従業員サーベイの意義や実施の手順。効果的に活用するポイントも解説
離職率が高い要因が分からない、従業員のパフォーマンス低下の原因が不明といった課題を特定し、解決につなげるための手段として、「従業員サーベイ」が有効です。従業員サーベイの定義とともに、目的ごとに適した種類や実施手順、実施効果を最大化するポイントを解説します。
従業員サーベイとは
従業員サーベイ(employee survey)とは、企業が従業員に対して実施する意識調査の総称です。職場環境、仕事への満足度、エンゲージメント、人間関係など、従業員が日々の業務で感じていることについて質問票で回答してもらい、組織の現状を把握します。
多くの場合、匿名で実施され、「とても満足」「やや不満」といった選択式の質問を通じて、不満や不安などの定性的な要素を数値化できます。
従業員満足度調査(ESサーベイ)との違い
従業員サーベイは従業員向け調査全般を指す言葉であり、その中にESサーベイ(満足度調査)、エンゲージメントサーベイ(愛着度調査)、モラールサーベイ(士気調査)などが含まれます。
例えば、ESサーベイでは「給与・福利厚生に満足していますか?」といった満足度を問う質問が中心ですが、エンゲージメントサーベイでは「この会社で長く働きたいと思いますか?」といった帰属意識を測る質問が中心になります。目的によって使い分けることが重要です。
目的によって変わる従業員サーベイの種類
従業員サーベイには、調査の目的が違う複数の種類があります。自社の課題に合う従業員サーベイを判断するためにも、種類ごとの特徴を把握しておきましょう。
モラールサーベイ
「モラールサーベイ(morale survey)」は経営戦略・目標を達成するために求められる従業員のパフォーマンス向上を目的として、士気(忠誠心)や意欲を測る調査です。「morale」という単語は元々、国民や軍隊の士気を表します。
モラールサーベイの特徴は、従業員のパフォーマンスに何が影響しているかを、客観的な情報として収集できることです。一般的には半年〜1年に1回という長期スパンで実施します。
組織サーベイ
「組織サーベイ(organization survey)」は、経営戦略・目標を達成するため、組織のチームマネジメントが機能しているかどうかの情報を集める調査です。組織全体を対象として、従業員のモチベーション・エンゲージメントなどを測定します。
ただし、実際の運用では組織サーベイの定義は広く解釈されることもあります。エンゲージメント状態やメンタルヘルス、従業員満足度の測定など、より幅広い目的で活用されるケースも多く見られます。
組織のエンゲージメント状態を測ったり、メンタルヘルスの状態や従業員満足度を確かめたりするためにも活用されてきました。エンゲージメントサーベイやESサーベイ(従業員満足度調査)を、組織サーベイの一つとする分類の仕方もあります。
パルスサーベイ
パルスサーベイ(pulse survey)とは、従業員の意識や状態をリアルタイムでチェックするために、簡単な質問を短期間で繰り返し実施する意識調査です。「pulse」は「脈拍」「鼓動」を表す単語で、こまめに「組織の脈」を測定するイメージから名付けられています。
問題を早期発見するために実施する、健康診断のようなものと捉えると分かりやすいでしょう。パルスサーベイは、従業員満足度の向上に役立つ調査です。一方で、1週間〜1カ月に1回という短いスパンで実施するため、回答する従業員の負担が増えやすいことに注意しなければなりません。
エンゲージメントサーベイ
エンゲージメントサーベイ(engagement survey)は、従業員エンゲージメント(企業とのつながり・前向きな気持ちの強さ)を数値化して把握するために実施する調査です。ほかの従業員サーベイとも重なる部分はありますが、目的がエンゲージメント状態の把握に特化しています。
エンゲージメントサーベイの実施頻度は、半年〜1年に1回が目安です。企業への満足度や仕事に対する達成感・満足感・意欲などを調査します。エンゲージメントは離職率と負の相関関係にあるため、実施後の分析によって、離職のリスクを早期に把握できるでしょう。
ESサーベイ
ESサーベイは「従業員満足度調査」とも呼ばれます。労働環境への不満を把握するために、制度や福利厚生についての満足度を測る調査です。「ES」は「employee satisfaction」の略で、「employee satisfaction survey」を訳せば「従業員満足度調査」となります。
