ジェンダーハラスメントとは?具体例や企業が取るべき対策・注意点を解説
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、職場や社会で性別・性差を理由とする、嫌がらせや不当な扱いを指します。被害者だけでなく組織全体にも悪影響を及ぼすので、ジェンダーハラスメントの具体例や、企業が取るべき対策をきちんと押さえておきましょう。
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)とは?
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)は、性別や性差に基づく固定観念や偏見を背景とした、さまざまな嫌がらせを指します。被害者の精神的健康やキャリアに深刻な影響を与える問題なので、企業としてきちんと対策しなければいけません。まずは言葉の定義や、他のハラスメントとの違いを理解しておきましょう。
性別や性差から派生した嫌がらせを指す
ジェンダーハラスメントとは、性別や性差に基づく偏見や固定観念を背景に、特定の性に対して不利益や不快感を与える行為です。例えば、「女性だから家事を優先すべき」「男性は感情を表に出すべきではない」といった考えに基づく発言や、態度が該当します。
こうした行為は、職場や社会における公平性を損なう可能性があり、被害者の心理的な負担を増大させるケースも少なくありません。さらに被害者個人のみならず、職場全体の信頼関係や協力体制を損なう要因にもなり得るため、組織として対策を考えておく必要があります。
他のハラスメントとの違い
ジェンダーハラスメントは、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントと混同されがちですが、明確な違いがあります。
セクシュアルハラスメントは性的な言動や行動が中心であるのに対し、ジェンダーハラスメントは性別に対する固定観念や偏見が主な要因のハラスメントです。また、パワーハラスメントのように職位や権力の差を利用するものではなく、同僚間や上下関係に関係なく発生する可能性があります。
ジェンダーハラスメントは、性別や性差に関連する問題に焦点を当てており、その範囲は広範です。職場の文化や無意識の偏見が原因である場合も多く、その意味で他のハラスメントとは一線を画しているといえるでしょう。
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ジェンダーハラスメントの具体例
ジェンダーハラスメントには以下のように、性別による役割の強制や「男らしさ」「女らしさ」の押し付けなど、さまざまな形があります。それぞれの具体例を通じて、問題の本質を理解しましょう。
性別による役割の強制
「男性社員は力仕事を優先してほしい」「女性社員にはお茶汲みをお願いしたい」といったように、性別を理由に特定の役割を強制する行為は、ジェンダーハラスメントとみなされる可能性があります。性別に基づく固定観念を助長し、被害者に不公平感を抱かせる原因となりかねないためです。
性差に基づいて役割を変えるのは、業務上必要な場面もありますが、それが固定観念に基づく一方的な期待や強制となると問題となるケースも多くあります。
「男らしさ」「女らしさ」の強調
「男なら泣くな」「女は控えめにするべきだ」といった、性別に基づくステレオタイプを押し付ける言動も、ジェンダーハラスメントの一例です。これらの発言は、個人の自由やアイデンティティを否定する可能性があり、対象者に心理的なダメージを与える場合があります。
このようなステレオタイプは、個々の能力や性格を無視して、一律の行動を強制するものであるため、職場全体の多様性を阻害する要因にもなるでしょう。結果として、自由な意見交換やクリエイティブな発想が失われるケースもあり、職場の雰囲気を悪化させかねません。
昇進やキャリア制度における性差
「女性は家庭が優先だから管理職には不向き」「男性は長時間労働ができるから昇進に適している」といった考えが、人事評価やキャリア制度に影響を与えるケースがあります。その結果、性別を理由とした不平等な待遇が生まれてしまい、被害者の意欲やモチベーションが低下する可能性もあります。
近年は、女性の管理職を増やしている企業も多くあり、性差による昇進・キャリアアップに不平等が生まれないように配慮している企業は、決して珍しくありません。
しかし、現状の仕事に満足している女性を無理に昇進させたり、逆に男性の昇進条件を厳しくしてしまったりなど、新たな弊害が生まれているケースもあるので注意が必要です。
ジェンダーハラスメントを放置するリスク
ジェンダーハラスメントを放置すると、企業に悪影響を及ぼします。未然に防げるよう、ジェンダーハラスメントを放置するリスクを把握しておきましょう。
心理的安全性が下がり業務の生産性が悪くなる
ジェンダーハラスメントの被害は、従業員のモチベーションに大きな影響を与えます。被害者は「また性別に関する嫌がらせを受けるのではないか…」と不安を抱え、仕事に集中できなくなることで、生産性が低下するリスクが高まります。
ハラスメントにより心理的安全性が確保できない職場環境では、従業員のモチベーションが低下し、結果として業務の生産性も損なわれてしまいます。
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離職率が高まる
ジェンダーハラスメントを放置し続けると、被害者にとって会社で過ごすこと自体が大きな苦痛となり、休職や退職といった結果を招く可能性があります。
