2025年問題に企業はどう立ち向かう?影響と対策のヒント
2025年問題は、超高齢化社会によって表面化する諸問題の総称です。団塊世代が後期高齢者になると、社会全体に変化が生じるだけでなく、企業にもさまざまな影響が及びます。2025年が問題視される理由や企業が取るべき対策を分かりやすく解説します。
2025年問題とは何か
2025年問題は、日本の人口構造の変化によって引き起こされる問題です。超高齢化時代に突入した日本は、これまでにも多くの課題に直面してきましたが、2025年は社会全体が大きな分岐点を迎えるといわれています。2025年問題で起こることや2040年問題との違いを解説します。
超高齢化社会が生み出す諸問題
2025年問題とは、超高齢化社会の進展によって生じる諸問題のことです。2025年には、団塊の世代の全てが後期高齢者(75歳以上)となり、超高齢化社会の進行に拍車がかかります。
団塊の世代とは、1947〜1949年にかけて生まれた人々です。戦後の経済成長の中で出生率が急増し、人口ピラミッドでは一つの大きな集団を形成しています。総人口の約5.3%に当たる世代が後期高齢者となれば、雇用・医療・介護の需給バランスが崩れる事態が発生すると予測されています。
少子化の影響で、生産年齢人口の減少が加速していることもあり、社会構造に大きな変化や困難が生じるのは明らかです。
2040年問題との違い
日本が直面する諸問題は、「20××年問題」と呼称されます。2025年問題と2040年問題は、どちらも超高齢化社会の進展で生じる問題を指しますが、社会に及ぼす影響の大きさが異なります。
2025年は高齢者人口増加の過渡期であり、「高齢者の増加」と「生産年齢人口の減少」に伴う多くの社会問題が表面化します。
2040年は、1970年前半に生まれた団塊ジュニア世代が高齢者になり、全体の高齢者総数がピークを迎える年です。社会保障費の増大や労働力不足などに拍車がかかり、社会を維持していくのが困難になるかもしれません。
2025年以降の社会で起こること
団塊の世代が後期高齢者になると、社会では以下のような問題が表面化します。
- 社会保障費の増大
- 医療・介護体制の維持の困難化
- 相次ぐ廃業による国内市場の縮小
高齢者の医療・介護費のほとんどは、国の税金によって賄われています。高齢者が増えれば、社会保障費が増大し、現役世代の負担がさらに重くなるでしょう。医療・介護サービスの担い手不足も深刻化の一途をたどっており、医療・介護体制の維持が困難になる可能性もあります。
中小企業では、後継者不足が深刻化します。後継者不在のまま代表者が引退年齢を迎えれば、廃業を余儀なくされるでしょう。日本経済は中小企業によって支えられているといっても過言ではなく、後継者不足がもたらす経済への影響は計り知れません。
2025年問題で企業はどうなる?
2025年問題は、企業にも大きなダメージを与えます。早めに対策を講じなければ、企業の持続的な成長が妨げられるだけでなく、事業の存続自体が危ぶまれる恐れがあります。具体的にどのような問題が生じるのかを見ていきましょう。
労働力の確保が困難になる
企業では2025年以降、労働力の確保が困難を極めます。労働生産人口の減少と団塊の世代の大量離職により、あらゆる業界で人材不足・人手不足が深刻化するのです。採用市場では企業間の人材獲得競争が激化するため、「求職者に選ばれる企業」になる努力が求められるでしょう。
また、団塊の世代の高齢化が進むと、介護離職をする従業員が増えると予想されます。優秀な人材が次々と離職すれば、業績の低迷や事業の存続の危機につながりかねません。企業にとって、労働力の確保は喫緊の課題といえます。
労働生産性が低下する
仕事をしながら介護をする人は「ビジネスケアラー」と呼ばれます。ケアの担い手は女性が多く、介護と育児を同時に担う「ダブルケアラー」も少なくありません。
団塊の世代の親を持つ従業員は、仕事と介護の両立に悩み、中には離職せざるを得ない人も出てくるでしょう。会社に留まるとしても、多くの時間を親の介護に割かれるため、仕事のパフォーマンスが下がる可能性があります。
企業が対策を講じなければ、組織全体の労働生産性が低下し、業績に悪影響が及びます。仕事と介護の両立支援に向けて、まずはマネジメント層の意識改革から始めなければなりません。
「2025年の崖」にも直面する
2025年問題と時期を同じくして、企業は「2025年の崖」にも直面します。経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」の中で使われた言葉で、企業のDXが進まないことで生じる諸問題を指します。
DX(Digital Transformation)とは、デジタル技術の活用によって、ビジネスモデルや企業文化、業務プロセスなどを大胆に変革し、企業価値を高める取り組みのことです。
国内企業の多くは、老朽化したシステム(レガシーシステム)を抱えており、長期間の運用でシステムが複雑化・肥大化しています。DXが進まなければ、2025年以降には多くの経済的損失が生じるでしょう。
2025年問題の影響を受けやすい業界
2025年問題の影響はあらゆる業界に及びますが、特に課題が生じやすいのが「医療・介護業界」「保険業界」「建設業界」です。需要と供給のバランスを保ちながら、いかに変化に対応できるかが鍵となるでしょう。
医療・介護業界
医療の進歩や食生活の向上で日本の平均寿命は延びていますが、それに比例して認知症患者も増えているのが現実です。寿命は延びても、必ずしも健康であるとは限らず、医療機関や介護施設で過ごす高齢者も少なくありません。
後期高齢者が増える2025年以降は、医療・介護の需要がさらに増し、人材不足や設備不足に見舞われる事業者が多くなると予想されます。また60〜70代の高齢者が親世代の介護を強いられる老老介護も社会問題として取りあげられています。
