マネジメント能力とは?構成スキルや高める方法、育成のポイント
企業の目標を達成するためには、管理者のマネジメント能力を高めることが重要です。マネジメント能力の意味や重要性を理解し、育成のための取り組みを検討しましょう。マネジメント能力とは何か、構成スキルや高める方法、育成のポイントについて解説します。
マネジメント能力の基礎知識
マネジメント能力とは、具体的にどのような能力のことを指すのでしょうか。重視される背景やリーダーシップとの違いと併せて解説します。
マネジメント能力とは
マネジメントとは、経営資源を効率良く運用しながら目標達成に向けて組織を動かすことです。マネジメントの対象となる「ヒト・モノ・カネ・情報」を管理する能力を、マネジメント能力といいます。
マネジメントという言葉を初めて定義したとされているのは、アメリカの経営学者ピーター・ドラッカーです。ドラッカーは、組織に成果を生み出すツールや仕組みがマネジメント、マネジメントを実行する人をマネージャーと定義しました。
マネジメントの責任範囲は立場により異なります。例えば、経営者は全社的な責任を負いますが、リーダーやマネージャーと呼ばれる人の責任範囲は自分が管轄する範囲(部署やチーム)のみです。
マネジメント能力が重視される背景
少子高齢化により労働力不足が加速し、あらゆる産業で人材の確保が困難になっています。限られたリソースで最大限のパフォーマンスを発揮するためには、経営者や管理職の優れたマネジメント能力が不可欠です。
また、適切なマネジメントを行うことで、従業員の働きやすさが向上します。管理職に対する部下の信頼感が高まり、仕事に対するモチベーションも向上するため、離職率の低下も図れるでしょう。
マネジメント能力が重視される背景には、働き方改革の推進もあります。多様な働き方に対応するためには、働き方が変わっても生産性を維持できるマネジメントが求められます。
リーダーシップとの違い
リーダーシップとは、目標達成に向けて部下を率いる能力のことです。経営資源のうち「ヒト」を対象にしており、管理というよりは「先頭に立って導く」といったニュアンスが強くなります。
一方のマネジメント能力は、経営資源の全てを対象とし、それらを有効活用する能力です。「ヒト」以外の経営資源も対象になっている点が、リーダーシップとの大きな違いといえます。
リーダーシップはマネジメント能力に含まれており、リーダーシップが備わった人はより優れたマネジメント能力を発揮しやすいでしょう。
マネジメント能力の構成スキル
マネジメントではさまざまな経営資源を管理・活用しなければならないため、複合的なスキルが求められます。マネジメント能力の構成スキルを見ていきましょう。
目標を設定し伝えるスキル
マネジメント能力に欠かせないスキルの1つに、目標や方向性を示すスキルが挙げられます。組織やチームとしての成果を上げるためには、適切な目標を設定し、部下に正しく伝えることが重要です。
まずは組織やチームの目標を決め、部下の目標へと落とし込みます。高すぎる目標はモチベーションが上がりにくい一方、目標が低すぎると部下の成長機会を失いかねません。一人ひとりに合った目標を設定する必要があります。
また、目標や方向性を明確に示すことで、部下が自身の役割を理解できるようになります。会社に貢献していることを実感できるため、モチベーションアップやパフォーマンス向上を期待できるでしょう。
目標へのプロセスを管理するスキル
部下の目標が定まったら、管理者は個々の目標へのプロセスを管理する必要があります。目標への進捗を管理するスキルも、マネジメント能力に不可欠なスキルの1つです。
目標へのプロセスを管理するスキルには、計画作成やタスクの割り当て、スケジュールの設定などが含まれます。全体を俯瞰しながら個々の進捗をチェックし、期限までに一定の成果を上げなければなりません。
従業員にタスクを割り当てる際は、どこまで裁量を与えるかも考慮しましょう。また、細かく管理すべき人もいればある程度任せた方がよい人もいるため、部下の能力に合わせた管理を意識することも重要です。
コミュニケーションスキル
マネジメントを適切に実行するためには、コミュニケーションスキルを発揮して部下と良好な関係を構築しなければなりません。
例えば、進捗管理をうまく行うためには報連相の徹底が不可欠です。管理者と部下のコミュニケーションが不足している場合、業務が停滞していても管理者が気づくのが遅れてしまいます。
また、管理者のコミュニケーションスキルが低いと、指示が的確に伝わりにくくなります。部下の考えを正確に理解することもできず、生産性の低下を招くこともあるでしょう。
コミュニケーションスキルが高ければ、部下が発言しやすい雰囲気が醸成されるため、お互いの意思疎通を図りやすくなります。管理者もスムーズなマネジメントを実現できるでしょう。
業務を遂行するためのスキル
マネジメントの役割は、チームや組織を管理し、目標達成に導くことです。しかし、状況によっては、マネージャー自身が業務遂行のスキルを発揮し、専門性を活かして現場でサポートすることが求められる場合もあります。特に、深刻化が予測される人材不足の時代において、プレイングマネージャーとして働く人材の需要が増加していくでしょう。
マネジメントにおいて高い業務遂行スキルを発揮できれば、部下の信頼も得やすくなります。現場に近いマネージャーなら、部下のお手本になれるでしょう。
ただし、専門性の有無だけでマネージャーを評価するのは避けるべきです。重要なのは、業務遂行スキルとともに、チームメンバーの力を引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化するマネジメント能力を兼ね備えているかどうかです。専門性はあくまで補完的な要素であり、管理者としての本質的な役割を果たせる人材が求められます。