ハラスメントが起因の離職は、被害者だけではなく周囲の従業員にも悪影響を及ぼすことがあります。職場全体に不信感や緊張感が広がり、チームの士気や協力体制が低下することも懸念されます。
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企業イメージが下がる
企業の評判が損なわれ、法的なトラブルに発展する恐れもあります。特に、近年ではSNSが情報収集の手段として広く利用されているため、社員や元社員の書き込みをきっかけに、自社のハラスメント問題が社会的に注目されるリスクが高まっています。
このような情報が拡散されると、企業への信頼が大きく揺らぎ、採用活動や顧客からの評価にも悪影響を及ぼす可能性があります。
さらに、一度問題が表面化すると、対策が不十分であった過去の経緯が掘り起こされ、追加的な批判や調査が行われることも考えられます。そのため、企業はハラスメント防止策を早急かつ徹底的に講じるとともに、日頃から従業員とのコミュニケーションを密にし、健全な職場環境を維持する努力が求められます。
ジェンダーハラスメントが起こる原因
職場でジェンダーハラスメントは他のハラスメントに比べて、以下のように無自覚に引き起こされる場合も少なくありません。また、ハラスメントが起こりやすい職場もあるので、どのような原因で発生する可能性が高いのか確認しておきましょう。
ハラスメントに無自覚なケースが多い
ジェンダーハラスメントは、意図的に引き起こされる以上に、加害者による無自覚な発言により被害が発生する場合が多くあります。例えば「冗談のつもりだった」「昔から普通のことだと思っていた」といった理由で、悪意なくハラスメントをしてしまうケースは決して珍しくありません。
加害者は自らの行為が、ジェンダーハラスメントに該当することを認識していない場合が多く、被害者に与える心理的な影響やストレスに対しても、無関心な場合が多くあります。男女問わず、職場での信頼関係やコミュニケーションを損なう原因となり得るので、注意しなければいけません。
ハラスメントが起こりやすい職場もある
職場の文化や風土がジェンダーハラスメントを助長する場合もあります。例えば、性別による役割分担が暗黙の了解としてある職場や、社員間のコミュニケーションが不十分な職場などでは、問題が見過ごされやすくなるので注意が必要です。
また、性差の固定観念が根強く残る職場環境の場合も、被害者が声を上げにくい状況が生まれやすく、ハラスメントの解決が難しい場合もあります。経営者や管理者は、ハラスメントをしてはならない趣旨の方針を明らかにするとともに、社員一人一人にきちんと啓発することが大切です。
職場でのジェンダーハラスメントを防ぐには?
職場でのジェンダーハラスメントを防ぐには、以下のポイントを意識することが大事です。ハラスメント防止のためのガイドラインを設定するのに加えて、定期的にハラスメントに関する研修も実施しましょう。専用の相談窓口の設置も効果的です。
防止のためのガイドラインを設ける
まずはジェンダーハラスメントを防止するため、企業として明確なガイドラインを策定する必要があります。具体的な禁止行為や対応策を盛り込み、社員に徹底周知しましょう。ガイドラインには、ハラスメントの定義や事例を具体的に示し、どのような行為が不適切かを明確にすることが大切です。
また、問題が発生した場合の対応プロセスや、調査方法も含めて情報を発信し、社員が安心して報告できる体制を確立する必要があります。
ハラスメントに関する研修を実施する
定期的に社員がジェンダーハラスメントについて、正しく理解するための研修を実施することも重要です。ハラスメントに対する認識を深め、問題行動の抑制につなげられます。
研修ではジェンダーハラスメントの事例や、その影響について具体的に説明し、社員一人一人が問題を自分ごととして捉えられるようにしましょう。さらに、加害者とされる側の立場も理解できるようにして、予防策や適切な対応方法を学ぶことが効果的です。
社内で研修を開くリソースがない場合は、外部の研修サービスも積極的に利用しましょう。
専用の相談窓口を設ける
被害者が安心して相談できる専用窓口を設けることも重要です。匿名での相談を受けられる体制を整えることで、被害者の心理的負担を軽減する必要があります。
窓口の担当者は専門の教育を受けた人材を配置し、適切な対応ができるようにしましょう。相談内容が外部に漏れないように、守秘義務を徹底することも大事なポイントです。社員が安心して利用できる体制を整えましょう。
ジェンダーハラスメントに関する注意点
ジェンダーハラスメントの対応においては、どちらかの性別を優遇するような施策にならないように、注意しましょう。一方の性別に配慮しても、もう片方の性別への配慮が足りない施策を打ち出してしまうケースは、決して珍しくありません。
また、近年は行き過ぎた対策による逆効果も懸念されるため、バランスを欠いた施策を打ち出そうとしていないか、慎重に判断する姿勢も求められます。社員一人一人を平等に尊重し、過剰な配慮が逆に新たな不公平を生まないように配慮が必要です。
ジェンダーハラスメント対策を徹底する
ジェンダーハラスメントを防止するには、企業全体での取り組みが欠かせません。ガイドラインの策定や研修の実施・相談窓口の設置などを通じて、社員一人一人が安全で働きやすい職場環境を目指すことが大事です。
また、問題の発生を未然に防ぐには、ジェンダーに対する理解を深める必要もあります。全ての社員が共通の認識を持ち、積極的に平等な職場づくりに協力することで、組織全体のパフォーマンスが向上し、社会的イメージの向上にもつながります。