ESサーベイを実施すると、人事評価や休暇制度についての不満を吸い上げられるため、制度の見直しに役立ちます。
従業員サーベイを実施するメリット
従業員サーベイは、種類ごとに目的はさまざまです。解決できる問題も変わってくるでしょう。ただ、従業員サーベイ全般に共通するメリットがあります。企業にとってのメリットを、五つまとめました。
匿名性により従業員の本音を収集できる
サーベイは基本的に匿名で実施されるため、忖度のない声を収集しやすいという点が大きなメリットです。ヒアリングスキルにも依存しません。
客観的なデータとして従業員の本音を集めることで、問題の早期発見が可能です。組織の弱みの改善や離職防止など、サーベイの目的に応じた施策を考えやすくなります。
課題や満足度を数値化して把握できる
組織の課題や従業員の満足度は、業績に代表される数値で確認できるものばかりではありません。しかし従業員サーベイを実施すると、項目ごとに「どの回答が多いか」を数値でチェックして可視化できるようになります。
定性的な要素を数値化できれば、解決すべき課題の優先度が把握でき、施策を考えやすくなるはずです。特に長期間にわたって従業員サーベイを継続すると、経年データの蓄積により分析の精度が上がります。
エンゲージメントサーベイやモラールサーベイ・ESサーベイなど長期スパンの調査は、長く続けられるように工夫してデータを蓄積しましょう。
少数の声も組織改善に反映できる
従業員数が100名を超えるような企業では、少数派の意見は埋もれやすくなります。少数派であっても貴重な人材の声を無視すれば、離職につながり、人材確保がますます困難になります。労働力不足が深刻な現在、一人ひとりの意見に耳を傾けることが重要です。
従業員サーベイは、多数派となった回答を傾向として分析すると同時に、少数派の意見を拾う手段としても活用できます。従業員サーベイを実施した結果、「少数派だと思っていたけれど、声が上がらなかっただけで多くの従業員が持つ意見だった」と発覚するケースも考えられます。
管理職・人事と現場のズレを認識できる
管理職・人事・役員といった経営層などは、現場の立場で考えるのがどうしても難しい側面があります。結果として企業の利益を最優先し、従業員に過度な負担を強いたり、現場の実態に即さない制度を導入したりするケースが少なくありません。
従業員サーベイの実施によって、現場の従業員が何に不満を抱いているのか把握できます。経営サイドにいる人々が、意識のズレに気付いて対策を考えられるのは大きなメリットです。ズレに気付いて早期に是正できれば、現場のモチベーション低下や離職率増加のリスクが軽減します。
生産性や企業への評価が向上する
従業員の心身の健康は、生産性に大きく影響する要素です。従業員サーベイで心身の不調につながり得る問題を早期に発見できれば、早めに対策して生産性の低下を防げるようになります。先回りして健康を保てるようにすれば、生産性はむしろ向上するはずです。
エンゲージメント状態や従業員の健康状態を従業員サーベイの結果から開示できれば、外部に対してのアピールにもなります。健康経営への投資は企業に大きなリターンをもたらすといわれており、従業員サーベイによる健康問題の早期発見は、長期的に見て経済的なメリットをもたらすでしょう。
従業員サーベイを実施するデメリット
従業員サーベイの実施には多くのメリットがある半面、デメリットも無視できません。具体的に何がデメリットとなるのかを把握して、事前に対策を考えておきましょう。
従業員に負担がかかってしまう
従業員サーベイは、従業員が回答しなければ成立しません。回答する側は、業務をこなしつつサーベイにも回答する必要があるため、少なからず負担を背負うことになります。大量のサーベイ依頼が来ると、従業員としては業務の合間を縫って回答しなければならず、ストレスになってしまうでしょう。
特に回答しにくいシステムだったり回答に時間がかかる設問が多かったりすると、従業員の負担は大きくなります。組織をプラスの方向に導くために実施する従業員サーベイが、従業員のストレス要因になったり生産性低下を招いたりすれば、本末転倒です。
結果が改善に生かされないと従業員の不満を招く
従業員が多忙な中でサーベイに回答しても、実施して終わりでは「何のために回答したのか」という疑問が生じます。
結果として従業員サーベイが単なる負担となり、不満の材料だけが増える事態になりかねません。
従業員サーベイの目的は、調査を実施すること自体ではありません。サーベイを実施するに当たっては、導入した目的を改めて認識する必要があります。
