社内規定と就業規則の違いとは?メリットや作成時の注意点を解説

社内規定とは、業界特性や企業文化に合わせて作成される、社内の人間が守るべき決まり事のことを指し、業務の具体的な手順を定めたルール(マニュアル)とは分けて考えられます。

社内規定は、コンプライアンス意識の向上や理念・文化の浸透、従業員が働きやすい職場環境の整備などの様々な目的により定義されます。その一方で、定義された社内規定が厳しすぎてしまったり、定義された社内規定が従業員に周知されずに放置されてしまうと、従業員の生産性の低下を招きかねません。そこで本記事では、社内規定の概要から周知方法、ルールを作成する際の注意点などを解説します。

社内規定とは

社内規定とは、社内の人間が守るべき決まり事・規則のうち、法律で制定が義務づけられている規則(就業規則など)を除いたものを指します。業務の具体的な手順を定めたルール(マニュアル)も、社内規定とは分けて考えるのが一般的です。

社内規定は組織風土・企業文化・ビジョンにかかわる事項から具体的な業務に関する事項まで含み、明文化されている部分もあれば暗黙のルールとして伝わっている部分もあります。社内規定が明文化されていないと、周知徹底が難しくなり、業務の非効率化や生産性低下につながります。そのため、社内規定はできる限り明文化して社内周知を図るのが得策と言えるでしょう。

就業規則との違い

就業規則は、労働基準法に基づき、常時10人以上の労働者を使用する事業場において作成が義務づけられているルールです(この義務のない作業場においても、同様のルールを労働契約で明示する必要があります)。

就業規則は企業と労働契約を結んだ労働者に適用されます。明文化し、作成・変更時には労働組合・労働者代表の意見を聴き、その意見を記入した上で労働基準監督署長に届け出る必要があります。

就業規則には絶対的必要記載事項(必ず就業規則として定めるべき事項、労働時間・賃金・退職関係)と、相対的必要記載事項(ルールを制定するのであれば就業規則の中に含めるべき事項、退職手当、賞罰、服務規律など)があります。対象となる労働者への周知を行うことも義務づけられています。

一方、社内規定は法律に違反しないかぎり企業が自由に定めることができ、届出や社内周知の義務もありません。就業規則が法律で既定された最低限のルールであるのに対し、社内規定はそれに加えて定められる「プラスアルファ」のルールです。そのため、企業の裁量の幅が大きく、明文化の程度も企業によって違い、企業独自の色が反映されます。

参照:社内規程の作り方、テンプレート、周知の方法 | 社内ポータル・SNSのTUNAG

飲食店ではハウスルールとして運用される

飲食業では社内規定を「ハウスルール」と呼ぶ習慣があります。ハウスルールに特徴的なルールとしては以下が挙げられます。

  • 身だしなみや手の洗い方
  • 従業員同士の挨拶や声掛け
  • 休憩室や更衣室の使い方
  • ゴミ捨てや清掃の当番
  • まかないに関するルール
  • シフトに関するルール(提出期限、交代申請の方法など)
  • 接客に関する考え方や行動理念

接客や調理の具体的なやり方に関するルール(マニュアル)は、ハウスルールに含めないのが一般的です。

社内規定の6つの周知方法

社内規定を社内に周知する方法と周知を徹底するための方法を解説します。

口頭伝達

口頭による伝達は、明文化されていないルールの場合によく使われる方法です。最も手軽な方法ですが、誤解や忘却が生じやすく、周知の徹底を図ることは困難です。

アナログ媒体資料の社内回覧・掲示・配布

紙などのアナログ媒体でルールを明記した資料を作成し、回覧、掲示板への掲示、各部署への配布によって周知する方法です。アナログ媒体はIT設備やITリテラシーの有無にかかわらず閲覧できるのがメリットですが、以下のようなデメリットがあります。