マネジメント能力を高める方法
従業員がマネジメント能力を鍛えるために持つべき視点や、企業として提供できる施策を紹介します。具体的な取り組みを検討する際の参考にしましょう。
経営視点を養う
経営視点とは、経営者の立場に立って全体を見渡し、戦略的な判断を行う能力を指します。マネジメント能力を向上させるには、経営者の視点から仕事を把握し、意思決定の背景にある要素を理解することが不可欠です。
経営の基本的なミッションは、企業の安定を維持しながら、ステークホルダーの利益を確保することです。そのためには、経営に関する幅広い知識を習得するとともに、自社のビジネスモデルや戦略について深く理解することが重要です。
これらの要素を意識することで、マネージャーとしての役割を超えて、経営に直結する価値を生み出せる人材として成長することが可能です。
部下との意思疎通を図る
マネジメント能力を向上させるためには、コミュニケーションスキルを磨くことが欠かせません。部下との円滑な意思疎通を図り、信頼関係を築くことで、チーム全体のパフォーマンスを向上させることが可能です。
効果的なコミュニケーションのポイントは「承認」と「傾聴」です。部下の話を丁寧に聞き、共感を示すことで、「自分の意見や感情が尊重されている」と部下に感じてもらえます。このような姿勢は、部下が上司を信頼し、積極的に意見を共有するきっかけとなります。
また、日頃からコミュニケーションを重ねることで、潜在的な問題を早期に発見しやすくなります。部下が気軽に相談できる環境を整えることで、問題が大きくなる前に適切な対処が可能となるでしょう。
問題解決スキルを鍛える
管理者は、組織やチームで発生するさまざまな問題に対応する責任を負っています。これに対処するためには、問題解決スキルを鍛え、迅速かつ的確に対応できる力を身につけることが重要です。
問題解決力を高めるためには、物事の本質を見抜き、論理的に考える習慣を持つことが求められます。具体的には、問題の原因を正確に分析し、それに基づいた解決策を講じる戦略的な思考が必要です。
このスキルを習得すれば、予期せぬトラブルが発生しても冷静に対応できるだけでなく、現状をより良くするための課題を発見し、改善へとつなげることができます。
コーチングを身につける
コーチングは、部下の目標達成を支援する人材育成手法の一つです。部下の自発的な行動を促し、プロセスを重視することで、主体性を引き出すことを目的としています。
マネジメントにコーチングを取り入れることで、部下が自ら考え、行動できる環境を作り出せます。これにより、モチベーションの向上や部下の能力・個性の発揮が期待できるだけでなく、チーム全体の成長にもつながります。
さらに、コーチングは双方向型のコミュニケーションを重視するため、部下との信頼関係を築きやすくなります。部下が主体的に動くようになれば、マネージャーのリソースを効率的に活用でき、チームのリソース最適化も実現できるでしょう。
マネジメント能力育成の効果を高めるコツ
従業員のマネジメント育成を企業がサポートすることで、より効果の高い取り組みを進められるでしょう。マネジメント能力育成の効果を高めるコツを紹介します。
マネジメント関連の資格を取得する
マネジメント関連の資格を取得すれば、マネジメントに必要な知識やスキルを幅広く学べます。マネジメントに関する主な資格をまとめました。
- 国家資格:社会保険労務士、中小企業診断士、税理士、公認会計士、情報処理技術者
- 公的資格:簿記検定、ビジネスマネジャー検定、メンタルヘルス・マネジメント検定試験
- 民間資格:マーケティング・ビジネス実務検定、IPO実務検定、財務報告実務検定
資格取得者に手当やインセンティブを設定すれば、勉強に対するモチベーションが上がりやすいでしょう。ただし、仮に資格を取得できなくても、取得に向けた学習内容はマネジメントに役立ちます。
フレームワークを活用する
マネジメント能力の育成には、フレームワークの活用も有効です。以下に挙げる2つのフレームワークをチェックしましょう。
カッツモデル
カッツモデルは、組織におけるマネジメントの役割を階層別に分解し、それぞれの階層で必要とされるスキルを明示した理論です。このモデルでは、以下の3つのスキルに焦点を当てています。
- テクニカルスキル: 専門知識や技術的な能力。現場レベルでの業務遂行に重要。
- ヒューマンスキル: 対人関係やコミュニケーション能力。チーム運営や調整で必要。
- コンセプチュアルスキル: 全体像を把握し、戦略を立案する能力。管理職や経営層で重要視される。
マッキンゼーの7Sモデル
マッキンゼーの7Sモデルは、企業の経営資源を「ハード」と「ソフト」に分類し、バランスを保ちながら最適な経営戦略を立案するためのフレームワークです。7つの要素は以下の通りです。
- 3つのハード要素: 戦略(Strategy)構造(Structure)、システム(Systems)
- 4つのソフト要素: 共有価値観(Shared Values)、スキル(Skills)、スタッフ(Staff)、スタイル(Style)
フレームワークをマネジメントに活用することで、組織として目標を達成するために必要なことがより明確になります。
従業員のマネジメント能力を高めよう
マネジメント能力とは、組織目標を達成するために経営資源を効率良く活用する能力です。従業員のマネジメント能力を鍛えれば、離職率の低下や生産性の向上を図れます。
マネジメント能力の育成には、企業としてのサポートが不可欠です。自社に適した具体的な取り組みを検討し、従業員のマネジメント能力を高めていきましょう。