従業員サーベイの導入・実施の手順
従業員サーベイの実施が初めてだと、何から手を付けてよいのか分からないかもしれません。ここでは外部サービスやツールを導入することを前提に、導入から実施、実施後までに必要な手順を整理していきます。
調査目的を明確化する
従業員サーベイを実施するには、まず実施目的の明確化が必要です。目的によって実施するサーベイの種類や、使うべきツールが変わってきます。単に「知りたいから」という理由では、調査結果を何に活用するかが不明確であり、適切な目的設定とはいえません。「知った後に何を改善したいのか」を明確にしておきましょう。
例えば定着率の向上が主目的なら、エンゲージメントの計測に特化したエンゲージメントサーベイが適しています。制度や給与体系などの見直しが目的の場合は、ESサーベイが適切です。目的によって、複数種類のサーベイを組み合わせる必要があることも少なくありません。
質問の項目や調査期間を決定する
目的から採用するサーベイの種類や使用するツールが決まったら、次は質問項目や調査期間・頻度を決める段階です。インターネット上で入手できるフォーマットを使うのも一つの手ですが、目的に合わない質問はカスタマイズしなければなりません。
自社でどうしても質問項目を決めるのが難しい場合は、エンゲージメントサーベイ「TERAS(テラス)」のように目的に応じた設問を標準装備しているツールを選ぶのも一つの方法です。TERASでは、豊富な支援実績からエンゲージメントの測定に効果のある設問を用意しています。
質問項目が決まったら、実際に従業員に回答してもらう前にテストサーベイを実施しましょう。
組織のためのエンゲージメントサーベイツール|TERAS(テラス)
従業員に周知してからサーベイを実施する
サーベイの実施には、従業員の協力が不可欠です。急に「サーベイに回答してください」と言われても、時間を作れなかったり回答の準備ができなかったりすることもあります。
周知の前にできるだけ従業員の負担にならない実施スケジュールを決めておき、スケジュールも一緒に周知するのが理想です。周知した後は、あらかじめ伝えておいたスケジュール通りにサーベイを実施します。
結果を集計・分析する
従業員サーベイは種類を問わず、結果の集計と分析が不可欠です。単にデータとして回答を見るのではなく、課題解決の材料として多角的に分析する必要があります。
ただ、従業員サーベイの実施が初めてだと、分析の仕方に迷うこともあるでしょう。その場合は、AI分析機能を搭載したツールや、専門家による分析サポートが付いたサービスを利用するのも一つの方法です。
結果を基に改善策に取り組む
従業員サーベイは、課題を特定して改善するために行うものです。分析だけして終わりでは意味がありません。分析によって課題が明確になったら、その課題に合わせた具体的な施策の立案と実行が必要です。
例えばESサーベイを実施した結果、休暇が取りにくいという回答が多かったなら、休暇制度の見直しや気兼ねなく休める仕組み・雰囲気づくりに取り組む必要があります。モラールサーベイで業務の非効率が士気の低下につながっていることが分かれば、業務効率化につながるシステムの構築やツールの導入を検討すべきです。
従業員サーベイを効果的に実施するポイント
従業員サーベイは、実施の仕方や結果の活用方法によって効果が大きく変わります。導入・実施の効果を最大化するには、どのような工夫が必要なのでしょうか。4つのポイントを見ていきましょう。
サーベイの目的を従業員に周知する
従業員サーベイの実施を周知するとき、「○○日にサーベイを実施します」とだけ伝えても従業員には必要性が分かりません。「また時間を取られるのか」という否定的な印象を持つ従業員も出てくるでしょう。
サーベイの実施を周知するときは、目的や意図をしっかりと伝え、納得感を持って回答してもらえるようにしましょう。目的を伝える際は、「働きやすい環境づくりのため」「皆さんの声を制度改善に反映するため」など、従業員自身のメリットを明確に示しましょう。
自分たちの環境や業績の改善につながると分かれば、現場も前向きに回答してくれることが予想できます。
自社に合ったツールを選定する
従業員サーベイの効果を最大化するには、目的に応じたサーベイの種類を選ぶのはもちろん、ツール選びも重要です。課題の特定だけが目的であれば、測定機能に特化したシンプルなツールで十分です。場合によってはExcelでの自社設計でもよいでしょう。