  •  閲覧できる場所が限られる
  •  修正に時間、手間、コストがかかる
  •  修正履歴を把握しにくい
  •  どれが最新版かわかりにくく、新旧の版が混在する事態になりやすい
  •  周知の実態が把握しにくい

参照:社内回覧を電子化する4つのメリットやデメリット、方法を考える | 社内ポータル・SNSのTUNAG

電子メールによる周知

電子メールは身近なデジタルツールのひとつであり、社内規定の伝達・回覧にもしばしば用いられます。しかし、電子メールによる社内規定周知には以下のようなデメリットがあります。

  • 大量のメールの中に埋もれてしまい、見落としが発生しやすい
  • 読み流されてしまい、確認不足が発生しやすい
  • 送信先設定のミスによる情報流出のリスクがある

情報共有システムによる周知

情報共有システムは社内の情報を一元的に管理するためのソフトウェアです。デジタル資料の格納・管理、各種通知、チャット、社内アンケート、閲覧状況可視化などの機能を備えています。近年ではPC・タブレット・スマホなどの端末からインターネットを介して利用するクラウド型のシステムが一般的です。

情報共有システムはアナログ媒体や電子メールによる情報伝達のデメリットを克服する目的で開発されており、以下のようなメリットがあります。

  • PCやタブレット、スマートフォンがあればどこでもルールが閲覧できる
  • ルールブックをデジタル化することで、検索・閲覧が手軽にできるようになり、ルールの修正・追加や修正履歴の記録も容易になる
  • ルールを一元的に管理し、周知方法をシステム化することで、見落としや誤解を防止し、周知徹底を図ることができる
  • 社内アンケートでルール周知状況をチェックできる
  • ルール資料やルールに関する通知の閲覧状況を可視化して周知の進み具合を分析できる

ルールの読み合わせ

部署ごとに複数名でルールの読み合わせをすることで、ルールを確認していない社員や理解の不足した社員を減らし、周知の徹底を図ることができます。

ルール周知状況のチェック

担当者が各部署に出向いて現場チェックを行ったり、ルールに関するアンケート(質問票)を配布したりして周知状況を把握し、周知が足りない部署・従業員にルールの再確認を促したり、周知方法を変更したりすることで、周知の徹底を図ることができます。

情報共有や社内アンケートのシステムを使うことで、迅速に周知状況のチェックを行うことが可能です。

社内規定を定めるメリット

社内規定を効果的なものにするためには明確な理由・目的をもって定めることが重要です。社内規定を定める主な理由・目的を解説します。

コンプライアンス意識の向上

社内規定として個人情報・機密情報の扱い、社内施設・端末の利用方法、ハラスメント禁止などを定ることで、従業員のコンプライアンス意識・セキュリティ意識を高め、内部不正や情報漏洩のリスクを低下させることができます。

なお、パワハラ・セクハラ・マタハラなどに関するルールは服務規律に属し、社内規定として扱われてきましたが、近年では企業規模にかかわらずハラスメント対策の義務化が進み、位置づけが変化してきています。

理念・ビジョンの社内浸透

会社の理念・ビジョンを具体的なルール(行動規範)に落とし込むことで、理念・ビジョンの社内浸透を図ることができます。またすでに社内規定が存在している場合は、企業として大事にしている文化や理念と紐づいているかに立ち返って見直してみましょう。

働きやすい職場環境の整備

従業員側のニーズをくみ取って社内規定に反映させれば、働きやすい職場環境の醸成につながります。ボトムアップで意見を収集し、従業員の生産性が高まる職場環境を作るための、社内規定を設けましょう。

参照:ボトムアップの意味とは?トップダウンとの違い、メリット・デメリットを2つずつ解説 | 社内ポータル・SNSのTUNAG

エンゲージメント強化による生産性・品質向上や人材流出防止

社内規定を通してインナーブランディングや職場環境整備が進めば、従業員のモチベーション向上や、従業員と会社との間の信頼関係が向上し、信頼関係に基づく前向きな深いつながり(エンゲージメント)の強化につながります。

