多くの企業が抱える人材育成の課題とは?必要な対策や有効な事例などを解説

企業の成長において人材は最大の資産ですが、多くが人材の育成に関して、さまざまな課題を抱えているのが実態です。企業が直面している人材育成に関する課題と有効な対策を解説します。他社の事例も踏まえつつ、育成のポイントを押さえておきましょう。

人材育成の重要性

企業が持続的に成長し、変化の激しいビジネス環境で競争力を維持するには、社員一人一人の能力を最大限に引き出す人材育成が必要です。

単なるスキルの習得にとどまらず、企業のビジョンや戦略実現に向けて主体的に行動できる人材を育てることが、組織全体の成長を支える基盤になります。まずは、人材育成の目的や必要性について、基本的なところを押さえておきましょう。

人材育成の主な目的

人材育成の最も重要な目的は、企業活動に必要な知識・スキルを従業員に習得させることです。しかし現代の人材育成は、単なる技術伝達を超えた広範囲な組織課題の解決を担っています。将来の経営層候補の育成、企業理念や価値観の浸透、現場における問題解決力の強化など、組織全体の競争力向上が求められているのです。

効果的な人材育成により生産性向上や離職率低下といった具体的成果が期待できるため、人事部門だけでなく経営陣も積極的に関与し、経営戦略の中核として継続的な投資を行う企業が増えています。

人材育成が必要とされる理由

人材育成の必要性が高まっている最大の理由は、企業を取り巻く環境変化の加速化です。デジタル技術の急速な進歩、働き方の多様化、グローバル化の進展により、従来の知識やスキルだけでは対応困難な課題が日常的に発生しています。

このような状況下では、従業員の能力を継続的にアップデートすることが事業継続の前提条件となります。また、若手社員の早期戦力化や、ベテラン社員が持つ暗黙知の組織的継承など、世代を超えた知識・技術の伝承も重要な経営課題です。人材育成への体系的な取り組みが、組織の持続的成長を支える基盤となっているのです。

よくある人材育成における課題

人材育成の必要性が広く認識されていても、実際の現場では多くの課題を抱える企業が少なくありません。以下のように、時間やリソースの不足をはじめ、複数の要因が障壁になっているため、ここで確認しておきましょう。これらの課題を正確に把握し、適切な対策を講じる必要があります。

時間・リソースの不足

多くの企業にとって、人材育成における最も大きな課題は、十分な時間とリソースを確保できないことです。日常業務に追われる中で、育成のための時間を確保することが難しく、現場任せになってしまう企業は珍しくありません。

また、教育担当者の負担が大きくなり、質の高い育成プログラムを継続する余裕が持てない場合もあります。人材育成を単なる「余力で対応する業務」と捉える風潮が残っている企業では、こうした状況が固定化しやすく、優先順位が後回しになる傾向があります。

目標・計画の不明瞭さ

育成の取り組みが形骸化してしまう要因として、目標や計画の不明瞭さが挙げられます。「とりあえず研修を実施する」といった場当たり的な対応では、育成の方向性が見えにくく、受講する社員も目的意識を持ちにくいでしょう。

その結果、学んだ内容が業務に生かされず、育成の効果を実感できません。また、組織全体で共有すべき人材育成のゴールが曖昧だと、部門や担当者ごとの判断に依存してしまい、育成の一貫性が失われることもあります。

育成者の意識・スキル不足

人材育成の質は育成を担う側の力量に大きく依存しますが、現場の上司や育成担当の社員が、必ずしも指導や教育に長けているとは限りません。育成経験を十分に持たないまま指導を任されることで、教え方にバラつきが生じたり、対象者への関わり方に差が出ることがあります。

また、人材育成を単なる「追加業務」と捉えてしまい、積極的に関わろうとしない風土が根付いている企業も決して少なくありません。育成に対するマインドセットの醸成と、効果的な指導スキルの両面から、積極的に育成育成者を支援する取り組みが求められます。

育成対象者の意識・意欲の低さ

いかに優れた育成プログラムが整っていても、対象となる社員の意識や姿勢に問題があれば、効果は限定的になります。特に若年層は「育成される側」として、受け身に構えてしまう傾向もあり、指導を一方的に受け流すケースも少なくありません。

また、研修やOJTが現場の業務と結び付いていなければ、社員は学ぶ意義を実感できず、モチベーションの低下につながる場合もあります。育成対象の社員に対しては、期待する役割や成長の方向性を丁寧に示し、自分のキャリアに結び付けて捉えられるように、積極的に働きかけることが必要です。

成果測定・評価の難しさ

人材育成は中長期的な視点での取り組みとなるため、成果が見えにくく、効果を正確に測定するのが難しいという課題もあります。研修の受講後、すぐに目に見える成果が出るとは限らず、社員の行動の変容や、業績との関連を評価するには相応の時間がかかるものです。

そのため育成の効果を実感できず、人材にかかる投資に対して、経営層の理解が得られにくいケースもあります。また、評価の指標が曖昧な場合、育成の質や継続の必要性を議論するのが難しくなり、育成そのものが形骸化してしまう恐れもあります。