施策の考案までサポートが必要な場合は、サーベイの実施後に施策を提案してくれるツールを選ぶのが理想です。特に従業員サーベイの実施に慣れていない企業では、調査後にデータをどう活用してよいか分からないという問題が発生するかもしれません。分析から施策の提案まで依頼できるサービスなら、一度実施しただけで形骸化する心配もないでしょう。
調査結果や改善策を共有する
従業員サーベイの実施後、結果や改善策を従業員にまで公開しないと、回答した従業員は意義を感じられず不満を募らせてしまいます。結果として、長期的なサーベイの実施が困難になることも考えられます。
サーベイの結果は不都合な部分も隠さずフィードバックし、浮かび上がった問題にどう対処していくのか、改善策の方向性も共有しましょう。従業員のサーベイ実施に対する納得感が高まり、次の実施時にも協力を得やすくなります。
サーベイの結果や改善策は、Web上で見られる社内報や社内ポータルなど、従業員がアクセスしやすい場所で公開するとよいでしょう。情報があっても容易にアクセスできなければ、従業員の立場では共有されていないのと同じです。
従業員の負担をできるだけ減らす
過剰なサーベイの依頼は、従業員にとって大きな負担になります。ストレスの要因になるのはもちろん、負担だと感じることで適当に回答されてしまい、正確なデータを得られない恐れがあります。そうなると本当の実態が見えず、改善の施策も的外れなものになるリスクが高まります。
以下のような工夫をして、可能な限りサーベイ実施による従業員の負担を減らしましょう。
- 回答期間を1週間程度設け、余裕を持たせる
- 設問数を10〜15問程度に絞り、5〜10分で回答できるようにする
- 部署間で連携し、繁忙期を避けて実施のタイミングを調整する
従業員の回答にかかる負担が減れば、長期的にサーベイを実施し続ける土台ができます。
従業員サーベイを実施するときの注意点
従業員サーベイを導入・実施し、特定した課題に有効な対策を考えるに当たって、いくつか注意したいポイントがあります。効果を最大化し、サーベイ実施によるリスクを回避するための注意点を紹介します。
経営層の合意を得てから実施する
従業員サーベイの結果は、人事戦略や経営戦略の意思決定に影響を与える重要な情報です。経営層の合意を得ずに従業員サーベイを実施すると、施策を実行できない恐れがあります。従業員サーベイを意味のあるものにするため、目的を明確化した段階で経営層の合意を得ておきましょう。
回答を誘導するような質問を作らない
従業員サーベイのメリットは、面談では引き出しにくい本音も拾い上げられることです。そのメリットを生かすためにも、企業が求める回答へ恣意的に誘導するような設問は作るべきではありません。誘導的な設問と、理想的な設問の例をいくつか見てみましょう。
<所定労働時間についての設問(所定労働時間が7時間の場合)>
- 誘導的な設問:チームの業績が落ちている状況を受けて、所定労働時間を8時間に引き上げるべきだと思いますか?
- 理想的な設問:所定労働時間を8時間に増やした方がよいと思いますか?
<待遇についての設問>
- 誘導的な設問:○○年上半期は赤字決算となりましたが、賞与額が減っても問題ないと思いますか?
- 理想的な設問:賞与額が減ったとしても、勤務し続けたいと思いますか?
誘導的な設問の問題は、「チームの業績が落ちている状況を受けて」「○○年上半期は赤字決算となりましたが」といった前提条件を置くことで、特定の回答に誘導してしまう点です。一方、理想的な設問は誘導の要因となる前提条件を置いていません。あくまでもフラットに、どう思うかだけを聞いています。
設問設定が難しい場合は、ツールに頼る・外部サービスにサポートしてもらうのが無難です。
匿名性を確保して本音を引き出す
従業員サーベイで本音を引き出すためには、匿名性も不可欠です。いくら「評価には影響しない」と伝えていても、記名式だと回答が自分の不利益になるのではないかという不安を完全には解消できません。
従業員サーベイは匿名で実施するのが基本であり、部署や役職名の記載もさせない方がよいでしょう。いつ誰が回答したのか分からない仕組みも必要です。匿名性をしっかりと確保することで、従業員の心理的安全性を高めて本音の回答を引き出せるようになります。
情報漏洩に十分に注意する
匿名で実施した場合でも、従業員サーベイの回答は従業員の本音が記載された重要な情報です。万が一にも社外や閲覧すべきでない立場の人に漏洩しないよう、システムをしっかりと整えましょう。また、特定の部門や管理職だけが情報を独占し、恣意的に利用することがないよう注意が必要です。