エンゲージメントの強化は、組織的な生産性向上やサービス・製品の品質向上、人材流出の防止につながります。

社内規定を定めるデメリット

社内規定は企業の秩序を保ち、効率的な業務運営をサポートするために重要な役割を果たします。しかし、厳しすぎる規定や管理が行き過ぎると、従業員にとってはマイナスの影響をもたらすこともあります。社内規定を適切に運用するためには、そのデメリットを理解し、バランスを取ったルール作りが求められます。このセクションでは、社内規定に伴う主なデメリットについて詳しく解説します。

社員のモチベーション低下

社内規定が厳しすぎると、社員の自由な発想や行動が制限され、モチベーションが下がることがあります。例えば、服装や勤務時間の規定が細かすぎると、ストレスがたまり、生産性に悪影響を与えることがあります。規定を作成する際は、社員の意見を取り入れて、柔軟な内容にすることが大切です​。

コストと時間がかかる

社内規定の作成や運用には、専門家への相談や社員への説明などに多くのコストと時間がかかります。特に運用後は、定期的な見直しや修正が必要になるため、人事や管理職の負担が増加する可能性もあります。効率的な運用を目指すためには、適切なリソース配分が求められます​。

硬直化した組織文化

社内規定が細かく定められすぎると、組織が硬直化し、柔軟な対応が難しくなることがあります。新しいアイデアが生まれにくくなり、イノベーションの妨げとなる可能性もあります。そのため、多様性を尊重し、変化に対応できる規定作りを心がけることが重要です。

社員の自律性の低下

規定が厳しすぎると、社員は「ルールさえ守ればいい」と考えるようになり、主体性や自律性が失われてしまうことがあります。特に、業務に対する工夫や自主的な行動が減り、チーム全体の成長が鈍化するリスクがあります。社内規定は、社員の行動を縛りすぎないように配慮し、自律的な判断や創造的な発想を促す環境を整えることが大切です​。

社内規定の項目一覧

社内ルールの内容は、企業の方針に基づき自由に設定できます。以下に、一般的な企業によくみられる社内ルールの例を箇条書きでご紹介します。

  • 企業の基本方針と経営理念
  • 組織体制と役職の運営ルール
  • 社員の評価制度。
  • 給与と賞与の規定
  • ハラスメント防止の方針
  • 育児・介護休業の規定
  • 個人情報および内部情報の管理規定
  • 業務マニュアル
  • 社内での共通用語
  • 社内外のコミュニケーションツール
  • 顧客からのクレーム対応方法
  • 服装・髪型の規定
  • オフィスの整理整頓ルール
  • 備品・機材の使用方法
  • 出張費用と接待費の規定
  • 災害時の緊急対応マニュアル

社内規定を作成する際の注意点

社内規定は企業の裁量の幅が大きいだけに、扱いを間違えると逆効果を生じ、業務の非効率化をもたらして生産性を低下させたり、一方的な縛り付けによって従業員エンゲージメントを低下させたりする恐れがあります。

そうした事態を避けるためのポイントをまとめます。

事業・業務の実態に即した具体的なルールにする

自社の事業内容や各部署の業務内容にそぐわないルールや、経営陣の思い入れを抽象的に表現しただけのルールは、現場ではうまく機能せず、無駄な業務を増やして生産性を低下させる要因となります。

従業員側のニーズを組み入れ、公平なルールを制定する

会社側の都合を一方的に押しつけるルールは、表面的に従う人材を増やすだけで、職場環境改善やエンゲージメント向上にはつながりません。

アンケートなどを通して、ボトムアップで従業員側のニーズをくみ取り、ルールに反映させる必要があります。ルールが従業員から見て公平であることも需要です。社内規定は社内の全員に同じく適用されるものとするのが原則で、何らかの条件(部署や地位、成果など)によって扱いを変えるのであれば、従業員側から見て納得感のある条件を設定する必要があります。