事業者は、医師・看護師・介護職員の確保に力を入れるとともに、限られた人数で質の良いサービスを提供する仕組みを考える必要があります。今後は、在宅医療・在宅介護が普及する可能性が高く、今のうちから提供体制を整えておくことが重要です。
保険業界
保険業界が直面する課題は、「保険加入者の減少」と「保険金の支払い額の増加」です。売上が大幅に下がる事業者が増え、業界全体が大きなダメージを受ける可能性があります。
人口のボリュームゾーンである団塊の世代は、保険会社にとっての主要顧客です。主要顧客が後期高齢者となる2025年以降は、保険会社から顧客に保険金を支払う場面が多くなるでしょう。その後は、団塊ジュニアが高齢者になるため、保険金の支払いは増加し続けます。
「若年層の保険離れ」も大きな課題です。かつては社会人になると、生命保険に加入する人が多く見受けられましたが、ここ数年は投資や積立型の金融商品に切り替える人が増えているようです。収益悪化を防ぐ対策や新たなサービスの開発が求められるでしょう。
建設業界
2025年以降は高度経済成長期に建てられた建築物が老朽化し、補修や立て直しの必要性が生じます。建設需要が大きく高まる一方で、ベテラン層の大量離職と若手層の減少により、業界全体は深刻な担い手不足に直面すると予想されています。
2023年度の労働力調査によると、建設業で働く男女計483万人のうち、65歳以上の労働者は約81万人(平均)です。建設業は「労働時間が長い」「給与水準が低い」「危険を伴う」などの理由から、若者離れが進んでおり、業界全体が高齢化しています。
若手への技術継承が完了する前にベテラン層が離職すれば、大切な技術やノウハウが失われてしまいます。結果として、国・地域のインフラ整備に支障が生じる可能性があるでしょう。
出典:労働力調査 基本集計 全都道府県 結果原表 全国 就業者 II-2-1 年齢階級,産業別就業者数 年次 2023年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
2025年問題に向けて企業がすべきこと
2025年問題は、一部の業界に限ったものではありません。特に中小企業においては、労働力不足や生産性の低下が大きな課題となるでしょう。2025年問題を乗り越えるために企業がすべきことを解説します。
ダイバーシティ経営の実施
2025年問題の影響により、企業は労働力の確保が困難になります。成長を鈍化させないためにも、ダイバーシティ経営を推進し、イノベーションによって新たな価値創造を生み出していくことが重要です。
ダイバーシティ(diversity)とは、日本語で「多様性」を意味する言葉です。ビジネスでは、性別・人種・学歴・キャリア・価値観などが異なる人々が組織に属している状態を指します。
外国人・障害者・シルバー人材などを積極的に受け入れ、一人一人が能力を発揮できる職場環境を整備すれば、人材不足が解消されるだけでなく、急速に変化する市場のニーズやリスクにも柔軟に対応できるでしょう。
ビジネスケアラーの支援
2025年以降は、仕事と介護を同時に行うビジネスケアラーが増加します。介護の問題に直面するのは、主に40代〜50代の従業員であり、中には管理職層や企業の中核となる人材も存在します。
パフォーマンスの低下や介護離職を防ぐためにも、企業はビジネスケアラーの支援に力を入れなければなりません。介護休業制度の周知を徹底するとともに、リモートワークやフレックス制、短時間正社員制度などを導入して、仕事と介護が両立できる労働環境を整備することが肝要です。
レガシーシステムの刷新とDXの推進
労働力が不足する中、組織の生産性を向上させるためには、レガシーシステムの刷新とDXの推進が不可欠です。「レガシーシステム」とは、メインフレームと呼ばれる汎用コンピュータやオフィスコンピュータといった過去の技術で構築されたシステムです。
これらは最新の技術が適用されにくい上、システムの中身を把握する人の離職で「ブラックボックス化」する傾向があります。生産性の低下や業務の属人化、データ消失のリスクにつながりやすいため、できるだけ早いタイミングでシステムの入れ替えを行いましょう。
従業員エンゲージメントの強化
従業員エンゲージメントの強化は、優秀な人材の離職防止や生産性の向上につながります。エンゲージメント(engagement)とは、英語で「誓約」や「約束」と意味する言葉ですが、ビジネスでは「会社への思い入れ」や「帰属意識」を意味します。
エンゲージメントが高い従業員は「会社に貢献したい」という気持ちが強く、仕事に前向きに取り組むのが特徴です。貢献意欲が高い職場は総じて離職率が低く、あらゆる側面で企業に成長をもたらすでしょう。従業員エンゲージメントを強化するには、以下のような施策が必要です。
- 働きやすい職場環境の整備
- 理念やビジョンの浸透
- キャリア支援
- 称賛文化の醸成
- コミュニケーションの活性化
TUNAGは、組織と人の働きがいを高めることを目的としたプラットフォームです。「エンゲージメント向上機能」と「業務改善機能」が搭載されており、従業員エンゲージメントの可視化から施策の設計・実行までをワンストップで行えます。
エンゲージメント向上はTUNAG-ツナグ-|エンゲージメント向上の成功事例多数
企業は2025年問題への備えを強化しよう
団塊の世代が後期高齢者になる2025年は一つの転換期です。労働力人口の減少や社会保障費の増大、国内市場の縮小などにより、現行制度の維持が困難になります。仕事と介護の両立を強いられるビジネスケアラーが増加したり人材の獲得競争が激化したりと、企業も苦しい状況に置かれるでしょう。
2025年を乗り越える鍵といえるのが、DXの推進や従業員エンゲージメントの強化です。デジタル技術の力を借りながら、一人一人が生き生きと働ける環境を作ることが重要です。自社の課題を洗い出した上で、できるだけ早急に施策を実行しましょう。