企業向けに作られたサーベイツールの大半は、厳重なセキュリティ対策が施されており、アクセス可能な範囲の設定もできるようになっています。とはいえ、アクセスできる担当者が恣意的に回答データを使わないとは限りません。この部分は企業のコンプライアンス体制の整備によって、防止する必要があります。
従業員サーベイのよくある失敗例と対策
従業員サーベイを導入・実施した企業の全てが、課題を特定して解決できるわけではありません。実施しても成果を得られないケースは少なからずあります。具体的にどのような失敗例があるのか、対策と併せて見ていきましょう。
実施が目的になっている
従業員サーベイは実施が目的になると、形骸化して課題の解決に生かされなくなってしまいます。形だけ実施している状態では、メリットは生まれず単に従業員の作業が増えるだけです。
実施する側の企業としては、常に「改善のための調査である」と意識し、実施後の行動につなげる必要があります。結果を正しく分析して、的を射た改善策を考えましょう。
設問の意図が分かりにくい
意図が不明瞭な設問を作ってしまうと、従業員のストレスになるばかりか、改善の判断材料となる回答を得られません。特に回りくどい聞き方の設問は、回答者が意図を読み取りにくく、ストレスの原因となります。
例えば「わが社では○○のキャンペーンを実施しましたが、結果は△△でした。今後もこのキャンペーンを実施することになった場合、改善策を講じることを前提としてプロジェクトに参加したいと思いますか」という設問があったとして、すぐに意図を理解できるでしょうか。この場合、「再度〇〇のキャンペーンを実施する際、プロジェクトへの参加を希望しますか?」とシンプルに尋ねるだけで十分です。
解釈が人によって異なるような設問は、回答する従業員にストレスを与えてしまいます。例えば、「最近、業務上の人間関係にストレスを感じたことはありますか?」という設問の場合、回答者は「『最近』とは直近1ヶ月のことか、それとも1週間のことか?」と考えてしまいます。このようなケースでは、「直近1ヶ月で」というように、期間を明確に示しましょう。
誰が見ても意図が理解でき、解釈が変わらない設問かどうかをチェックするためにも、テストサーベイの実施は欠かせません。
本音を外に出しにくい環境がある
従業員サーベイが匿名で評価に影響がないと分かっていても、環境によっては本音の回答を得られない場合があります。ミスを報告すると改善指導ではなく叱責される、上司や企業に対して信頼がないという状態だと、「本音を言うことで不利になるのではないか」という疑念が働くのは自然です。
日常的にコミュニケーション環境が悪く、風通しの良くない環境では従業員サーベイでも本音を拾いにくくなります。もし自社がこのような状況だった場合、まずは期待に添った回答をしなくても不利益にならないという、心理的安全性の確保が必要です。環境は一朝一夕で変えられませんが、1on1ミーティングの定期実施や、成果を公開で称賛する場を設けるなど、具体的な施策を講じて地道に土台をつくっていきましょう。
従業員サーベイの活用事例
進め方やポイント・注意点などの基本がインプットできても、実際に自社でどのように従業員サーベイを活用すればよいのか、具体的なイメージが描きにくい場合もあるでしょう。エンゲージメントサーベイ「TERAS」を例に取って、組織改善に取り組んだ企業の事例を紹介します。自社と似た課題を解決した事例があれば、施策を考案する参考になるはずです。
エンゲージメントサーベイで施設別の課題を可視化「登別立正学園様」
保育園や学童保育施設などを複数運営する登別立正学園様は、職員が長く働ける組織づくりのため、組織改善クラウドサービス「TUNAG(ツナグ)」と、エンゲージメントサーベイ「TERAS(テラス)」を導入しました。導入前の課題は、運営している6施設でそれぞれ情報共有のツールがバラバラで、施設をまたいだタイムリーな情報共有が難しかったことです。
ある施設ではメールで情報共有をしていたため、別の施設にもメールを送信したところ、送信先の施設ではメールを使っておらず返信が来ないという行き違いが生じていました。そこで情報共有を一元化するため、スマホから手軽に利用できて情報のカテゴライズも可能な「TUNAG」を導入します。
同時に職員がエンゲージメントを保って働き続けられるよう、TERASも導入しました。施設ごとの現状・課題を可視化し、次の施策を考案しています。課題と同時に、肌感覚でしか分からなかったチームワークの良さや職員の優しい人柄などの強みも目に見える形にすることで、その強みを伸ばしていくことも可能だと判断しているとのことです。