ルールで縛りすぎない

ルールが多すぎたり、細かすぎたりすると、従業員の行動・思考が過度に束縛されて自発性が下がり、組織の硬直化とモチベーション・生産性の低下につながります。

周知方法を一元化する

ルールの周知方法がその場その場で異なっていたり、部署間で統一されていなかったりすると、見落としや認識の齟齬が発生しがちになり、周知の徹底が難しくなります。

社内規定の作成ステップ

社内規定作成の基本的なステップをまとめます。

現状・課題を把握し、ルール制定の目的・理由を明確化する

自社の現状を分析し、社内規定の制定によって改善可能と考えられる課題を抽出して、ルール制定の目的・理由を明確化します。目的・理由なきルール制定は逆効果を生む結果につながるでしょう。

社内アンケートなどを通して必要なルールを洗い出す

経営陣や一部の担当者だけでルールを決めると、ルールが偏り、一方的なものになりがちです。それを避けるため、社内アンケートなどを利用して幅広く社内から意見を募り、目的達成のために有効と考えられるルールを洗い出します。

目的・業務との整合性を考慮してルールを絞り込む

洗い出したルールの中から実際に社内規定として制定するものを選び、内容を調整します。その際に、「従業員にどのルールを守らせたいか」という一方的な視点ではなく、「実際に現場にそのルールを適用することで目的達成につながるか」という視点でルールの候補を吟味し、従業員の立場から見て合理的な意義や納得感のある形にルールをまとめ上げることが重要です。

ルールを周知し、結果をモニターし、適宜修正していく

ルールがまとまったら、先述したような方法で社内への周知を行い、周知状況やルール導入の成果を定期的にモニターして、ルールの内容や周知方法をより効果的なものに修正していきます。

社内規定を設ける企業の事例

独特な社内規定で高い生産性を実現している有名企業の事例を紹介します。

Google

Googleは「20%ルール」で有名です。これは、「会社の仕事に多少でも関連性があれば、職務の範囲外にあるアイデアを追求するために就業時間の 20% を自由に使ってよい」というルールです。

「20%ルール」は従業員の自発的な発想を促してイノベーションを推進することを目的としており、基幹サービスにまで成長した「Gmail」もこのルールから生まれています。

参照:Google re:Work - ガイド: イノベーションが生まれる職場環境をつくる

キーエンス

生産現場の生産性を高める機器の製造・販売を行うキーエンスは、合理的な独自の社内規定の存在でもよく知られています。いくつか特徴的なルールとその理由を紹介します。

  • ワイシャツは白のみ→無難だから(あえてそれ以外を選ぶ合理的な理由がないから)
  • 顧客への接待は禁止→公正・公平な取引のため
  • 部下を飲みに誘うのは禁止→公私混同や不公平な人事評価を避けるため
  • 役職や年齢の上下を問わず、会話では必ず相手に「さん」を付け、丁寧語を使う→オープンに議論できる環境を作るため

▼参照

人材 | サステナビリティ | 会社情報 | キーエンス

解剖キーエンス 最強企業の“人づくり” | 日経ビジネス

まとめ | 社内規定を活かすためには

社内規定は就業規則などに加えて制定される企業独自のルールであり、企業の裁量の幅が大きく、うまく活かせばエンゲージメントや生産性の向上につながりますが、組織の足を引っ張る結果となる場合も少なくありません。

社内から広く意見を募り、業務の実態に即した合理的で公平なルールを制定し、一元的な方法で従業員への周知を図ることで、社内規定を有効活用していきましょう。

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「TUNAG」はアルバイトを含む従業員の定着率向上や情報共有の促進、業務DXで、安定した組織運営を実現する社内アプリです。ドキュメント・マニュアルの格納・管理、社内アンケート、閲覧状況可視化など、社内規定の制定・周知に必要な機能を備えています。社内規定をTUNAG上に投稿することで、既読状況の可視化や社内規定の理解度を図ることも可能です。

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著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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