組織エンゲージメントとは?測定方法と向上施策を解説
「従業員満足度は高いはずなのに、なぜか社員の主体性が感じられない」「離職率が改善せず、採用コストが増え続けている」このような悩みの原因は、従業員満足度と組織エンゲージメントの違いを理解していないことにあるかもしれません。本記事では、組織エンゲージメントの定義から測定方法、具体的な向上施策まで、実務に活かせる情報を解説します。
組織エンゲージメントとは何か
組織エンゲージメントは、企業の持続的な成長に欠かせない重要な概念です。ここでは、その定義と混同されやすい他の概念との違いを明確にしていきましょう。
組織エンゲージメントの定義と従業員満足度との違い
組織エンゲージメントとは、従業員が組織の目標や価値観に共感し、自発的に組織の成功に貢献しようとする心理的な結びつきのことです。単なる職場への満足感を超えた、組織への愛着や献身的な態度を含む概念といえます。
組織エンゲージメントが高い従業員は、自ら課題を見つけ、解決策を提案します。組織の成功を自分ごととして捉え、主体的に行動するのが特徴です。
一方、従業員満足度は職場環境や待遇、人間関係などに対する満足の度合いを示します。満足度が高くても、必ずしも組織への貢献意欲が高いとは限りません。例えば、給与や福利厚生に満足していても、言われたことしかやらない従業員もいるでしょう。
この違いを理解することが、効果的な人事施策の第一歩となります。
ワーク・エンゲージメントと組織エンゲージメントの違い
ワーク・エンゲージメントと組織エンゲージメントは、似ているようで異なる概念です。
ワーク・エンゲージメントは、仕事そのものに対する熱意や没頭の状態を指します。仕事内容への興味や達成感が中心となる概念です。
対して組織エンゲージメントは、組織全体への帰属意識や貢献意欲を表します。会社のビジョンへの共感や、組織の一員としての誇りが重要な要素です。
どちらか一方だけを重視するのではなく、バランスよく施策を展開することが大切です。
日本企業のエンゲージメントが低い理由
日本企業のエンゲージメントは、国際的に見ても極めて低い水準にあります。米国の調査会社ギャラップ社が発表した「グローバルワークプレイスの現状2023年版」によると、熱意あふれる従業員の割合は日本でわずか5%でした。これは調査対象125カ国中124位という結果です。
世界平均が23%であることを考えると、日本の低さは際立っています。主要国と比較しても、米国34%、インド33%、中国18%、韓国12%と大きな差があります。同じ先進国のドイツ16%やフランス7%と比べても、日本の5%は最低レベルといえるでしょう。
この背景には、いくつかの構造的な要因があります。年功序列や終身雇用といった従来の雇用慣行では、貢献度と評価が結びつきにくい傾向があります。また、経営層と現場の距離が遠く、会社のビジョンが浸透しにくい組織構造も一因です。
ただし、これらの課題は認識し、適切な施策を講じることで改善可能です。次の章では、エンゲージメント向上がもたらす具体的なメリットを見ていきましょう。
参考:日本の従業員エンゲージメントは「世界最低」、米社調べ - オルタナ
組織エンゲージメントが企業にもたらす効果とメリット
組織エンゲージメントの向上は、企業経営に具体的な成果をもたらします。ここでは、データに基づいた効果とメリットを解説します。
離職率低下と人材定着
エンゲージメントが高い組織では、離職率が大幅に低下します。従業員が組織への愛着を持ち、長期的なキャリアを描けるためです。
離職率の低下は、採用コストや育成コストの削減に直結します。中途採用の場合、1人あたりの採用コストは100万円を超えることも珍しくありません。また、新入社員が戦力化するまでには半年から1年程度かかります。
エンゲージメントの高い従業員は、自ら率先して後輩の育成に取り組んだり、部門横断のプロジェクトで積極的に協力関係を築いたりします。こうした行動が周囲に伝播し、チーム全体の業務改善提案数が増加するなど、組織の活性化につながります。
その結果、優秀な人材の定着率が上がることで、組織の知識やノウハウが蓄積されます。これは競争優位性の源泉となり、長期的な企業価値の向上に寄与します。
生産性向上
エンゲージメントと生産性には明確な相関関係があります。組織に貢献したいという意欲が、業務効率や品質の向上につながるためです。
エンゲージメントの高い従業員は、マニュアル通りの作業にとどまらず、自ら工夫して業務プロセスを改善します。例えば、データ入力作業の自動化ツールを提案したり、顧客対応の効率化フローを考案したりします。
この積極的な姿勢が、組織全体の生産性を押し上げるのです。
顧客対応においても違いが表れます。エンゲージメントの高い従業員は、顧客満足度の向上に主体的に取り組みます。その結果、リピート率や推奨率の向上が期待できるでしょう。
組織の活性化と従業員の自主性・主体性の向上
エンゲージメントの高い組織では、従業員の自主性や主体性が育まれます。指示待ちではなく、自ら考えて行動する文化が生まれるのです。
また、組織全体の目標達成を意識するため、部門を超えた自発的な協力体制が生まれます。例えば、営業部門が製造部門に顧客フィードバックを積極的に共有し、製品改善に協力するといった動きが見られます。
情報共有がスムーズになり、組織の一体感が高まるでしょう。
それに加えて、プロジェクトの遅延や予算削減といった困難な状況でも、代替案を提案しながら粘り強く取り組む姿勢が見られます。組織への信頼があるため、一時的な挫折を成長の機会と捉え、最後まで目標達成に向けて努力します。