参考:施設ごとにバラバラだった連絡ツールを一本化。自己肯定感を高め「長く働ける組織」を作る、登別立正学園のTUNAG活用法
エンゲージメントサーベイの結果を経営施策の答え合わせに「山梅様」
エンゲージメントサーベイを含む従業員サーベイの活用方法は、課題の発見だけではありません。経営陣の感覚が合っているかをチェックする使い方もあります。このような活用方法を見いだしている企業の例が、総合造園業を運営する「山梅様」です。
山梅様では業務日報の運営において、リアルタイムに閲覧したりコメントしたりできず、社内でタイムラグが発生するという課題を抱えていました。グループウェアを導入していたものの、社内ネットワークにつなぐ・パソコンを立ち上げる・グループウェアを開くといった動作が手間だったといいます。さらに業務日報にコメントが来ても通知が飛ばない仕様だったため、部下が上司からのコメントを確認するのは次の日報を書くタイミングでした。
このタイムラグを無駄だと感じ、日報にもスマホでアクセスできてコメントもリアルタイムで見られるTUNAGを導入します。タイムラグがなくなったのはもちろん、業務日報に写真や動画を添付したりスタンプでコミュニケーションを取ったりと、社内のコミュニケーションの活性化も実現したようです。
山梅様では面談やヒアリングから従業員の状況を把握しています。その上で、面談・ヒアリングから得た経営陣の感覚と実際のエンゲージメント状態にズレがないかの「答え合わせ」として、TERASを活用しています。TUNAG導入を含む経営施策について、TERASの数値と経営陣の感覚にズレが生じていれば、経営陣の見方が違っていると判断するための指標と捉えているとのことです。
参考:リアルタイムのコミュニケーションをアプリで実現。業務日誌や部署間交流で「社員の喜び」をつくる山梅の事例
施策の優先度の決定にエンゲージメントサーベイを活用「サクラヘルスケアサポート様」
人事や経営上の施策を導入するに当たって、従業員の声は欠かせません。従業員の声を拾って施策の優先度決定にエンゲージメントサーベイを活用している企業の例が、医療関連サービスを提供する「サクラヘルスケアサポート様」です。
中途入社の従業員が多くなっている背景を受け、TERASのサーベイ結果を客観的な物差しとして、施策の優先度を決めています。実際にTERASで業績情報の共有が不足していることが分かり、情報共有の体制の見直しを始めました。入れ替わりのある経営陣の間でも、施策に関する合意形成にTERASを活用していこうと考えているとのことです。
またサクラヘルスケアサポート様では、30超の受託施設で働く500名を超えるスタッフに情報を一元共有するため、TUNAGも導入しています。各施設内で閉じてしまっていた情報共有網が、アプリ内で情報をまとめて共有できるTUNAGの導入によってオープン化されました。
さらに「SHS WAYカード」という独自のサンクスカードを設け、埋もれてしまいやすかった契約社員やパート従業員の業務の功績をたたえる称賛文化の醸成にも成功しています。このような土台づくりの成果も、エンゲージメントサーベイの有効活用につながっていると考えられるでしょう。
参考:「コミュニケーション改善」と「企業文化定着」の鍵は情報のオープン化。社員同士のつながりを深める秘訣とは
従業員サーベイで課題を特定・組織課題を解決
従業員サーベイは、組織の見えにくい課題を特定するのに有効な手段です。目的によって、モラールサーベイ・エンゲージメントサーベイなどの種類を決め、自社に合ったツールを選びましょう。サーベイの実施そのものが初めての場合は、ベンダーの支援があるサービスが安心です。
従業員サーベイを導入・実施するに当たっては、形だけの実施にならないよう注意する必要があります。恣意的な誘導がなく意図が分かりやすい設問、匿名性の確保などの工夫をし、従業員が本音で答えられる従業員サーベイを実施しなければ効果が得られません。従業員の回答負担を減らす工夫も必要です。
自社で従業員サーベイを活用するイメージを持つには、紹介したような事例が参考になります。エンゲージメントサーベイの活用事例からは、ほかのツールや施策ともうまく組み合わせながら、課題の解決に従業員サーベイの結果を生かせることが分かるでしょう。
従業員サーベイで特定すべき課題は、企業によって異なります。紹介したポイントや考えられるデメリット・失敗例を参考にしつつ、試行錯誤しながら自社に合う従業員サーベイの活用法を探してみてください。













