やってはいけない人事異動6選。満足度を下げない異動の進め方も解説
人事異動の後に従業員が退職してしまったり不満が上がったりと、問題を抱えていませんか。それは「やってはいけない人事異動」だったことが原因かもしれません。今後の対策も含めて、やってはいけない人事異動とはどのようなものかを解説します。
人事異動は企業の成長させるための戦略
人事異動とは、企業を成長に導くための戦略的な人材配置の変更を指します。その目的は経営戦略の変化に対応した人員配置の最適化、特定部署の課題解決、各部署への多様な経験や価値観の導入、業務の属人化によるリスク回避など多岐にわたります。
いずれも最終的なゴールは企業の持続的成長と競争力強化にあることは明確です。
適切に実施された人事異動は、組織の活性化や従業員のキャリア開発につながり、企業価値を高めます。
一方で、企業の成長というゴールから遠ざかる人事異動は「やってはいけない異動」といえるでしょう。法令違反や従業員への配慮不足による異動は、生産性低下や離職率上昇を招き、組織全体のパフォーマン
スを低下させる要因となります。
人事部門や経営層は、異動が組織と個人の両方にとってプラスとなるよう、慎重な計画と実行が求められます。
特に近年は従業員のキャリア自律意識の高まりや働き方の多様化により、画一的な人事異動では対応できなくなっています。戦略的視点を持ちながら、個々の事情に配慮した柔軟な異動施策が、これからの人事戦略には不可欠となるのです。
やってはいけない人事異動【明らかなルール違反】
法令や就業規則に違反する人事異動は、企業に重大なリスクをもたらします。労働紛争や訴訟リスクだけでなく、従業員からの信頼失墜、企業イメージの悪化など、その影響は計り知れません。
ここでは、明らかなルール違反となる人事異動について、法的根拠を含めて詳しく解説します。
就業規則や労働契約に従っていない異動
就業規則や労働契約に違反するような異動は、明らかなルール違反になる人事異動です。
労働契約法第8条では、労働契約を変える場合は合意が必要と定められています。また、同法第9条によれば、労働者の不利益になる就業規則の変更には原則として労働者の同意が必要です。
極端な例で言えば、就業規則や労働契約に「異動なし」と書いてあるにもかかわらず、本人の合意なく異動させた場合、法的なルール違反となります。転勤の規定がないのに、違う支店での勤務を命じるような異動も同様です。
人事権の濫用に当たる異動
人事権の濫用に該当する異動も、法律では明文化されていないものの、ルール違反です。人事権の濫用と見なされるケースには、以下のようなものがあります。
- 特定の職種で労働契約が成立している場合(主に資格職)に別の業務をさせる異動
- 経営戦略や業務遂行に必要がない異動
- 報復をはじめ、不当な目的に基づく異動
- 異動させる従業員に、通常許容できる範囲を超える著しい不利益を与える異動
不利益の程度については判断が難しい部分があります。とはいえ、減給を伴う場合に合理的な理由が見当たらない・本人が納得していない、転勤ありの契約で雇用した後に家族が要介護状態になった従業員に転勤を命じるなどの行為は、著しい不利益と見なされる可能性があるでしょう。
やってはいけない人事異動【従業員への無配慮】
やってはいけない人事異動は、ルール違反だけではありません。従業員に対する配慮が足りていない異動も、法的違反になったり無効とされたりするリスクはなくても、生産性の低下や離職につながります。
ワークライフバランスを考慮していない
育児や介護、持病などの事情を抱える従業員のワークライフバランスを無視した異動は、組織にとって大きなリスクとなります。
このような配慮不足の異動は、従業員の離職を招くだけでなく、育児・介護休業法に抵触する法的リスクも伴います。同法では、特定条件に該当する労働者に対して、残業や時間外労働、深夜労働の制限を設けており、これらの規定に反する異動は違法となる可能性があります。
また、いわゆる玉突き人事と呼ばれる連鎖的な異動も、多くの従業員のワークライフバランスを崩す要因となります。一人の異動が次々と他の異動を引き起こし、結果的に多数の従業員に負担を強いることになります。人事部門は、個々の従業員の事情を把握し、異動が与える影響を慎重に検討した上で、適切な配慮を行うことが求められるでしょう。
参考:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第6章・第7章・第8章|e-Gov法令検索
本人の能力やキャリア志向を無視している
従業員のスキルや経験、キャリア志向を無視した異動は、本人のモチベーション低下だけでなく、異動先の生産性低下も招く深刻な問題です。経理のスペシャリストを目指している従業員を総務部門へ異動させる、営業で成果を上げている従業員を突然技術部門へ配置転換するなど、本人の専門性や志向性を考慮しない異動は、組織全体のパフォーマンスを低下させます。
スキルアップしたい人をスキルアップできない環境に異動させる、逆に現状維持を求めている人をステップアップが必要な仕事に転換させるのも同様です。人事異動を検討するときは、まず本人の意向を聞く必要があります。
短期間で頻繁に異動させる