組織風土・協力体制の未整備

人材育成の施策やプロセスを根付かせるには、個人の努力だけではなく、組織の文化や支援体制が大きく影響します。育成に積極的な姿勢が評価されにくい職場や、学ぶ時間を取ることが「業務に支障を来す」と見なされるような環境では、育成の取り組みは長続きしないでしょう。

また、部門ごとの分断が強く、知見やスキルの共有が活発に行われない場合も、育成が局所的になりがちです。人材育成を組織全体の責任と位置付け、部門や立場を超えて支え合う意識が求められます。

効果的な人材育成のポイント

上記のような課題を解消しつつ、人材育成の施策を確実に成果につなげるには、戦略的かつ計画的な取り組みが必要です。効果的な人材育成に求められるポイントについて、詳しく確認していきましょう。

現状の把握と目的・優先順位の明確化

まずは、現状の課題や社員のスキルレベルを正確に把握し、企業のビジョンや戦略に基づいて、育成の目的や優先順位を明確にすることが重要です。人材の強み・弱みや、育成の対象・内容・成果などに関する課題を整理しなければ、目的に合った育成は行えません。

その上で、どの分野を優先して育てるべきか明確にして、限られたリソースのなかで最も効果が期待できる領域に注力することが大切です。何を目的に、どのような人材を育成するのか組織全体で共有できれば、育成の方向性がぶれにくくなり、対象者の納得感やモチベーション向上にもつながります。

組織全体での育成の推進

効果的な人材育成のためには、人事部門だけで育成を完結させず、部門横断的に全社で取り組む姿勢が不可欠です。育成を担う人事部門と現場との連携が不十分なままだと、机上の計画に終始してしまい、施策の実行が頓挫してしまう可能性があります。

現場マネージャーや上司が育成の重要性を理解し、自らも主体的に関わることが、育成の効果を高めるポイントです。

また、経営層のコミットメントも重要であり、人材育成を「経営戦略の一部」として位置付け、具体的なメッセージを発信することで、組織全体に浸透しやすくなります。部門・部署の垣根を越えた情報・成功事例の共有なども有効です。

育成者・対象者の意識改革

人材育成の制度や計画が整っていても、育成者と対象者の意識にずれがあると、効果は限定的になります。育成者は指導者としての責任と役割を再認識し、指導に関するスキルを磨かなければいけません。一方で、育成対象の社員も受け身の姿勢ではなく、主体的に学ぶ態度が求められます。

こうした意識の醸成には、社内でのロールモデルの提示や、フィードバック文化の強化が効果的です。さらに、一人一人の努力や成長が正当に評価される環境の構築と、双方の意欲を高める仕組みが必要になります。

戦略的・計画的な育成方法の選択

単発的な研修やOJTだけでは、継続的な人材育成にはつながりにくいのが実情です。現場のニーズや組織全体の戦略に応じて、体系的な育成カリキュラムや、職種別・階層別プログラムを整備しましょう。

例えば、若手にはビジネスマナーや論理的思考、中堅層にはマネジメント能力・管理職には経営視点の醸成といったように、スキルや経験別に設計するのがおすすめです。またeラーニングや社内勉強会、社外セミナーの組み合わせなど、多様な学びの機会を確保することも大切です。

成果測定・評価の仕組みの構築

人材育成の効果を高めるには、施策の効果を可視化し、定期的に育成プロセスを振り返る仕組みも必要です。受講前後の社員の自己評価や管理者のフィードバック、業務パフォーマンスの変化など、複数の観点から成果を評価しましょう。

また、短期的な成績だけでなく、長期的なキャリア形成や組織貢献の度合いを含め、適正に評価する視点も必要です。評価は一方的な通知にとどめず、本人との対話を通じて今後の育成方針や、目標設定の見直しにつなげることで、学びを持続的な成長に転換するのも大切なポイントになります。

他社の人材育成の事例も参考にしよう

他社の人材育成の事例も確認すれば、育成施策のヒントを得られます。業界をリードする企業の育成手法や、類似の課題を解決した企業の事例などを参考にしてみましょう。

例えば、あるIT企業では、若手社員の主体性を高めるため「ピアラーニング(同僚同士の学び合い)」を制度化し、社員同士で知識や経験を共有する文化を築いています。これにより、育成が一部の担当者に偏ることなく、組織全体で支える体制を実現しているようです。

また、ある製造業の企業では、年齢層の異なる社員間でのメンター制度を導入し、熟練者のノウハウと価値観を継承する仕組みを確立しています。

このように、多くの企業が自社の業種や事業規模に応じて、さまざまな人材育成の工夫を重ねています。他社の事例を柔軟に取り入れ、自社に合ったかたちでカスタマイズすれば、有効な施策をスムーズに実行できるようになるでしょう。

まずは人材育成における課題を洗い出す

人材育成は長期的な視点と、現場での実行力の両立が求められる取り組みです。しかし、多くの企業では、時間・リソースの不足や意識のギャップ、評価の難しさなど、複数の課題が育成の障壁になっているのが実態です。

こうした課題を放置すると、制度があってもまともに機能せず、成果に結び付かないまま形骸化する可能性があります。

まずは自社の育成活動を丁寧に振り返り、どこに課題があるのか明確にしましょう。その上で、目的や優先順位を再設定し、育成者と育成対象者の社員の関与を促進することで、着実な改善を重ねることが大切です。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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