。

その具体策として「バリューカード」(サンクスカード)があります。これは誰かが会社のバリュー(価値観)に沿った良い行動をした際に、同僚が感謝や称賛のメッセージをカードとして送り合う仕組みです。

特に、TUNAGのようなデジタルアプリ上で気軽に行えるようにすると、地理的に離れた拠点の社員同士でも称賛を送り合えます。

カードを通じて社内に称賛の連鎖が生まれ、理念に即した行動をした社員が報われることで、価値観の共有が持続していきます。

②アンケートで浸透度を測定・フィードバック

定着フェーズでは、理念浸透の度合いを定期的にアンケート調査し、改善に活かすことも欠かせません。

社員に「理念を理解・共感しているか」「日々意識できているか」などを匿名で答えてもらい、部署や職種ごとの課題を把握します。

社内SNSの投票機能やアンケート機能を使えば回収もスムーズです。

結果は経営陣や人事だけでなく社員にもフィードバックし、「次はこんな取り組みをしよう」と全員でPDCAを回すことで、理念浸透の活動自体が組織に定着していきます。

TUNAGで仕組み化する理念浸透

企業理念は、単なるスローガンではなく、組織の意思決定や日々の行動を方向づける「共通の価値基準」であり、組織文化の根幹です。

理念を行動へと移し定着させるためには、単なる情報発信だけではなく社員一人ひとりが理念を自分ごととして捉え、日々の業務に結び付けられるような仕組みと場づくりが不可欠です。

「TUNAG(ツナグ)」は、そうした継続的かつ双方向の理念浸透の取り組みを実現する社内SNS型のクラウドサービスです。「認識」→「共感」→「実践」→「定着」という理念浸透の4段階それぞれの施策をオールインワンで設計できます。

TUNAGのサービス概要はこちら

TUNAGで理念浸透を加速させ、組織の成長やエンゲージメント向上の基盤を作っていきましょう。ぜひ上記リンクよりサービス概要をご覧ください。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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