自社の「エンゲージメント」を可視化・測定する手法
エンゲージメントを向上させるには、まず現状を正確に把握する必要があります。ここでは、代表的な測定手法を紹介します。
eNPS(従業員推奨度)
eNPSは、Employee Net Promoter Score(従業員推奨度)の略で、職場を他者に勧めたい度合いを測る指標です。「あなたの職場を友人や知人にどの程度勧めたいですか」という質問に、0から10の11段階で回答してもらいます。
この指標のメリットは、質問が1つだけというシンプルさにあります。従業員の回答時間は30秒程度で済むため、月次での測定も負担なく実施でき、エンゲージメントの変化をタイムリーに追跡できます。
ただし、eNPSだけでは「なぜその評価なのか」という理由が分かりません。例えば、スコアが低い場合に、給与面の不満なのか、人間関係の問題なのかを特定できないため、詳細なエンゲージメントサーベイとの組み合わせが必要です。
エンゲージメントサーベイの実施なら「TERAS」
エンゲージメントを多角的に測定するには、専門的なサーベイツールの活用が有効です。TERASは、組織のエンゲージメント状態を可視化し、改善につなげる組織診断サービスです。
東証上場企業の株式会社スタメンが運営し、これまで1200社以上の組織改善を支援してきた実績があります。
TERASでは、エンゲージメントに大きく影響を与える8つのカテゴリーから診断を行います。理念への共感、成長実感、職場環境、人間関係など、多角的な視点で組織の状態を測定できます。半年に1回の実施で、回答時間は5分程度と従業員の負担を最小限に抑えられるのが特徴です。
測定結果は部署別や属性別に分析可能です。組織全体の傾向だけでなく、特定の部署や層における課題を特定できます。完全匿名性を確保しているため、従業員の忖度のない本音を引き出せるでしょう。
パルスサーベイ
パルスサーベイは、短い質問を高頻度で実施する調査手法です。週次や月次で簡単な質問に答えてもらい、組織の状態をリアルタイムに把握します。
従来の年次サーベイと比べ、変化を素早く捉えられるのが特徴です。問題の兆候を早期に発見し、迅速な対応が可能になります。
質問数は5〜10問程度で、回答時間は3〜5分で済みます。この手軽さにより、通常のサーベイが60〜70%の回答率にとどまるのに対し、パルスサーベイでは85〜90%の高い回答率を維持できます。
ただし、パルスサーベイだけでは深い分析は困難です。年次の詳細なサーベイと組み合わせることで、より効果的な測定が実現します。
組織エンゲージメントを高める5つの具体的施策
エンゲージメントを測定したら、次は具体的な向上施策に取り組みましょう。ここでは、実践的な5つのアプローチを紹介します。
ビジョン・パーパスの「共感」を生む浸透施策
経営理念やビジョンへの共感は、エンゲージメントの土台となります。しかし、多くの企業で理念が形骸化し、従業員に浸透していないのが現状です。
効果的な浸透には、経営層が四半期ごとのタウンホールミーティングで、ビジョン策定の背景や現在の事業方針との関連性を具体例とともに説明することが重要です。例えば、新規事業の立ち上げがどのようにビジョン実現につながるのかを、数値目標とともに示します。
さらに、月1回の部署ミーティングで「今月の業務が企業理念のどの部分に貢献したか」を各メンバーが発表する時間を設けることも効果的です。営業部門なら「顧客第一の理念のもと、納期を3日前倒しして顧客満足度を高めた」といった具体例を共有することで、理念と日常業務のつながりが実感できます。
挑戦を促す「心理的安全性」と「称賛文化」の醸成
従業員の主体性を引き出すには、失敗を恐れずに挑戦できる環境が必要です。心理的安全性の確保が、エンゲージメント向上の鍵となります。
この環境を作るには、まず管理職が失敗報告に対して「なぜ失敗したのか」ではなく「そこから何を学んだか」「次にどう活かすか」を聞く質問スタイルに変えることが重要です。例えば、プロジェクトが遅延した際も、責任追及ではなく改善策の立案に焦点を当てます。
称賛文化の醸成には、週次の朝礼で「今週の挑戦賞」を設け、結果の成否にかかわらず新しいことに挑戦したメンバーを表彰する仕組みが効果的です。資料作成の効率化に取り組んだ、顧客への新提案を試みたなど、小さな挑戦も対象とします。
組織風土改革とエンゲージメントを高める仕組みづくり
エンゲージメント向上には、組織風土そのものの変革が必要です。一時的な施策ではなく、継続的な取り組みができる仕組みを整備しましょう。
まず、定期的な1on1ミーティングの実施が効果的です。上司と部下が定期的に対話することで、信頼関係が構築されます。キャリアの悩みや仕事の課題を共有する場として機能させることが大切です。
さらに、従業員の声を経営に反映する仕組みも必要でしょう。サーベイ結果を分析し、具体的なアクションにつなげる体制を整えます。従業員が「自分の意見が組織を変えられる」と実感できれば、エンゲージメントは高まります。
エンゲージメントは持続的成長への投資
組織エンゲージメントの向上は、短期的なコストではなく、持続的成長への投資です。エンゲージメントの高い組織は、変化の激しい時代においても競争力を維持できます。
測定と施策の実行を継続的に行うことで、確実な改善が可能です。まずは現状を可視化し、自社の課題を明確にすることから始めましょう。そして、経営層と人事が連携し、全社的な取り組みとして推進することが成功の鍵となります。
組織エンゲージメントの向上に、今日から取り組んでみてはいかがでしょうか。