短期間での頻繁な異動は、本人にとっても異動先にとっても大きな負担となります。短期間では、異動させた目的を達成したかどうかも判断できないはずです。
異動させる従業員のキャリア構築にも役立ちません。人手が足りなくなった部署に、同じ従業員をたらい回しのように異動させるのは避けましょう。
異動先や異動元・本人への悪影響を考慮していない
本人だけでなく、異動先や異動元に悪影響があるのに異動させるのも、無配慮という意味でやってはいけない人事異動です。例えば以下のようなケースです。
- 異動させる従業員が完全な業務未経験で、異動先のリソースがひっ迫する
- 異動元が人手不足になる
- 異動先に以前トラブルになった人がいる
関係者全員のデメリットとなる異動は、エンゲージメントの低下、ひいては離職の増加につながります。企業の成長につながるどころか、衰退を招きかねません。
エンゲージメントを低下させない人事異動の進め方
人事異動に当たって、法令・規則違反や人事権の濫用を避けるのは大前提です。その上で、異動させる本人を含めた従業員のエンゲージメントを維持できる異動の進め方を意識しましょう。4ステップに分けて、進め方を解説します。
各部署の状況をヒアリングする
人事異動は「どの部署に人材が必要か」が分からなければ進められません。まずは各部署へのヒアリングが必要です。グループ企業間や事業間の異動では、より広い範囲の現状を知る必要があります。
現在の人材配置を表に整理して事業戦略と突き合わせれば、人材を異動させるべき部署を判断できます。このとき、「どのような人材が必要か」もヒアリングしておくと人材要件の整理や候補者の選定がスムーズです。
人材要件を整理して候補者を探す
ヒアリングが済んだら、その結果や事業戦略から人材要件を洗い出しましょう。その要件に当てはまる人材を社内で探します。これまでの面談結果などから、キャリア志向や異動に関する希望も把握した上で選定するのが理想です。
タレントマネジメントシステムや、TUNAGのように組織図・社員プロフィールを備えたツールを使うと人材選定が効率的になります。
内示の段階で丁寧に説明する
人事異動の「内示」は決定事項を通知するのではなく、異動を打診するフローです。一般的には、対象者に直属の上司から異動について説明してもらいます。
この段階で異動の目的や従業員本人にとってのメリット(キャリアアップにつながる、希望していた業務を経験できるなど)を提示すると、理解を得やすくなるはずです。転勤を伴う場合は十分な準備期間を確保するためにも、内示は実際の異動(辞令)の1カ月前までを目安にしましょう。
辞令を出す
辞令は正式に異動が決定したことを知らせるもので、取り消しは原則不可です。辞令書は必ず作成しなければならない書類ではありませんが、異動内容に納得してもらったという証拠になるため作っておくことをおすすめします。
辞令書に記載する事項は、異動元や異動先の部署・勤務地・業務内容などです。辞令を出した後は、あらかじめ決めた異動日に異動してもらいます。
人事異動の後に企業がすべきこと
人事異動は本人にとっても周りの従業員にとっても、ある程度の負担を伴うイベントです。やってはいけない人事異動を避けるのはもちろん、円滑な事業運営や従業員のエンゲージメント向上のためには、異動後の丁寧な対応が求められます。
異動させた従業員本人や異動先のフォロー
異動後は慣れない環境での業務になるため、フォローが欠かせません。異動が本当に良い効果を生んでいるかのチェックをするためにも、フォローが必要です。
本人へのフォローとしては、定期的な1on1でのヒアリングが第一の選択肢として挙げられます。異動後に感じている業務上の課題や悩み、改善していくべき点などを把握できるでしょう。
異動先に対しても、教育の負担が大きくないかなどをヒアリングし、サポートする体制を用意すると業務が円滑に進みます。
人事異動に関する従業員サーベイ
従業員サーベイは、企業が従業員の意見を積極的に吸い上げる手段の一つです。人事異動についても、悪影響が出ていないか・異動した人がどのような活躍をしているかなど、現場の声を聞けば今後の参考になります。
人事異動に関する従業員サーベイは、本人や異動先だけでなく、異動元でも実施するのが理想です。人手不足で困るなどの問題を把握できます。
サーベイを実施する手段の一つが、組織エンゲージメントサーベイ「TERAS」の活用です。特に異動先や異動元など、組織単位の課題把握に役立ちます。完全匿名性なので、回答のハードルも下がるでしょう。
やってはいけない異動を避けて戦略的人事を
人事異動は最終的に、企業を成長に導くためのものです。やってはいけない人事異動は、ルール違反にしても従業員への無配慮にしても、企業の成長を阻みます。人事戦略として悪手ということです。
もしこれまでに紹介したような「やってはいけない人事異動」をしてしまったなら、今後は避けるよう社内で方針を定めましょう。特に配慮が足りていない人事異動は、本人や各部署へのヒアリングで再発を防げます。
内示の段階で本人の納得を得るのはもちろん、サーベイツールも活用しつつ、異動元・異動先といった組織単位でも異動に関する声を収集すると、今後の改善に役立つはずです。


.webp&w=3840&q=75)










